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第12話 人造人間の過去
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「ここでならしばらく不自由なく過ごせる。だからそれでいいかい?」
「オレはそれでいいぜ」
「私も大丈夫です」
「ピピ」
水源を得たことにより、水の心配をすることはなくなった。
話し合いの末、オレ達はここで五日間過ごす決定を下した。
盗賊や追手に見つかるといけないので、車はシートを被し、砂に埋めた。
それでここでの生活はどうかというと、はっきり言って最高だ。
建物自体が要塞化しており、外からの侵入は許さない。つまりは外敵に警戒して夜を過ごす必要はないということだ。それがどれだけ貴重で豪華な暮らしか。ここ数日で嫌というほど身に沁みている。
そしてなにより水がある。もちろん量が多い訳では無いので、無駄使いは出来ないが、それでも持っている水だけで、当初の四日間を過ごすとなれば、そうとうキツい生活になっていただろう。
飯もサボテンだけではないし、三人で分け合うには足りる水源。極限状態を強いられてもおかしくない今の状況では、至れり尽くせりの極楽というものだ。
そうして本当に何もなく。ただ平和な時だけが過ぎ、早くも四日目の夜を向かえる。
「あの、ガイナスさん」
この数日の日課となった外の確認を終えて戻ってくると、何やら探るような、申し訳なさそうな、なんとも言えない態度でポルンが名を呼んでくる。
何かしただろうか。
「なんだ?」
「いや、えっとですね……」
なんとも歯切れの悪い。聞きたいことがあるのなら聞けばいいのに。何を今更気を遣うことがあるのだろうか。
「どうしたんだよ」
うつむき加減で、胸の前では手を弄り、そんなもじもじとした様子からは告白でもするのかと勘違いしそうになる。
女性として見るなら、ポルンは魅力的だろう。実際、恋人のふりをされて時はドキッとしたし、告白されてしまえばついOKを出してしまうかもしれない。なんて冗談を考えていると、助け舟が入ってくる。
「ポルンくんはキミの過去を知りたいのさ」
「オレの過去?」
「そう。キミが何を思い、ポルンくんを手伝い、その結果何を成したいのか。明日が終われば否が応でも、全員が渦中に飛び込むことになるなからね。すり合わせておきたいのさ。後悔のないようにね」
「別にそんなことしなくても、前に説明しただろ」
博士の夢の邪魔をする存在だからぶっ飛ばしにいく。そう言った筈なのだが、納得いかなかったのか?
「確かに聞きました。けど、ちゃんとは聞いていません。ガイナスさんがなんでそこまでして、博士の夢を叶えたいのかを聞きたいんです。手伝ってくれるからこそ、ちゃんとガイナスさんのことを知っておきたいんです」
「待て待て待て。それは話が広がりすぎだろ。今はヴェルナーの不正を暴いて、アンタの友人を助ける。それとヴェルナーをぶっ飛ばす。その二つの為に動いている筈だろ。オレの過去も夢も関係ねぇって」
「あります」
「ねぇって」
「あります」
とんでもない圧だ。普段の大人しく、気弱そうな雰囲気なんてどこにない。真剣で真っすぐな目がオレを捕らえて離さない。
ここで無理に断ってもいいが、そうなると今後に支障が出るかもしれない。相互理解を深めることは信頼関係の構築にも影響する。命のやり取りが起きる場において、信頼とは最も強力な武器の一つだ。
ならば折れるべきだろう。別に隠す必要もない内容だ。過去の一つ二つ話して、ポルンの迷いが晴れるなら話してやる。
「分かった。けど面白いもんじゃねぇぞ」
「ありがとうございます」
「僕も興味があったんだ。記事にしていいかい?」
「さすがにそれはやめてくれ」
記事にされてら明らかに今後の生活に出る。ウェルトに書かせたらそうなるに決まってる。ハンターの取材を受けた時に前例があるからな。
「んじゃまぁ、適当なところから話してくぞ」
いざ話すとなると、若干の気恥ずかしさはあるが、一つ咳払いをして、覚悟を決める。
そして忘れもしない思い出を記憶の図書館から引っ張ってくる。
「あれは確か七年前だったな」
※※※
研究所に設けられた、使い道のなくなった用具置き場が、ボクの部屋だった。
部屋だったと言えば、無理やりそうさせられたと勘違いされるかもしれないが、そうではない。
もちろんちゃんとした部屋は用意されている。けれども小綺麗にされて、余分な物のない場所よりも、こうしてとっ散らかって、物で溢れかえっている場所の方が好きだったので、勝手に占領して、第二の部屋として利用していた。
日がな一日、分解して組み立てて、また分解して。成長してから思うのは、そうやって子供ながらに物事の仕組みというものを理解しようとしていたのかもしれない。
「おーおーおー、ガイナスや。今日もまた随分と愉快なことになっておるのぉ」
「じいちゃん」
様子を見に来たのは、ボクを造った博士、じいちゃんだ。
真っ白な髪と髭なので、父ちゃんと呼ぶのは違うかなと思って、グロリアと一緒にそう読んでいる。まぁグロリアの方はジジイ呼びで口は悪いが。やめたらと言っても聞かないのでボクも諦めているし、そもそもじいちゃんは気にしてない。
「なんだガイナス。またガラクタ弄りしてんのかよ。飽きねぇ奴だな」
噂をすればなんとやら。ボクとは対極と言える青髪を携えたグロリアも姿を現す。
「いいだろ別に。何してようがボクの自由だ」
「自由じゃねぇよ。オレ達は何の為に造られた? オアシスを見つける為だ。人類を救う為だ。その為に少しは世の中のことを学ぼうとは思わねぇのか」
背もボクより高くて、少し先に造られたからって、いつもいつも兄貴面ばかりしてくる。
自分はエリートです。みたいな態度が鼻につくから嫌いだ。
それに腕っぷしもある。
「うるさいな!」
「んだよ文句あんのか?」
「あるから言ってるんだ!」
喧嘩を挑めばどうなるか。
「テメェじゃオレには勝てねぇよ」
「くそぉ……」
当然こうなる。
全敗。これまでだって一度も勝てたことはない。
