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2 太陽と月

第3話

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 次の日。
 学校が終わって、その帰り道。
 涼ちんと別れたあと、あたしはひとり、家に向かって歩いていた。

 一日っても転校生・青柳美月は気になる存在で、さりげなく二組の教室をのぞいたりしたけれど。
 すっかり人気者の美月は、いつも数人のクラスメイトに囲まれていて、話しかけるタイミングがなかったんだ。
 一度、廊下ですれちがったときも、ちらっと姿を見るだけで終わってしまった。
 今日の美月、ストライプのシャツワンピがよく似合ってたなぁ。
 美人な上に、とってもおしゃれ。

「はぁ……」

 思わず大きなため息。
 あたしらしくないかもしれない。
 話しかけたいなら、まわりにだれがいようが、気にせず話しかければいいのに。
 空気読んだり、遠慮するタイプでもないのになぁ。

 昨日、おでこを心配してくれたお礼を言って、それから……それから……?
 会話が続く気がしない。

 てか、そんなことで尻ごみしてたら、「太陽と月」にはなれないよね。
 せっかく「仲よくなれそう」って言ってくれたんだから。
 そうだ! こんなことで悩むのは、あたしらしくない。
 明日こそ、思いきって話しかけてみよう!
 晴れ晴れとした気持ちになって、うつむいていた顔を上げると――。

「……あれ?」

 視界に飛びこんできたのは、洋風の小屋だった。
 アンティークなドアと窓に、レンガ造りの壁。
 おしゃれな立て看板には「あなたのすべてを占います」とチョークで書かれている。
 占いのお店……?
 でも待って、ここは空き地だったはず!?
 今朝も、登校するときにここを通ったけど、こんな小屋なんてなかった!

 足が止まり、じっと小屋を見つめてしまう。
 窓にはカーテンがひかれていて、中は見えないけれど。
 あれ……? 中から、だれかに呼ばれているような……?

 気づけば、あたしはドアの取っ手をつかんでいた。
 ダメだよ! 入るつもりなんて……。

 ギギィ。
 ちょうつがいがきしむ音――。
 自分の意思に反して、あたしはドアを開けてしまった。
 中は真っ暗で、外から入りこんだ光をたよりに目をこらすけれど、どうなっているのかよく見えない。

「――ようこそ」
「わっ!」

 暗闇の奥から声をかけられ、心臓が飛びだしそうになった。

「ご、ごめんなさい! 入るつもりはなかったんです!」

 あやまって、ドアを閉めようとするあたし。

「どうぞ、お入りになって」

 やたらと低い、女の人の声。

「え、えっと、占いのお店ですよね? ごめんなさい、お金もってないので……」
「お金は必要ありません。私は、あなたを待っていたのです」
「は、はあ……」

 どういうことだろう? と不思議に思いつつ、あたしは中に入ってしまった。
 バタン!
 うしろのドアが閉まり、ビクッと肩がねあがる。

 すると、ランプの明かりがともされた。
 ランプが置かれているのは、光沢こうたくのある布がかぶせられたテーブル。
 その前に、フード付きローブをまとった人が座っている。

「さあ、ランドセルをこちらに置いて、お掛けくださいな」

 しわがれた声で言われるまま、あたしはランドセルを棚の上に置いて、イスに座った。
 向かいあわせになったけれど、頭からかぶったフードで顔がよく見えない。
 なんだか魔女みたいな雰囲気だ。

「あの……あたしを待っていたとは……?」

 おそるおそる、問いかけるあたし。
 魔女が口を開き、話し始めた。

「今日、この時間、この場所に少女が現れ、ドアを開けることは、私にはわかっていました。この水晶玉が示していましたから……」

 そう言って、テーブルの中央に置かれているものに両手をかざした。
 きらりと輝く水晶玉。じっと見つめたけれど、何もうつっていない。
 うーん、インチキくさい。
 早くも帰りたくなってきた。

「フツーの人が見ても、何を示しているか、読みとれないでしょう。しかし、あなたには読みとれるはず」

 もう一度、目を皿のようにしてのぞきこんだけれど、何も見えてこない。

「……ダメです」

 あきらめて息を吐きだすと、魔女がげた。

「いいえ。いずれ、あなたはこの水晶玉を使いこなせるようになるでしょう。あなたは特別な少女なのだから……」
「あたしが特別……? そんなこと言われたの初めてです」

 苦笑いすると、魔女は首をふった。

「あなたは選ばれた人間なのです。気づきませんか? この小屋は、フツーの人には見えない。それでも、あなたは入ってきた」
「そうだ! ここ、空き地でしたよね!?」

 あたしは聞きたかったことを思いだして、身をのりだした。
 たった半日で、こんな立派な小屋ができるなんて、あるわけないんだ!
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