砂漠のガイナス

霜月

文字の大きさ
4 / 22

第3話 トラブル巻き込まれ

しおりを挟む
 役場に入ると、ハンター科の役人が気前良くカウンターから話しかけてくる。

「おーガイナスさん。どうでしたアームドは」
「ほらよ。ちゃんと倒してきたぜ」

 もう何度もやり取りをしていることもあって、完全に顔を覚えられている。
 討伐した証拠の、オレとアームドのツーショット写真を渡す。
 アームドを直接持って来れれば、討伐証明は簡単だか、あんなデカブツを一人で運ぶことなんて出来ない。
 それにいちいちここの持って来ていたら、役場がパンクしてしまう。だからハンターは討伐証明として、倒したアームドと写真を撮り、達成した証とすることが義務付けられている訳だが……。
 オレとしては写真を撮られるのは好きじゃないから遠慮したい。

「こんな大物をよくもまぁ一人で……。分かりました。それでは現地にて確認出来次第、入金させてもらいますね」
「頼んだ。……そうだ、水買いたいんだけど、今日って何ルーペル?」

 その場を去ろうとしたが、もう喉がカラカラだ。踵を返して、役人に尋ねる。

「三十万円ですよ」
「たっけーなぁ」

 三十万円。一般市民のおよそ三ヶ月分の生活資金だ。そんな大金を支払って貰える水も一リットルだけ。
 なんとも世知辛い世の中だ。

「いつも言ってるじゃないですか。配給分だけで我慢しましょうって」
「無茶言うなよ。ハンターなんてやってたら配給分の水じゃ干からびちまうぜ」

 まぁオレは人造人間だから大丈夫なんだけど。と、続く言葉を飲み込み、その場を後にする。
 役場を出て、銀行で金をおろした後目指すは給水場。どこのオアシスでもそうだが、昔とは違って水を自由に使うことは出来ない。
 毎日決まった量は水を定価で買うことが出来、その日を凌いでいる。
 ただ、金があれば話は別。更に水を買うことが出来る。勿論、馬鹿げた量を買うことは許されないし、買い占めなんて発覚した日には死刑もんだ。
 この世界では、水は贅沢品。金よりも価値のあるものだ。
 暫く歩いていくと、ドーム型のオアシスでもっとも巨大な建造物が見えてくる。そここそがこのオアシスに潤いをもたらす給水場だ。
 そこ入る為に長蛇の列が出来上がっており、皆がまだかまだかと水を欲しているのが見える。
 オレはそんな人間達の横を抜けていく。普通こんなことをする奴はいない。全員の奇異な目がオレに向いていた。
 しかし気にせず、給水場の門番の前へと立つ。
 銃を持ち、完全武装。ここを侵す輩がいれば即刻排除すると語る鋭い目がこちらに向く。

「時価で買いに来た。入れてくれ」
「……中に入れ」

 品定めするように上から下まで見られた後、中へ入ることを許してくれるが、いつになったら顔を覚えてもらえるのやら。
 いい加減、顔パスでもいいんじゃないかと言いたいところだが、規律を守る厳格な良い人間だからこそ、門番を任されているのだろう。
 中に入るとドーム内の殆どを埋め尽くす池とご対面、とはならない。残念なことに地下水脈から引っ張って作られた池には厳重に蓋がされている。

「水を一リットル買いにきた。売ってくれ」

 行列から外れた位置にある個人販売の受付に行くと、裸で札束を置く。

「今日は三十万円ですよ」
「分かってるよ。また値上がりしたな」
「最近、水の出が悪いんです。もしかしたらアームドに水脈が壊されてたりしてっ……て、ガイナスさんがもう退治してくれたんで大丈夫ですね」

 そう言いながら、受付の女は札を数える。
 オレがここに来るのは決まってアームドを倒した時だ。だからここの職員達はオレが来ると仕事を終えたのだと察する。
 別にひけらかした訳でもないが、アームド被害が落ち着いたと知れ渡ることは悪いことじゃない。だから気にせず通っている。

「はい、満額いただきました。では少々お待ち下さい」

 個人購入は特別待遇。配給組の順番よりも優先され、すぐに透明なプラスチック容器に入った水が届けられる。

「お仕事お疲れ様でした。またお願いしますね」
「おう、任せろ」

 このオアシスに来て随分と経つ。もうすっかり顔馴染みだな。
 水を片手に給水場を出ると、賑やかな都市部から外れ、陰気な空気の漂う貧民街へと足を運ぶ。
 今にも消えそうなネオンが光るビルの一室。白く塗られて目立つ扉をノックすると、ボサボサで生い茂る雑草のような髪を伸ばしたジト目の女が姿を現す。