手も抜かないから毎度ボコボコ。何度血の味を味わったか。何度天井を見たか。
こっちは息が上がっているのに、あっちは手間掛けさせやがってと文句を言いたげに手を払うだけ。
ムカつくが、その強さと生真面目さは一応尊敬している。
「ほどほどにしておくんじゃよ、二人共。お主らは喧嘩をする為にではなく、手を取り合う為に一緒におるんじゃ」
「けどよジジイ。こんなに弱くちゃ話にならねぇよ。足引っ張って野垂れ死ぬのが関の山だ。外の世界じゃやってけねぇよ」
「今はまだそうかもしれんが、ガイナスも大きくなればグロリアと同じくらい戦えるようになる。アームドなんて簡単に倒せるようになる」
「だといいけどな」
期待はしてないけど、と後ろに言葉を隠しているのが丸わかりだ。
文句を言ってやりたかったが、連続でボコボコにされるのはゴメンだ。悔しいが言い分も分かるしで、黙っておく。
そうして結局何をしに来たのか、ボクをボコボコにするだけしてグロリアが去っていった後、じいちゃんが自分のハンカチを使って鼻血を拭いてくれる。
「大丈夫だよ。人造人間なんだから傷なんてすぐに治るって」
払いのけようとするが、じいちゃんは手を退けない。構わずに拭いてくる。
「そうだとしても、我が子が怪我をして心配せん親はおらん」
「……うん」
小さな研究所での三人での暮らし。外の世界を知らないから、これが普通なのか、恵まれているのか、そうではないのかなんて分からない。
けれども嫌な生活じゃあなかった。
たまに嫌なこと、原因はグロリアだが、そんなことがあっても些細なことだと思える生活。
そんな日々がずっと続くと思ってた。
だけど現実はそうじゃなかった。ボクの知らないところで、溝が深まっていっていたんだ……。
そんな日から何日か経ったある日のこと、いつものように用具置き場に向かっていると、通り道の研究室から、じいちゃんとグロリアの言い合う声が聞こえてきた。
「お主はまだ子供じゃろう」
「人間と一緒にすんじゃねぇよ! オレは外に出たってやっていける! アンタの望みを叶えられる!」
「外の世界を舐め過ぎじゃ。外にはアームドに、悪意のある人間。お主の害となるものが大勢おる。それにおぬしは純粋過ぎる。一人では行かせられん」
「んだよ……。意味分かんねぇ……」
「グロリア。お主が大切だから言っておるんじゃ。分かっておくれ。もう少し、あと少し、ガイナスが成長するまで待ってくれんか?」
「ちっ……、分かったよ」
随分と揉めているらしいが、グロリアは外に早く行きたいらしい。
ことの詳細が分からなくても、その原因が自分にあることは聞けば誰だって分かる。その日はどうしようもなく気まずくて、申し訳なくて、足が用具置き場には向けられなくて、部屋に戻って大人しくしていた。
そうして一日中考えた。子供心ながらにどうすればグロリアがじいちゃんと喧嘩しなくて済むかを。家族が喧嘩している姿なんて見たくはなかったから。
そうして考え抜いて、翌日、ボクは早起きして四時くらいにグロリアの部屋に行った。
「なぁグロリア」
「あ? なんだよ。邪魔すんじゃねぇよ」
鍵なんてない扉を開けると、グロリアは熱心に机に向かって、何やら勉強をしていた。
ちらっと見えた内容は複雑な図形や文字ばかりで、何がなんだか分かる筈もないが、それがじいちゃんの夢の手伝いの為だということくらいは分かる。
「外に行ってみないか?」
「何言ってんだ。バカか。外に行くなんてジジイが許す訳ねぇだろ」
「で、でもずっとここにいたって変わらないだろ」
外に出れば、グロリアも気持ちが発散出来るのではないかと思った。
じいちゃんには後で怒られるだろうけど、皆が仲良くする為にはそれが最も最適な選択だと思い行動した。
「ほらこれ、持ってきたんだ」
「おま……っ、何やってんだよ!」
外へ出る為のカードキーを見せると、グロリアは驚きのあまり、勉強道具を吹き飛ばす勢いで立ち上がる。
「しー。じいちゃん起きちゃう」
「バカかお前! 怒られるどころじゃ済まねえぞ!」
ヒソヒソと怒ってくるが、奪い取らない辺り、気持ちは同じということだ。
しかし生真面目故にあと一歩、煮えきらない気持ちの狭間から出られないでいるらしい。
「でも行くだろ?」
聞くと、グロリアは頭を掻いた後、大きく息を吸い込む。
「分かった。行ってやるよ。ジジイにバレねぇようにすぐに戻るぞ」
「うん」
どうやら覚悟を決めたらしい。
ボク達はそそくさと地上へと繋がる扉を目指した。
じいちゃんは寝坊助なので、八時くらいまでは絶対に起きない。それもボクかグロリアが起こさないと起きないくらい熟睡する人だから、この時間に起きてくることは絶対にない。
だけど一応念の為にエレベーターは使わないで、歩いていく。
「お前なんで外に行きたんだよ」
「……」
「あれか? オレとジジイが言い合ってるところ見たからだろ」
「え? なんで……」
気付いていないと思ってたのに。
「分かりやすいんだよ。いっつも物置きにいるお前がいねぇし、かと思えばこんなことをして。外に興味のないお前がこんなことをする理由なんて必然的に分かるだろ」
「じゃあ……やめとくか?」
「やめるとは言ってねぇ」
「素直じゃないな」
「うっせぇ、ぶっ飛ばすぞ」
前を歩くグロリアの顔は見えなかったが、恥ずかしがっているのが分かる。
珍しいものを見たので思わずニヤついてしまう。
長い階段を登り続けて、いつになったら着くのかと、飽きが来始めた頃、ようやくゴールに辿り着く。
「ほら開けろよ」
「外に出るんだ……」
緊張で口が乾く。それまで特段興味なんてなかったのに、見たことのない世界への第一歩に体が震える。
それはグロリアも同じだった。
震える手で、機械にカードをスキャンさせると、扉が一瞬にしてスライドする。
遂に地上の景色を拝む。と思ったのだが、出た場所は誰もいない民家の中だった。
「あれ? どうなってるの?」
「カモフラージュだろ。ジジイの研究は一人でやってんだよ。バレたら面倒なことになるから隠してんだ」
「なるほど」
色々と事情があるらしい。それをグロリアは知っているという訳だ。
ということは一人だけ仲間外れにされてる?
