警視庁公安部特別公安機動捜査隊。

藤城満定

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『レフト・アイ少尉』を追え!!

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 警視庁公安部に極秘裏に設立してある特別公安機動捜査隊通称『特公隊とっこうたい』は捜査官の人数や官制名などは上層部の極々一部の者しか知らない本当に特別な捜査機関で、主な任務は反社会的組織やテロ組織、左右翼団体などの国家にとって害悪と判断された者の暗殺と国内外における諜報活動である。
 また、特公隊の執務室は警視庁内には存在しておらず、庁舎外の何処かにあるのだが、それを知る者も極々一部しかいない。しかしそれでは給与の支給などの面で問題となるので、表向きは警視庁総務部庶務課に在籍している事になっている。
 まあ、誰が特公隊の捜査官なのかを知る者がいないため、庶務課の誰がソレなのか分からないし、組織そのものの存在自体を知る者もいないので、ぶっちゃけた話し庶務課だろうと会計課だろうとどうでもいいのだ。
 大事なのは、

 正体がバレない。
 存在が明るみにでない。
 職務内容が外部に漏れない。

 この三つだけだ。
 しかし、せめて特公隊の隊長(課長職)の名前だけは教えておこう。
 その人は庶務課課長の槇村紗織警視正である。元々は警備部特別攻撃部隊通称SATの狙撃手スナイパーだったのだが、右目の視力が0.8以下になってしまったので狙撃手としてのプライドからなのか、SATを除隊して刑事部へと転属した。そこへ公安部から特別公安機動捜査隊隊長としてスカウトされ、現在に至るというわけだ。
 特公隊の捜査官は警察官としての落伍者で構成されているのではないかと思われるだろうが、それは間違いだ。成る程確かに通常業務の成績が優れない者や他の警察官達との連携が上手く取れない者が多いのだが、それぞれ何か一つだけは誰の追随を許さない程のを持っている、謂わゆる『一芸に秀でている人』で構成されているので、ある意味では超絶エリートの集団なのである。
 その彼女らがここ二年ほど追っている狙撃系暗殺者がいる。氏名、年齢、性別も不明で、唯一分かっているのは『レフト・アイ少尉』と呼ばれている事だけ。その名前の由来は、必ず左目を狙って狙撃する暗殺手口から来ている。
 暗殺者としての腕前は近年稀に見る程の凄腕で、警備部護衛課のSP達がガチガチに固めた護衛陣形をまるで、

「紙切れで大砲の弾を防ごうとしている」

 とでも言わんばかりに実にアッサリと突破し、何処からともなく狙撃して対象を必ず暗殺してしまう。仮にも天下の警視庁SPだ。優秀でないはずがない。しかしそのSP達を嘲笑うかのような狙撃の技術は陸上自衛隊特殊作戦群に在籍している狙撃手を遥かに上回っている。現にこの暗殺者と同じ狙撃ができるかと顔出しNGで訊ねたところ、悔しそうな目付きで首を横に振ったのだ。つまり、この暗殺者は日本国で最高にして最悪の狙撃手なのである事が証明されたのだ。
 この二年間で『レフト・アイ少尉』によって暗殺された被害者は五十三名。何れも表向きは大企業の社長や重役だが、裏に回れば、殺人、殺人未遂、傷害、詐欺、強盗、誘拐、拉致監禁、強姦、強制わいせつ、放火、違法薬物売買、違法薬物密輸入、銃火器密輸入などなど、罪名を読み上げたらキリがない凶悪犯罪者ばかりで、まるで正義の鉄槌でも下しているかのようだ。
 警視庁上層部はこの暗殺者を第一級危険犯罪者に認定し、現認できたら即座に射殺せよ、とのお達しを出している。それ程に危険極まりない暗殺者なのだが、紗織はこの暗殺者を射殺する気が無かった。それどころか何とかして仲間に引き入れられないかと考えていた。元SATの狙撃手として、これ程の狙撃技術を持つ人物を射殺するのはあまりにも勿体無いと思ったからだ。この技術を特公隊の任務で活かす事ができればこれ程に心強い事はないからだ。
 紗織は部下の捜査官全員に、

「現認、又は素性が割れた場合には射殺ではなく逮捕するように」

 と命令を出していた。
 捜査官達の一年間に及ぶ全力の捜査で遂に『レフト・アイ少尉』の正体が明らかになった。
 喜び勇んで報告書に目を通した紗織は自分の目を疑った。そこには、

『被疑者名、糸井慎之輔。年齢、十八歳。都立東品川高等学校普通科三年生』

 と記されていたからだ。
 何度も何度も読み返してみたものの、報告書の内容が変わるはずもなく、第一級危険犯罪者の正体が都内の男子高校生だという事を事実として認めざるを得なかった。
 十分後、紗織は全捜査官に対して拳銃H&KUSP45と短機関銃H&KMP7A2の携帯と防弾防刃ベストの着用命令を出して『レフト・アイ少尉』こと糸井慎之輔の逮捕に向かった。
 狙撃専門の暗殺者とは言えアレ程の技術を会得しているのが相手だから相当激しい銃撃戦になるのを覚悟していたのだが、

「特公隊の皆さんですね。この度はご迷惑をおかけして大変申し訳ありません」

 糸井慎之輔はペコペコと頭を下げて拍子抜けする程の低姿勢でアッサリと

「(…なんなんのよ、この子は!?もう意味が分かんないわよ!?)取り敢えず手錠はかけるわよ」
「はい。あっ、そうだ。車に乗るんなら後ろ手は勘弁してもらっていいですか?痛いのは嫌なんです」
「…分かったわ。でも、おかしな真似をしたら撃つわよ」
「それはもう。はい。抵抗はしません」

 十八歳と言えば法律で成人扱いなのだが、紗織は平成生まれなので、どうしても子供(未成年者)扱いしてしまう。
 手錠をかけて、目隠しまでして特公隊の執務室があるテナントビルに向かう途中でどうしても気になっていた事を訊いてみた。

「どうして暗殺者になったの?」

 と。
 すると、

「理由なんて、有って無いようなものでしょ?なりたいからなった。やりたいからやった。それ以上でもそれ以下でもありませんよ」

 という返事が返ってきた。
 紗織は、なんとも淡白な理由に何故か納得している自分に驚いた。
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