「はいはい、どなた……ってガイナスか」
「ほらよマリノ。今回の報酬だ」

 そう言って水の入った容器を投げ渡すと、マリノは「おっとっと」と受け取る。

「いいぜピュイ。出てきても」
「ピ!」

 オアシスに来てからずっと懐に隠れていたピュイが飛び出してくる。
 人目につけばアームドだなんだと騒ぎになるから隠れてもらわざるをえなかった。
 漸く狭っ苦しいところからやっと解放されたのだ。嬉しそうに飛び回り始める。

「さっさと体綺麗してよね。血まみれのままなんて嫌よ、アタシ」
「分かってるって」

 居候している分際だ。家主の機嫌を損ねる訳にはいかない。
 出もしないシャワーと浴槽のある風呂場で、貴重な水を使った濡れタオルを使い、全身を拭いていく。
 服は……もう血塗れで使い回せない。血のにおいもべったり付いてしまっているし、捨てるしかないだろう。そんなことを考えていると、ふとポルンのことが頭に浮かんだ。

「服買い替えたのかな、アイツ」

 まぁもう会うこともないし、気にするだけ無駄か。
 予備の服に着替え、部屋に戻る。
 すると「ぷはぁ!」と景気の良さような声が聞こえてくる。

「ほら、ガイナスも飲みなさいよ」
「お前なぁ……。オレが来るまで待っとけよ」

 人の買ってきた水を浴びるように飲みやがって。
 こっちだって喉がカラカラなのに、そんなのを見せつけられちゃ我慢なんて出来るわけがない。
 用意されていたコップに波々注ぐと、一気に喉に流し込んだ。

「あぁ、うめぇ!」

 細胞の一つ一つが潤いを得て、歓喜の声を上げている。
 仕事の後の一杯。何にも代え難い幸福だ。

「あーちょっと飲み過ぎ!」
「オレが買ってきたんだ。文句言うな」
「今はアタシのよ!」

 マリノの妨害を受けつつも水を堪能した後、オレ達は別室に移動する。
 その部屋は、マリノが診療で使用している場所だ。彼女はこのオアシスで医者をしている。と言っても、闇の方の医者だが。

「うん。体に異常はないわね」

 聴診器を首に掛けたマリノは安心した様子で言う。

「毎回毎回、必要か? オレは人造人間だぞ。人間より丈夫だって何回……」

 言わせれば分かる。そう続けようとすると、被せてマリノがオレの口に指を置いてくる。

「いい? 人造人間だって人間と一緒なの。死ぬと時は死ぬんだから、ちゃんと調べないと駄目。それと、砂漠で倒れてたアナタを助けあげたのは誰だったかしら? 命の恩人に口答えしない」
「はいはい。すみませんでした」

 マリノには燃料が尽きて、砂漠のど真ん中で死にかけていた所を助けてもらった恩がある。だからオレはここにいる間はマリノに逆らえないし、逆らう気もない。恩を仇で返すなんて真似はしない男だ。
 水を渡したのだってその一環。人造人間やピュイを調べたいからと、部屋を貸してくれているが申し訳ないので、家賃として水を渡している。
 だが調べるなんて実際は口だけだ。ただの善意で、得体の知れないオレ達に部屋を貸してくれている。お人好しだ。
 面倒な診察を終え、部屋に戻るとチェーンソーの整備に取り掛かる。

「この時間が一番面倒だ」
「いいじゃない。我慢の出来ないアナタにはピッタリの訓練よ」
「言ってろ」

 こびりついた肉や、入り込んだ砂を取る地道な作業。武器はハンターにとっての生命線だ。嫌でも手は抜けない。
 チェーンやエンジンには問題はなし。これでまたアームドと殺り合える。
 片付けるか。そう思った時だった。
 マリノがつけていたTVから耳を疑う内容が聞こえてくる。

「先日、P.C.108番地にて、町長の御子息であるアナハラヌ氏が殺害されました。警察は、同オアシスに暮らすポルン容疑者をアナハラヌ氏殺害の容疑で追跡中とのことです。現在、ポルン容疑者はP.C.108番地より逃走……」
「物騒ねぇ」
「ポルン……!?」

 TVに映っている容疑者の写真は金髪金目の少女。それはまさしくポルンの写真。
 町長の息子を殺した犯人がポルン? しかも先日。
 別にありえない話ではない。家族を殺されたのだ。町長の家族に手を出すことだって考えられる。
 だが信じられなかった。決意はあれど、あの時見た彼女に人殺しをした気配を感じなかった。博士が死んだ日に見たあの冷たい目を、彼女は持っていなかった。
 困惑が疑問に変わる中、突然、外から悲鳴が聞こえる。