いやまぁ、どうせ言ったところで分からないと思われているのだろう。実際そうだし。だから別に気にしてない。
それよりも外へ行きたいのだ。
書斎と思わしき場所から出て、くねくねと通路を進んでいくと玄関に着く。
「今度こそ外に行くんだな」
「ボクが開けたい」
「好きにしろ」
「ありがとう」
ドアノブに手を掛けると心臓が高鳴る。
この先に、見たことのない世界が広がっている。
どんな景色なのだろうか。どんな人がいるのだろうか。賑やかな人々の顔が、楽しげな会話が頭に浮かぶ。
期待と不安を胸に抱き、扉を開けるとそこはーーー
「え?」
「は?」
混沌とした世界だった。
乾ききった空間を歩くのは、ヒビを割れた肌に死んだような目を持つ人々。
渇きという名の地獄を彷徨う亡霊の世界だった。
「なんだよこれ。いくら水不足だからって、ここまで酷いもんなのかよ。資料と全然違うじゃねぇか……」
愕然とその光景を見るグロリアは、視界の先に横たわる、一人の男の人に歩み寄っていく。
「……大丈夫ですか?」
未知の世界であろうと臆せず進むグロリアとは対照的に、ボクはその背に隠れ、男の人を覗いた。
まるで屍。しかし生きている。
ミイラという言葉が似合うその人は、突然グロリアに掴みかかる。
「水を……水をくれぇ……」
その声は渇れきっており、まるでノイズの掛かったテレビの様だ。
全身が潤いを求めている。出来ることなら助けてあげたい。しかし、その術をボクもグロリアも持ち合わせていない。
「すみません。水はないんです」
グロリアは申し訳なさそうに、離れようとするが、その手は食い込むほどに強く握り締め、放そうとしない。
「放してください」
「お前らそんな姿してんだ! 水あるんだろぉ!」
突然の豹変に体が強張る。
乞食なんてなま優しいものじゃない。その姿は生存の為、なりふり構わず襲い掛かる獣そのもの。
「放し……放せ!」
ボクは恐怖で固まってしまっていた。グロリアもきっとそうだった筈だ。だがこのままではどうなってしまうのか。そんな未来を想像したのだろう、男を蹴り飛ばした。
「行くぞ!」
グロリアは僕の手を取って走った。
後ろから男の怒号が聞こえたが、振り向きはしない。前だけを向いて、ボク達は一心不乱に走った。
「待って、待ってよ」
どれくらい走ったのだろうか。息切れして、足が痛くなって、気が付くと、目の前には一際大きな建物があった。
「これは給水場か」
多くの人が出入りしている。中から出てくる人々は、まるで愛しの我が子を抱くように、水の入った容器を抱いている。
これまでの博士に食事を与えられた日々では知ることのなかった異様な現実に、ボクだけでなく、知識として知っていたであろうグロリアも目をみはっていた。
「皆、苦しそう」
「当たり前だろ。水は命。それを自由に飲めないんだ。誰しもが飢えてるんだ」
グロリアはどこか苛立ちを募らせた様子で「それに」と続ける。
「このオアシスは水が全然ないんだよ。乾季が来んだ」
「かわいそう……」
「そう思うんだったら、ガラクタ弄りしてんじゃねぇよ」
「ごめん……」
全くもっての正論だ。言い返せる言葉もない。
「帰るぞ」
グロリアは急に踵を返すと、一人歩き始める。
「え? もう?」
「充分見ただろ」
「でもせっかく外に来たんだし」
「オレ達は遊びに来た訳じゃねぇ」
突き放すように言って、グロリアはこちらを向くことなく歩いていく。
その背を走って追いかけると、怒っているのか、とても話しかけられる様な雰囲気ではなかった。
本当はもっと外の世界を見たかった。まだ全然見れていないから。それでも一人で探索する勇気はなかったので、大人しくグロリアについて研究所に帰った。
幸いにもまだじいちゃんは寝ていて、バレることはなかった。
いつものように振る舞って、外に出たことなんて悟らせずに過ごした。小さな探検の思い出を胸に隠して。
その日から、グロリアとじいちゃんが言い合っている場面を見ることはなかった。
