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1 転校生は美少女!

第1話

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「パパ! 朝だよ、起きて!」

 食卓にお皿を並べながら声をかけると、パパが寝ぼけまなこで起きてきた。

「ふぁ~。おはよう、ヒナタ」
「おはよう、パパ。昨日も遅くまで書いてたの?」
「うん……締めきり前でねー。ほとんど寝てないんだ……ふぁ~」

 また大きなあくびをしたあと、洗面所に向かうパパ。
 それだったら、起こすのは、かわいそうだったかな?
 でも、パパはあたしが用意した食事は、どんなことがあっても食べてくれるからなぁ。

 顔を洗って眠気を覚ましたパパがもどってきて、ふたりで食卓につき、「いただきます」した。

 食べ終わって時計を見ると、もうとっくに八時過ぎてる!

「ヤバーッ! もう行かなきゃ!」
「あっ、片づけはパパがやっておくから」
「ありがと。じゃあ、行ってきまーす!」

 ランドセルをつかむと、ダッシュで玄関へ。

「行ってらっしゃい。気をつけて」

 パパのやさしい声に送りだされ、あたしは外にかけだした。


 あたし、桃瀬ももせ日向ひなた。小学五年生。

 パパとふたり暮らしだけど、ちっともさびしくないよ。
 パパは会社勤めではなくて、ちょっぴり売れっ子作家だから、ほとんど家にいて小説を書いてるんだ。
 家事を分担してやっていて、お料理はあたしの担当。
 パパはあたしのつくるご飯を「おいしい、おいしい」って言って、いつも笑顔で食べてくれる。


 五年一組の教室についたのは、朝の会が始まる一分前。

「セーフ!」

 よかったぁ。
 まだ先生は来ていないし、みんな騒がしくしてる。
 ふうっと息をついて、自分の席へ。

「おはよう、ヒナタ」
「おっはよー、りょうちん」

 となりの席の涼ちんとあいさつをかわす。
 涼ちんこと、緑山みどりやま涼ちゃん。
 栗色のロングヘアをツインテールにしていて、かわいらしい顔立ち。
 小三からクラスが同じで、仲のいい女の子だよ。

「ねえヒナタ、とびきりの情報あるんだぁ」

 体をぐっと寄せて、にんまりする涼ちん。

「情報……? どんなの?」
「今日から二組に転校生が来るんだって」
「えっ、ホント!?」
「そういう情報が回ってるよ。女子なんだって。職員室で見たって子の情報によると、すっごく美人らしいの」

 涼ちんは顔が広いし、うわさ話や情報を手に入れるスピードが速いんだよ、昔から。

「美人の転校生かあ……」

 でも。
 今日は五月二十五日。
 転校生がやってくるには、ちょっと珍しい時期のような気もするけれど。

「あとで見に行ってみない?」

 涼ちんに誘われ、返事しようと思ったら、担任の塚原つかはら先生が入ってきた。
 席を立っていた子たちが、あわてて席にもどる。

「起立!」

 号令がかかった。
 あたしは起立しながら、涼ちんに目くばせで「OK」の返事をする。
 同じ学年に転校生がやってくるなんて、立派な事件だし、美少女となれば大事件だ。
 みんなの注目のまとになるはず。
 そんな子と仲よくなれたら、うらやましがられるよね。うふふ。
 まだ顔も知らない転校生と仲よくしているところを想像して、思わず頬がゆるんだ。


     ◆


 一時間目が終わると、あたしは涼ちんといっしょに、となりの二組へと急いだ。

「えっ、すごい!?」

 早くも二組の教室の前には人だかり!
 美少女が転校してきたといううわさが広まって、ひと目見ようと、他のクラスから押しよせたらしい。

「見えないよー」
「押すなってば!」

 廊下で、ちょっとした騒ぎになってる。
 みんな、やじ馬根性、丸出しだよね。
 まあ……そういうあたしも、やじ馬のひとりなんですけど。

「ぜんぜん見えないよぉ」

 人だかりのうしろのほうで、背のびしながら残念そうな涼ちん。
 あたしは性格的に、だまってうしろのほうで我慢できるタイプでもなく。

「こういうときは、強引にいかないとね。ついてきて」
「えっ……わっ」

 あたしは涼ちんの腕をつかんで、人だかりをこじあけていった。

「はいはーい。ちょっとごめん! 通して! ごめんねー」

 大声を出しながら強引に割りこみ、ふたりで最前列を確保!
 えーと、転校生はどこだろう?
 あっ、あそこだ!

 窓ぎわの一番うしろの席。ぐるりと二組の子たちがとり囲んでいる。
 そのスキマから、座っている女の子の顔が見えた。

「うっ……わあ……きれい……」

 思わず声がもれる。
 だって、想像以上に美少女なんだもん!
 長い黒髪ストレートがつやつやと光り、切れ長の瞳は涼しげで上品。
 まるでお人形さんのように現実ばなれした美しさ。
 まわりにバラの花びらが舞っているかのよう……。

 一方、あたしはフツーすぎるくらいフツー。
 肩にかからないショートカットで、くせっ毛だし、あんなに髪をのばしても似合わないだろうな。
 瞳にしたって、あたしはまん丸お目目だ。
 瞬間的に転校生と自分を比べてしまって、思わず苦笑い。
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