「キャーーー! やめて!」

 女の声。急いで窓から様子を確認すると、そこにいたのは、今まさに殺人容疑で報道されているポルンだった。
 ポルンに絡んでいるのは、貧民街の男三人。絡んでいると言うよりも、捕まえにいっていると言う方が正しいか。
 腕を掴まれて、組み伏せられそうになっている。

「ちょっと! 何してんのよ!」
「助けに行く!」
「ここ三階よ!」

 三階くらいなら落ちたって問題はない。
 オレは窓枠から、一気に男達の前に飛び降りた。
 脚に着地の衝撃が流れ込んでくるが、耐えられない痛みじゃあない。

「なっ、なんだ!?」
「空から!?」
「コイツ、ハンターの……!」

 驚く男達の隙をつき、顎を狙って掌底や蹴りを放つ。
 所詮相手は実戦経験のない素人。簡単に気絶する。

「大丈夫か?」
「ありがとうございます……って、ガイナスさん!?」

 差し出された手を取って、そこで気づいたのかポルンの掴む力が強まる。

「行くぞ。ここでの騒ぎはすぐに警察に伝わる」
「い、行くってどこに……?」
「いいから行くぞ」

 説明は後でいい。とにかく今はこの場から離れなければならない。
 ポルンの手を引いて、マリノの部屋まで走った。
 部屋に着くと、呆れた顔のマリノが出迎える。

「……何してくれてんのよ」
「しょうがねぇだろ。あのままほっとけっか」
「その子、殺人鬼じゃない」
「殺人鬼?」

 身に覚えのない言葉が自分に向けられたことを感じたのか、ポルンが口を開く。
 やはり知らないと見える。

「さっきポルンが町長の息子を殺したってニュースが流れてた。今のアンタはお尋ね者だ」
「なっ……。私、そんなことしてません!」
「でも現にそうやって報道されてたわよ」

 ヤクザが標的を取り逃がしたからといって、ここまでのことをする訳が無い。きっとこの件は町長の判断。自分とヤクザの繋がりがバレる前に、ポルンを殺人鬼に仕立て上げ、発言の信憑性を欠こうとしているのだ。加えて、逃げ道を減らし捕まえに行く。権力者の特権フル活用だ。

「ていうか、アナタ達知り合いなの?」
「アームドに食われてたところを助けたって感じだ。そこで諸々の身の上話も聞いた。ポルンはあんなことをする奴じゃねぇよ」
「そ。分かったわ。ガイナスがそこまで言うなら信じてあげる」

 やけに簡単に信用してくれるもんだ。けどまぁ、こんなアングラな場所で磨き続けた観察眼あってのものだと思うが。
 なにはともあれ、それならこれからどうするかを考えなければならない。殺人犯を匿ったのだ。もう普通の生活には戻れない。

「それで? 実際のところは何したのよ、ポルンちゃんは」

 そしてそのリスクが最も高いのはマリノだ。当然、ポルンの素性は気になる。

「私は……」

 ポルンはオレに話したことと同じ内容をマリノに伝えた。
 改めて聞いても気分のいい話じゃあない。

「なるほどね。まぁ、あそこの町長はいい噂は聞かないから、そんなことも平気でするでしょうね。あのオアシスで過ごしてる人達も随分と苦しい生活をしているらしいし。きっとすぐにここにも追っ手が来るわ」

 するとほら、言わんこっちゃないとばかりに、玄関の扉が壊れる勢いでノックされる。

「アナタ達は薬庫に見つからないように隠れてなさい」

 マリノはTVを消して指示を出してくる。

「オレもかよ」
「当たり前でしょ。アナタさっき傷害起こしたばっかでしょう」
「確かに。ついてこい、こっちだ」

 ポルンを連れ、薬庫へと走る。
 用途の分からない錠剤やら液体に満ちた冷蔵庫の気温は低く、長時間隠れていれば低体温症どころでは済まなそうだ。
 そんな場所にポルンを押し込み、隠れるスペースを作る。

「いいか? 静かにしてろよ。バレたらポルンだけじゃねえ。マリノも終わりだ。アイツはいい奴だから絶対に巻き込みたくない」

 厳密にはもう巻き込んでいるが、疑いなく過ごしてもらう為には、上手くやり過ごすしかない。

「はいはい、どなた……」
「この部屋に殺人犯がいるとのタレコミがあった。捜索させてもらう」
「ちょっと待ってよ! 警察が何の用!? 勝手に入んないで! 何よ殺人犯って!」