皆で仲睦まじく、いつもの日常が戻って来た。外の世界を見て、グロリアも満足してくれたんだと、そう思っていたんだ。その時は……。
一週間後、外の世界の勉強を部屋でしていると、じいちゃんが慌てた様子で駆け込んで来た。
「ガイナス! グロリアを知らんか!?」
「グロリア? 何で?」
「いないんじゃ! どこにも!」
耳を疑った。嫌な予感が脳裏を過った。
まさか。嘘だ。仲直りして、元に戻った筈なのに。
しかしそれは幻想だった。
「まさか外に行ったんじゃ……。じいちゃん、カードキーは!?」
急いでカードキーを置いてある場所を確認すると、本来あるべき場所からそれは消えていた。
「グロリア……」
ならば行き先は一つしかない。
オレとじいちゃんは外に繋がる民家へと走った。
するとそこには書き置きが一つ。【世話になった。旅に出る】と。
「なんてことを……。一人で行ってはならんとあれほど……」
膝から崩れ落ちたじいちゃんの目からは涙が溢れていた。
「ボクのせいだ……」
そこでようやく気付いた。グロリアが出て行ったのは自分のせいだと。
外の世界を見せたから。ブレーキになったと思っていた行いは、背中を押す行為でしかなかったのだと。
「ごめんじいちゃん……。ボクのせいでグロリアは出て行っちゃったんだ……。外の世界を見に行かせたから」
謝って許されることではない。許されたいと思って言ってはいない。責められるべきだと覚悟して言ったのだから。
けれど自分の知らぬ本心では、ただ罪を自白することで、この罪悪感を少しでも軽くしたかったのだろうと思う。じいちゃんなら責めたりしないと分かっていたから。その優しさに甘えたのだ。
「外に……出たのか? いや、それは今はいい。よく、教えてくれた」
案の定、じいちゃんは優しく抱き締めてきた。
細い手だ。だけど温かくて、心が安らぐ、大きな手。
ボクはどうしようもない人造人間だ。こんな時に、この時間が永遠に続けばいいと、邪な考えが湧く、卑しい人造人間だった。
それからというもの、じいちゃんは必死になってグロリアを探した。色々なところに電話したり、自分の足で探したり。そこにオレもついて行った。
「もっと、もっと早くに外の世界を見せてやるべきじゃった。グロリアが外の世界に興味を持っておったのは知っていた。しかし、何かあってはならんと、お主達を信じられなかった。子供だと、守ってやらねばと、そう思い込んでおった」
探し始めて一ヶ月半。グロリアの足取りは一切掴めていなかった。
オアシスの一角でベンチに腰を下ろすじいちゃんの背中は、あの日から小さくなっている気がする。
このままではグロリアを失った重責で、じいちゃんは潰れてしまう。
そんなのは嫌だ。だからオレはある決意をした。
「じいちゃん。ボク……、いや、オレがじいちゃんを支える。グロリアが帰って来るまで。何で出て行ったのかは分からないけど、帰って来る場所があるんだ。いつかふらっと帰ってくるよ。だからさ、それまではオレがグロリアの分まで働く。じいちゃんの夢を叶えてみせるよ」
「ガイナス……」
アイツはじいちゃんを、この場所を嫌いになって出て行った訳じゃない。きっとまた帰って来る。その日がいつになろうと、居場所を守る。それが、今のオレに出来る精一杯の償いだ。
それからというもの、オレは一切用具置き場には行くことはなくなった。
勉強に鍛錬に手伝い。これまでとは住む世界が異なるのではという日々を送った。それと同時にグロリアの凄さを実感した。
「ガイナスや。ようやく出来たぞ!」
そんな日々がどれくらい続いただろうか、いつものように頭を悩ませながら、世界地図を研究室で眺めていると、じいちゃんが興奮気味に駆け込んでくる。
「どうしたんだよ」
「遂に完成したんじゃ。オアシスを見つける為の、お主の相棒が」
その腕に抱える巨大な箱が微かに揺れている。
ずっと精密な機械があるからと立ち入り禁止にされていた場所に入り浸っていたことは知っていたが、また何かを造っていたとは。
中に生命体がいることは確定。まさか犬や猫か?
