警視庁公安部特別公安機動捜査隊。

藤城満定

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糸井慎之輔巡査。

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 『レフト・アイ少尉』こと糸井慎之輔の取り調べは半年という長期に及んだ。
 紗織達の調査と本人の自白との擦り合わせと特に凶器であるバレットM82軍用対物狙撃銃やその他の銃火器類の入手経路の調査に時間がかかった。
 慎之輔は米国海軍横須賀基地のマックス・ローダルス少佐から五百万円で本体を、百万円で弾丸百発とマガジン十個を購入したと自供したのだが、当然のようにローダルス少佐は完全否定した。しかし、慎之輔は万が一の時のために購入する際に交わした契約書を保持していたので、幾ら否定しようとも無駄な事だった。
 これを受けて米国海軍憲兵隊はローダルス少佐を厳重に調査し、結果として過去十二年間で海軍装備の銃砲火器類を横流しして、日本円にして一億八千万円も稼いでいた事が判明した。米国本国でもこの事が激しく問題視され、軍法会議にかけられたローダルス少佐は銃殺刑という判決を下された。
 だが、問題は残っている。
 慎之輔の事だ。
 米国海軍将校が横流しした狙撃銃で五十三人もの人々を射殺しているので、これが表沙汰にでもなったら日米間のみならず国際問題にまで発展しかねないからだ。そうなったら両国としてはかなり困った事になる。
 特に外交弱者として有名な日本は世界中からどんな無理難題をフッかけられるか分からない。外務省担当者は頭を抱えて泣き出すし、ストレスとプレッシャーから自殺しかねないくらいに追い込まれてしまっている。
 そこへ待ってましたとばかりに助け船を出したのが紗織だ。紗織はこう提案した。

「警察官にしてしまえば良いのでは?」

 と。

「警察官にして、国家機関に所属させてしまえば監視し易いだろうし、後々何かあった時も対処し易いのでは?」

 身柄は特公隊が引き受けますよと言ったら、警察上層部や各省庁の担当者達は天啓が降ってきたとばかりに驚き、助かったと喜び、早速、慎之輔を警察学校に入校させた。
 慎之輔はいつ処理されても良いと覚悟していたので、これが自分に対する処罰ならばと二つ返事で了承して入校した。
 それから十ヶ月間の学校生活を経て正式に巡査に任官され、まずは東京湾岸警察署地域課に卒配され、一年間の実務経験を積んでから警ら課に転属し、同時に特公隊への正式な配属も行われた。
 配属されたとは言え、全隊員の官制名は教えてもらえなかった。元が第一級危険犯罪者だからというわけではなく、もしも敵組織に捕虜にされて拷問を受けた時に情報が漏れないための措置だ。口を割ろうにも、知らない事は漏らしようがないので、そのためだ。
 特公隊の他の捜査官は全国の都道府県警本部や各所轄署に配属されており、顔を知る事があるとすれば、隊長の紗織から指令が下った時だけだが、今の所、他の捜査官達と会った事は無い。
 慎之輔の業務は警ら課の警察官として日中夜の警らで犯罪者を検挙する事だ。
 相棒は五つ歳上の真鍋瑞穂巡査部長で、警ら課勤続五年というそこそこにベテランの警察官である。二人が組んでから三ヶ月が過ぎた。瑞穂から見た慎之輔は頼もしい新米隊員だった。
 今夜も瑞穂とパトロールしていたら、不審な挙動をした運転手に目が留まった。

「瑞穂さん。今のドライバー、怪しくないですか?職務質問バンかけして良いですか?」

 バンかけとは、警察用語で『こんばんはと声をかける』ところから生まれた言葉だ。

「白のハイエースね。OK。行こうか」

 瑞穂の許可が出たので、パトライトを回してサイレンを鳴らす。

「『前を走る白のハイエース。止まりなさい。繰り返します。白のハイエースのドライバー、左の路肩に止まりなさい』」

 拡声器で呼び止め、路肩に駐車したハイエースに近付こうとした慎之輔の頭の中に警報が鳴った。先を歩く瑞穂の後ろにいた慎之輔はホルスターに手を添えていつでも撃てるようにそっと近付いた。

「こんばんは。ちょっと良いですか?」

 瑞穂がニコやかに声をかけたその瞬間、サイドウィンドーから拳銃が突き出された。
 暗がりでもどう見てもハッキリと分かるくらいの実銃だった。
 咄嗟の事で固まる瑞穂に向けられた拳銃のトリガーがゆっくりと絞られるが、それより早く、ドライバーの右手を慎之輔が撃った。

 パンッ、パーンッ!!

 銃声二発。
 ドライバーは右手の甲と手首を撃たれて悲鳴を上げて拳銃を落とした。

「手を上げろ!抵抗するな!お前らもだ!抵抗すれば射殺するぞっ!!」

 同乗していた三人の男女も拳銃を所持していたが、慎之輔が躊躇いもなく仲間に発砲したのを見て恐怖で竦み上がっているのだろう。大人しく拳銃を車の外に放り投げた。

「真鍋部長。拳銃の回収と本署への応援要請、救急車の出動要請をお願いします」
「り、了解!」

 瑞穂は慎之輔が拾ったのを除く三挺を回収して、無線機で現状説明と救急車の手配と応援要請をしている間に慎之輔は自分が撃ったドライバーの右腕を止血帯で縛って最低限の応急処置を施しているのを横目で見ていた瑞穂は慎之輔に対して空恐ろしい何かを感じていた。
 緊急事態だったとは言え、発砲する事に対して躊躇いが全く感じられなかった事、拳銃を発砲するまでのスピードがあまりにも早かった事、応急処置に慣れ過ぎている事などなど、この三ヶ月間では見る事のなかった顔付きにどう対応していいのか戸惑うばかりだ。
 五分後、駆け付けた本署のパトカーや救急車で、辺り一帯は一時間程通行止めになった。本署に戻された慎之輔は警ら課長と署長からお小言を賜ったが、最後は「良くやった」とのお褒めの言葉も賜った。この頃は警察官による発砲も正当な理由があったと署長が判断した場合は監察部からの調査を受ける事もなくなっていたので、今回はそのに該当していたので、お咎めは無かった。
 その夜、紗織から電話があった。

「どうせなら頭を撃ち抜いてしまえば良かったのに」

 と。
 これには慎之輔も苦笑いするしかなかった。
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