 冷蔵庫越しに、微かにだが声が聞こえる。
 あまりにも早い到着だ。元々捜査が行われていたのか。とにかくもうこのオアシスに安全な場所はないと考えていいだろう。

「やめてってば! まずは説明しなさいよ!」

 マリノの言葉に耳を貸す気はないらしい。複数人の足音と手荒く探している音が響いてくる。
 そんな音が診療所に入ってきた。迷いもなく、薬庫に近付いてくる。
 絶体絶命のピンチ。見つからないことを祈って、ポルンを強く抱き締める。
 互いの鼓動が触れる感覚が伝わってくる。脈打つような息遣いが緊張を加速させる。

「ここには入らないで!」
「退け」
「ここには大切な薬が沢山入ってる! 医者の命とも言える場所よ! 汚らわしいアナタ達が入っていい場所じゃない!」
「退けと言った」

 悲鳴と共にマリノが倒れる音がする。
 他人の生活なんてお構い無し。確証もないのに野蛮にもほどがある。
 扉が開き、光が入ってくる。しかし何故か扉は途中で止まった。

「だから……待ちなさいよ」
「はぁ……誰かコイツを捕まえておけ」
「放せ! 放しなさいよ! 訴えてやる! アナタ達はアタシの生活をめちゃくちゃにするつもりか! ボケ! カス! クソ警察!」

 最後の最後まで、マリノは諦めなかった。
 だが捕まっているのか悪態をつくのみだ。
 警察の足音が近付いてくる。
 出来ることは身を屈め、気配を消すのみ。
 寒さからではない。恐怖の震えが、ポルンから嫌というほど伝わってくる。
 強く、強く抱き寄せた。
 どうすればいい。ここで飛び出して、全員倒すしか方法はないのか。
 無意識に奥歯が軋む。決断を間違えればマリノの、ポルンの、オレの人生が詰む。
 こんなところで止まれない。アイツを殺すまでは……。
 覚悟を決めて飛び出そうとした、その時だったーーー
 パリンッと部屋の方から窓ガラスが割れる音が響いた。

「何だ!」
「何かが窓から外へ逃げました!」
「何!? 逃がしたのか! そいつが殺人犯だ! 追え!」
「は!」

 何が起きたのか。足音が遠ざかっていく。

「これでキサマが匿っていたことが証明されたな」
「何言ってんのよ。ただガラスが割れただけでしょ? それに何のことか説明もないのに、匿ってたもなにもないわよ。アタシを捕まえたいのなら、礼状でも持ってきなさい。無能警官」
「キサマ……ッ! 覚えていろ」

 まるで噛ませ犬みたいな捨て台詞を吐いて、警官は去っていった。
 それから暫く隠れ続け、完全に警察がいなくなった後、オレ達は極寒の冷蔵庫から解放される。

「ご、ごめんなさい。私のせいで……」
「いいのよ。アイツらが悪いだけだから。ほんっとにめちゃくちゃにしてっちゃってさ」

 部屋の中は酷い有様だった。ネズミ一匹すら逃がしはしまいという信念を感じるほどに徹底的に探し尽くされ、ゴミ屋敷状態になっている。

「そういやなんでアイツら出てったんだ?」
「きっとあの子よ」

 言うと同時、割れた窓からピュイが入ってくる。

「そういうことか! ピュイが警察を撒いてくれたのか!」
「ピピッ!」

 やってやりましたと言わんばかりに、ピュイは羽を広げる。なんて頼りになる相棒か。
 しこたま撫でてやろう。

「それでポルンちゃんはこれからどうするの? さっにTVで懸賞金もかかっていたし、お兄さんの復讐なんて言ってられないかも」
「懸賞金!?」

 ちょうど垂れ流されているTVにポルンの顔が映る。
 情報提供で三十万円。捕まえた場合は五百万円。

「捕まえたら五百万円!?」

 どうりで貧民街の人間がポルンを襲っていた訳で、警察の到着も早かった訳だ。
 市民からすれば、情報提供するだけで大金が手に入るのだから、放っておく理由がない。それにもしも捕まえられれば豪遊出来る金が手に入る。このオアシス全てがポルンの敵だと考えていいだろう。

「もう捕まるのも時間の問題ね」
「他人事だな」
「ここまで匿ったんだから充分でしょ」
「お前なぁ……」

 もうちょい優しさはないもんかねと思っていると、TVから町長の息子殺害の続報が入ってくる。

「たった今入った情報です。アナハラヌ氏に対する殺人幇助として、ペルリナ容疑者が逮捕されました。繰り返します……」
「ペルリナ……。なんで……」

 隣のポルンの顔が青ざめていく。

「知り合いか?」
「知り合いもなにも、兄の婚約者です。どうして……? ペルリナは何も知らないのに」
「ポルンちゃんをおびき出す為の餌ってところね」
「そんな……。どうしてそこまで」