じいちゃんが箱を開けると、そこには丸っこい黄色の生き物がいた。
球体の体に備わった大きな羽と足。鳥の出来損ないみたいな、おそよこの世の生物のどれにも当てはまらない外見。
「まさかアームド……」
一瞬身構えるが、子供のように目を輝かせるじいちゃんを見ると、それは間違いだと分かる。
いや、もしかしたらアームドなのかもしれない。しかし害はないのだと感じ取れる。じいちゃんに対する信頼が、目の前の生物にも適応されている。
「こやつの名はピュイじゃ。こやつは水場を探知出来る能力が備わっておるからの。二人で協力してオアシスを見つけてほしいんじゃ。未来の子らに辛い思いはさせたくない為にも。それにお主もそろそろこんな場所は窮屈じゃろ」
「じいちゃん……」
ようやく認めてもらえたという感動と、遂に使命を果たす時が来たという重圧が胸を鳴らしてくる。
それだけじゃあない。これでグロリアを探す範囲も広げられる。旅の中で出会えるかもしれない。
「ありがとう! ピュイだったよな。よろしくな!」
「ピ!」
どこに目があるのか分からないが、体を少しこちらに向けて、ピュイはよろしくと言わんばかりに羽を上げる。
やはり悪い奴じゃあなさそうだ。
それから三日後。オレとピュイは研究所を旅立つ為の準備をしていた。
「ピュイ、それ取ってくれ」
「ピピ」
短い付き合いだというのに、すっかり仲良くなって、これからの不安なんてなくなりそうだ。
そんな明るい気分の中、荷造りを進めていると、研究所内に警報音が鳴り響く。
「まさか!」
足がもつれそうになる勢いで走った。
この警報音は外からの侵入を知らせる為に作られたものだ。設置の目的は、外敵の存在を知らせる為ではない。家族の帰りをいち早く知る為。吉報にいの一番に気付く為なのだ。
「グロリア! 帰ってきたのか!」
研究室へと走った。グロリアなら帰還したことをじいちゃんに報告しに行くと思ったから。
外に出ていたのだ。どんな風に成長したのだろうか。オレが旅に出られるようになったと知ったらどれくらい驚くだろうか。ピュイを見たらどんな反応をするだろうか。
山のように積み上がった想いが、今にも口から零れ落ちそうになる。
しかし今はまだ飲み込む。吐き出すのはグロリアに会ってからだ。会った瞬間に全部出してやる。
「グロリアおかえ……り……」
けれど、そんな時は来なかった。
研究室の扉を開けて映った光景に、喜びといった感情は全て消し飛んでしまった。
代わりに吐き出されそうになったのは、困惑という名の感情だった。
「……え?」
脳が処理を拒んだ。意味が分からないと、現実を突き返した。
動悸が起きた。呼吸が早まり、息が充分に吸えない。
「よぉ、ガイナス。久し振りだな」
それでも現実を理解しない訳にはいかなかった。
じいちゃんが倒れている。地面に血溜まりを作って。
それが誰による犯行か。一目瞭然だ。
「何を……、何をしてんだよ! グロリアァ!」
火山の噴火の如く感情が湧いた。
言葉だけでは収まりきらない怒りが体を突き動かした。
しかし気付くと後頭部への衝撃と共に、天井を見ていた。
「喚くなよ」
服に血が染みてくる。まだ温かい。そして同時に証明される。それが本物の血だと。じいちゃんから流れてきているのだと。
「どういうつもりだ!」
掴み掛かり、問い詰めるが、グロリアは微動だにしない。
「ゴミ共を救うなんて戯言抜かすからだよ」
その目には光がなかった。一切を通さぬ漆黒の闇。そして見る者が気圧されるほどの圧を放っていた。
思わず固まった。見たことのないグロリアに恐怖を覚えた。
しかしそれは一瞬。すぐに現実に引き戻される。
「意味分かんねぇよ!」
腕を振りかぶった。すると、体が宙を舞った。先ほどよりも強い衝撃が体を走る。
「ぐっ……」
「弱ぇな」
靴底が映ったかと思うと、意識を持っていかれる威力の痛みが頭部に鳴り響く。
何度も何度も何度も。防ぐ隙すらなく踏みつけられた。
攻撃が止んだ頃には、視界の殆どが閉じていた。頭も回らず、痛みは一周回ってなくなっていた。
「待……て……」
「待て? 待つ訳ねぇだろ。敵討ちも出来ねぇガキは一生そこで寝てろ。殺してぇんだったら這ってでも追ってこい」
「グロ……リア……。何……で……」
去りゆく背中に呼び掛けるが返事はない。
動くことも出来ず、空間には乾いた足音と、ピュイの心配する声が反響するのみだった。
そして限界の来たオレの意識はそこで途絶えた。
不甲斐なさと後悔と疑問、悲しみ。そして消えることのない怒りを胸に残して……。
※※※
「てな訳で、オレはその後は生計を立てる為にハンターをやりつつ、夢半ばで倒れた博士の望みを叶えることとグロリアを探してるって訳だ。アイツが何で博士を殺しのか。それを聞き出してから殺す。どんな理由があろうとオレは絶対にアイツを許さねぇ」
迷いはない。躊躇もない。同情もない。あの日、覚悟は決めた。
外でなにかあったのだろう。しかしそれは親殺しをしていい理由にはならないから。
「そんなことが……あったんですね」
「ていうか、ガイナスって今何歳なんだい? 随分と幼い頃の話に聞こえたけど、七年前なんだろう?」
「ウェルトさん、今そんなこと聞く雰囲気じゃなかったじゃないてすか」
全くもってポルンの突っ込み通りだが、まぁこれがウェルトの通常運転だ。それに変にかしこまられると、こちらもやりにくくなる。この通常運転はありがたい。
「言ってなかったか? オレは十一だ」
「十一!? 十一歳って言いました!?」
ポルンが驚きのあまり、顎が外れん勢いであんぐりと口を開ける。
「人造人間は成長速度が速いんだよ」
「驚きだね……」
ウェルトも予想打にしていなかった返答なのか、面食らって固まっている。
それもそうだろう。見た目は十代後半の見た目で実年齢が前半となれば、誰だって理解に苦しむ。逆の立場ならオレもそうなる。
「ガイナスさん。ありがとうございます。話してくださって」
「別に気にすんなって」
「そうそう。気にしなくていいよ」
「ウェルト。お前はどの立場だよ」
「ふふ」
ポルンが笑うと、思わずつられて笑いが起きた。
気を張ってばかりのここ数日の中に差し込んだ幸せな時間は、緊張をほぐしてくれる。
明日が終われば、また修羅の道へと足を踏み入れることになる。だから今だけは、この時間を楽しんでおきたいと思わずにはいられなかった。
「オレはそれでいいぜ」
「私も大丈夫です」
「ピピ」
水源を得たことにより、水の心配をすることはなくなった。
話し合いの末、オレ達はここで五日間過ごす決定を下した。
盗賊や追手に見つかるといけないので、車はシートを被し、砂に埋めた。
それでここでの生活はどうかというと、はっきり言って最高だ。
建物自体が要塞化しており、外からの侵入は許さない。つまりは外敵に警戒して夜を過ごす必要はないということだ。それがどれだけ貴重で豪華な暮らしか。ここ数日で嫌というほど身に沁みている。
そしてなにより水がある。もちろん量が多い訳では無いので、無駄使いは出来ないが、それでも持っている水だけで、当初の四日間を過ごすとなれば、そうとうキツい生活になっていただろう。
飯もサボテンだけではないし、三人で分け合うには足りる水源。極限状態を強いられてもおかしくない今の状況では、至れり尽くせりの極楽というものだ。
そうして本当に何もなく。ただ平和な時だけが過ぎ、早くも四日目の夜を向かえる。
「あの、ガイナスさん」
この数日の日課となった外の確認を終えて戻ってくると、何やら探るような、申し訳なさそうな、なんとも言えない態度でポルンが名を呼んでくる。
何かしただろうか。
「なんだ?」
「いや、えっとですね……」
なんとも歯切れの悪い。聞きたいことがあるのなら聞けばいいのに。何を今更気を遣うことがあるのだろうか。
「どうしたんだよ」
うつむき加減で、胸の前では手を弄り、そんなもじもじとした様子からは告白でもするのかと勘違いしそうになる。
女性として見るなら、ポルンは魅力的だろう。実際、恋人のふりをされて時はドキッとしたし、告白されてしまえばついOKを出してしまうかもしれない。なんて冗談を考えていると、助け舟が入ってくる。
「ポルンくんはキミの過去を知りたいのさ」
「オレの過去?」
「そう。キミが何を思い、ポルンくんを手伝い、その結果何を成したいのか。明日が終われば否が応でも、全員が渦中に飛び込むことになるなからね。すり合わせておきたいのさ。後悔のないようにね」
「別にそんなことしなくても、前に説明しただろ」
博士の夢の邪魔をする存在だからぶっ飛ばしにいく。そう言った筈なのだが、納得いかなかったのか?
「確かに聞きました。けど、ちゃんとは聞いていません。ガイナスさんがなんでそこまでして、博士の夢を叶えたいのかを聞きたいんです。手伝ってくれるからこそ、ちゃんとガイナスさんのことを知っておきたいんです」
「待て待て待て。それは話が広がりすぎだろ。今はヴェルナーの不正を暴いて、アンタの友人を助ける。それとヴェルナーをぶっ飛ばす。その二つの為に動いている筈だろ。オレの過去も夢も関係ねぇって」
「あります」
「ねぇって」
「あります」
とんでもない圧だ。普段の大人しく、気弱そうな雰囲気なんてどこにない。真剣で真っすぐな目がオレを捕らえて離さない。
ここで無理に断ってもいいが、そうなると今後に支障が出るかもしれない。相互理解を深めることは信頼関係の構築にも影響する。命のやり取りが起きる場において、信頼とは最も強力な武器の一つだ。
ならば折れるべきだろう。別に隠す必要もない内容だ。過去の一つ二つ話して、ポルンの迷いが晴れるなら話してやる。
「分かった。けど面白いもんじゃねぇぞ」
「ありがとうございます」
「僕も興味があったんだ。記事にしていいかい?」
「さすがにそれはやめてくれ」
記事にされてら明らかに今後の生活に出る。ウェルトに書かせたらそうなるに決まってる。ハンターの取材を受けた時に前例があるからな。
「んじゃまぁ、適当なところから話してくぞ」
いざ話すとなると、若干の気恥ずかしさはあるが、一つ咳払いをして、覚悟を決める。
そして忘れもしない思い出を記憶の図書館から引っ張ってくる。
「あれは確か七年前だったな」
※※※
研究所に設けられた、使い道のなくなった用具置き場が、ボクの部屋だった。
部屋だったと言えば、無理やりそうさせられたと勘違いされるかもしれないが、そうではない。
もちろんちゃんとした部屋は用意されている。けれども小綺麗にされて、余分な物のない場所よりも、こうしてとっ散らかって、物で溢れかえっている場所の方が好きだったので、勝手に占領して、第二の部屋として利用していた。
日がな一日、分解して組み立てて、また分解して。成長してから思うのは、そうやって子供ながらに物事の仕組みというものを理解しようとしていたのかもしれない。
「おーおーおー、ガイナスや。今日もまた随分と愉快なことになっておるのぉ」
「じいちゃん」
様子を見に来たのは、ボクを造った博士、じいちゃんだ。
真っ白な髪と髭なので、父ちゃんと呼ぶのは違うかなと思って、グロリアと一緒にそう読んでいる。まぁグロリアの方はジジイ呼びで口は悪いが。やめたらと言っても聞かないのでボクも諦めているし、そもそもじいちゃんは気にしてない。
「なんだガイナス。またガラクタ弄りしてんのかよ。飽きねぇ奴だな」
噂をすればなんとやら。ボクとは対極と言える青髪を携えたグロリアも姿を現す。
「いいだろ別に。何してようがボクの自由だ」
「自由じゃねぇよ。オレ達は何の為に造られた? オアシスを見つける為だ。人類を救う為だ。その為に少しは世の中のことを学ぼうとは思わねぇのか」
背もボクより高くて、少し先に造られたからって、いつもいつも兄貴面ばかりしてくる。
自分はエリートです。みたいな態度が鼻につくから嫌いだ。
それに腕っぷしもある。
「うるさいな!」
「んだよ文句あんのか?」
「あるから言ってるんだ!」
喧嘩を挑めばどうなるか。
「テメェじゃオレには勝てねぇよ」
「くそぉ……」
当然こうなる。
全敗。これまでだって一度も勝てたことはない。
手も抜かないから毎度ボコボコ。何度血の味を味わったか。何度天井を見たか。