 確かに引っ掛かるのはそこだ。不正を暴こうとした本人は死んだ。本来なら話はそこで終わる筈なのに、血眼になってポルンを探している。
 ポルンが不正の内容を聞いている可能性があるから? 違う。それならもっと早い段階でポルンも今のペルリナみたいに捕まっているだろう。それどころか、こんな大胆なことをする相手だ。ポルンの兄に近しい人物全員を捕まえるくらいしないとおかしい。
 そもそもポルンが追われるようになったのは、ヤクザから物を盗んだからだ。それがここまで大きな騒動へと発展している。
 つまり町長の本当の狙いはポルンではなくーーー

「ポルン、ネックレスを貸してくれ」
「は、はい」

 確認すべきは目を引くルビーではなく、それについた装飾。

「あの、何を?」

 どこかに違和感はないか。くまなくチェックすると、一箇所だけ蓋になっている場所が見つかる。

「やっぱりな。ポルン、アンタの兄さんはスゲェよ」

 その蓋を開けると、そこからメモリーカードが出てくる。

「きっとこれに不正の証拠が詰まってる。マリノ、確認出来るか?」
「任せて」

 マリノがパソコンにメモリーカードを差すと、ヤクザとの癒着、過剰な徴収、水源のせき止めによる他オアシスへの被害、その他余罪もごろごろと表示される。

「きっとアイツらは不正の証拠を見つけられなかった。そこでどこかに隠されているかもしれないと目をつけたんだろう。そんな折にポルンがネックレスを盗んでいった。町長しちゃあ、このネックレスに証拠があると考えるのも無理はねぇ」
「だからこんなに必死になって」
「そういうことだな。不正の証拠が本当にここにあったのは驚きだろうけど」

 婚約者までも利用する覚悟。ポルンの兄は相当正義感の強い人間と見える。

「だったらこれを公表すれば……」

 ペルリナも開放される。と言いたいのだろうが、そう上手くは行くはずがない。
 今のポルンが何を言ったって聞き入れてもらえやしない。オレやマリノが告発したって、揉み消されて終わるだけだろう。権力者の前では、市民など悉くが脆弱だ。
 となると、強力なパイプがいる。そこを通して不正を世界中に暴露する。決して消せないほど盛大に。

「ポルン、手伝ってやる」
「え?」
「オレもその不正を暴くの手伝ってやるって言ったんだ」
「何で……ですか? ガイナスさんには関係のない話じゃないですか。言ってたじゃないですか、復讐を果たさないといけないんだって」

 勿論それも重要だ。けど、オレにはもう一つやり遂げないといけないことがある。

「少し寄り道したって変わらねぇよ。それに……」

 データにあった水源のせき止め。これが事実なら、断じて許すことは出来ない。人間が渇きに飢えない世界にすることがオレの役目だ。
 それにーーー

「博士の夢を否定するようなことをする町長を許せる訳ねぇだろ」
「ガイナスさん……」
「そうと決まれば行くぞ」
「ど、どこへですか?」
「P.C.255番地だ。そこに信頼出来る人間がいる。安心しろ。婚約者はポルンを捕まえる餌にされてるんだ。手荒な真似なんかされねぇよ」

 必ず不正を大衆の元へ晒してやる。そしてオアシスを正す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

あざとしの副軍師オデット 〜脳筋2メートル義姉に溺愛され、婚外子から逆転成り上がる〜

水戸直樹
ファンタジー
母が伯爵の後妻になったその日から、 私は“伯爵家の次女”になった。 貴族の愛人の娘として育った私、オデットはずっと準備してきた。 義姉を陥れ、この家でのし上がるために。 ――その計画は、初日で狂った。 義姉ジャイアナが、想定の百倍、規格外だったからだ。 ◆ 身長二メートル超 ◆ 全身が岩のような筋肉 ◆ 天真爛漫で甘えん坊 ◆ しかも前世で“筋肉を極めた転生者” 圧倒的に強いのに、驚くほど無防備。 気づけば私は、この“脳筋大型犬”を 陥れるどころか、守りたくなっていた。 しかも当の本人は―― 「オデットは私が守るのだ!」 と、全力で溺愛してくる始末。 あざとい悪知恵 × 脳筋パワー。 正反対の義姉妹が、互いを守るために手を組む。 婚外子から始まる成り上がりファンタジー。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

貞操逆転世界に転生してイチャイチャする話

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が自分の欲望のままに生きる話。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...