こっちは息が上がっているのに、あっちは手間掛けさせやがってと文句を言いたげに手を払うだけ。
ムカつくが、その強さと生真面目さは一応尊敬している。
「ほどほどにしておくんじゃよ、二人共。お主らは喧嘩をする為にではなく、手を取り合う為に一緒におるんじゃ」
「けどよジジイ。こんなに弱くちゃ話にならねぇよ。足引っ張って野垂れ死ぬのが関の山だ。外の世界じゃやってけねぇよ」
「今はまだそうかもしれんが、ガイナスも大きくなればグロリアと同じくらい戦えるようになる。アームドなんて簡単に倒せるようになる」
「だといいけどな」
期待はしてないけど、と後ろに言葉を隠しているのが丸わかりだ。
文句を言ってやりたかったが、連続でボコボコにされるのはゴメンだ。悔しいが言い分も分かるしで、黙っておく。
そうして結局何をしに来たのか、ボクをボコボコにするだけしてグロリアが去っていった後、じいちゃんが自分のハンカチを使って鼻血を拭いてくれる。
「大丈夫だよ。人造人間なんだから傷なんてすぐに治るって」
払いのけようとするが、じいちゃんは手を退けない。構わずに拭いてくる。
「そうだとしても、我が子が怪我をして心配せん親はおらん」
「……うん」
小さな研究所での三人での暮らし。外の世界を知らないから、これが普通なのか、恵まれているのか、そうではないのかなんて分からない。
けれども嫌な生活じゃあなかった。
たまに嫌なこと、原因はグロリアだが、そんなことがあっても些細なことだと思える生活。
そんな日々がずっと続くと思ってた。
だけど現実はそうじゃなかった。ボクの知らないところで、溝が深まっていっていたんだ……。
そんな日から何日か経ったある日のこと、いつものように用具置き場に向かっていると、通り道の研究室から、じいちゃんとグロリアの言い合う声が聞こえてきた。
「お主はまだ子供じゃろう」
「人間と一緒にすんじゃねぇよ! オレは外に出たってやっていける! アンタの望みを叶えられる!」
「外の世界を舐め過ぎじゃ。外にはアームドに、悪意のある人間。お主の害となるものが大勢おる。それにおぬしは純粋過ぎる。一人では行かせられん」
「んだよ……。意味分かんねぇ……」
「グロリア。お主が大切だから言っておるんじゃ。分かっておくれ。もう少し、あと少し、ガイナスが成長するまで待ってくれんか?」
「ちっ……、分かったよ」
随分と揉めているらしいが、グロリアは外に早く行きたいらしい。
ことの詳細が分からなくても、その原因が自分にあることは聞けば誰だって分かる。その日はどうしようもなく気まずくて、申し訳なくて、足が用具置き場には向けられなくて、部屋に戻って大人しくしていた。
そうして一日中考えた。子供心ながらにどうすればグロリアがじいちゃんと喧嘩しなくて済むかを。家族が喧嘩している姿なんて見たくはなかったから。
そうして考え抜いて、翌日、ボクは早起きして四時くらいにグロリアの部屋に行った。
「なぁグロリア」
「あ? なんだよ。邪魔すんじゃねぇよ」
鍵なんてない扉を開けると、グロリアは熱心に机に向かって、何やら勉強をしていた。
ちらっと見えた内容は複雑な図形や文字ばかりで、何がなんだか分かる筈もないが、それがじいちゃんの夢の手伝いの為だということくらいは分かる。
「外に行ってみないか?」
「何言ってんだ。バカか。外に行くなんてジジイが許す訳ねぇだろ」
「で、でもずっとここにいたって変わらないだろ」
外に出れば、グロリアも気持ちが発散出来るのではないかと思った。
じいちゃんには後で怒られるだろうけど、皆が仲良くする為にはそれが最も最適な選択だと思い行動した。
「ほらこれ、持ってきたんだ」
「おま……っ、何やってんだよ!」
外へ出る為のカードキーを見せると、グロリアは驚きのあまり、勉強道具を吹き飛ばす勢いで立ち上がる。
「しー。じいちゃん起きちゃう」
「バカかお前! 怒られるどころじゃ済まねえぞ!」
ヒソヒソと怒ってくるが、奪い取らない辺り、気持ちは同じということだ。
しかし生真面目故にあと一歩、煮えきらない気持ちの狭間から出られないでいるらしい。
「でも行くだろ?」
聞くと、グロリアは頭を掻いた後、大きく息を吸い込む。
「分かった。行ってやるよ。ジジイにバレねぇようにすぐに戻るぞ」
「うん」
どうやら覚悟を決めたらしい。
ボク達はそそくさと地上へと繋がる扉を目指した。
じいちゃんは寝坊助なので、八時くらいまでは絶対に起きない。それもボクかグロリアが起こさないと起きないくらい熟睡する人だから、この時間に起きてくることは絶対にない。
だけど一応念の為にエレベーターは使わないで、歩いていく。
「お前なんで外に行きたんだよ」
「……」
「あれか? オレとジジイが言い合ってるところ見たからだろ」
「え? なんで……」
気付いていないと思ってたのに。
「分かりやすいんだよ。いっつも物置きにいるお前がいねぇし、かと思えばこんなことをして。外に興味のないお前がこんなことをする理由なんて必然的に分かるだろ」
「じゃあ……やめとくか?」
「やめるとは言ってねぇ」
「素直じゃないな」
「うっせぇ、ぶっ飛ばすぞ」
前を歩くグロリアの顔は見えなかったが、恥ずかしがっているのが分かる。
珍しいものを見たので思わずニヤついてしまう。
長い階段を登り続けて、いつになったら着くのかと、飽きが来始めた頃、ようやくゴールに辿り着く。
「ほら開けろよ」
「外に出るんだ……」
緊張で口が乾く。それまで特段興味なんてなかったのに、見たことのない世界への第一歩に体が震える。
それはグロリアも同じだった。
震える手で、機械にカードをスキャンさせると、扉が一瞬にしてスライドする。
遂に地上の景色を拝む。と思ったのだが、出た場所は誰もいない民家の中だった。
「あれ? どうなってるの?」
「カモフラージュだろ。ジジイの研究は一人でやってんだよ。バレたら面倒なことになるから隠してんだ」
「なるほど」
色々と事情があるらしい。それをグロリアは知っているという訳だ。
ということは一人だけ仲間外れにされてる?
いやまぁ、どうせ言ったところで分からないと思われているのだろう。実際そうだし。だから別に気にしてない。
それよりも外へ行きたいのだ。
書斎と思わしき場所から出て、くねくねと通路を進んでいくと玄関に着く。
「今度こそ外に行くんだな」
「ボクが開けたい」
「好きにしろ」
「ありがとう」
ドアノブに手を掛けると心臓が高鳴る。
この先に、見たことのない世界が広がっている。
どんな景色なのだろうか。どんな人がいるのだろうか。賑やかな人々の顔が、楽しげな会話が頭に浮かぶ。
期待と不安を胸に抱き、扉を開けるとそこはーーー
「え?」
「は?」
混沌とした世界だった。
乾ききった空間を歩くのは、ヒビを割れた肌に死んだような目を持つ人々。
渇きという名の地獄を彷徨う亡霊の世界だった。
「なんだよこれ。いくら水不足だからって、ここまで酷いもんなのかよ。資料と全然違うじゃねぇか……」
愕然とその光景を見るグロリアは、視界の先に横たわる、一人の男の人に歩み寄っていく。
「……大丈夫ですか?」
未知の世界であろうと臆せず進むグロリアとは対照的に、ボクはその背に隠れ、男の人を覗いた。
まるで屍。しかし生きている。
ミイラという言葉が似合うその人は、突然グロリアに掴みかかる。
「水を……水をくれぇ……」
その声は渇れきっており、まるでノイズの掛かったテレビの様だ。
全身が潤いを求めている。出来ることなら助けてあげたい。しかし、その術をボクもグロリアも持ち合わせていない。
「すみません。水はないんです」
グロリアは申し訳なさそうに、離れようとするが、その手は食い込むほどに強く握り締め、放そうとしない。
「放してください」
「お前らそんな姿してんだ! 水あるんだろぉ!」
突然の豹変に体が強張る。
乞食なんてなま優しいものじゃない。その姿は生存の為、なりふり構わず襲い掛かる獣そのもの。
「放し……放せ!」
ボクは恐怖で固まってしまっていた。グロリアもきっとそうだった筈だ。だがこのままではどうなってしまうのか。そんな未来を想像したのだろう、男を蹴り飛ばした。
「行くぞ!」
グロリアは僕の手を取って走った。
後ろから男の怒号が聞こえたが、振り向きはしない。前だけを向いて、ボク達は一心不乱に走った。
「待って、待ってよ」
どれくらい走ったのだろうか。息切れして、足が痛くなって、気が付くと、目の前には一際大きな建物があった。
「これは給水場か」
多くの人が出入りしている。中から出てくる人々は、まるで愛しの我が子を抱くように、水の入った容器を抱いている。
これまでの博士に食事を与えられた日々では知ることのなかった異様な現実に、ボクだけでなく、知識として知っていたであろうグロリアも目をみはっていた。
「皆、苦しそう」
「当たり前だろ。水は命。それを自由に飲めないんだ。誰しもが飢えてるんだ」
グロリアはどこか苛立ちを募らせた様子で「それに」と続ける。
「このオアシスは水が全然ないんだよ。乾季が来んだ」
「かわいそう……」
「そう思うんだったら、ガラクタ弄りしてんじゃねぇよ」
「ごめん……」
全くもっての正論だ。言い返せる言葉もない。
「帰るぞ」
グロリアは急に踵を返すと、一人歩き始める。
「え? もう?」
「充分見ただろ」
「でもせっかく外に来たんだし」
「オレ達は遊びに来た訳じゃねぇ」
突き放すように言って、グロリアはこちらを向くことなく歩いていく。
その背を走って追いかけると、怒っているのか、とても話しかけられる様な雰囲気ではなかった。
本当はもっと外の世界を見たかった。まだ全然見れていないから。それでも一人で探索する勇気はなかったので、大人しくグロリアについて研究所に帰った。
幸いにもまだじいちゃんは寝ていて、バレることはなかった。
いつものように振る舞って、外に出たことなんて悟らせずに過ごした。小さな探検の思い出を胸に隠して。
その日から、グロリアとじいちゃんが言い合っている場面を見ることはなかった。
皆で仲睦まじく、いつもの日常が戻って来た。外の世界を見て、グロリアも満足してくれたんだと、そう思っていたんだ。その時は……。
一週間後、外の世界の勉強を部屋でしていると、じいちゃんが慌てた様子で駆け込んで来た。
「ガイナス! グロリアを知らんか!?」
「グロリア? 何で?」
「いないんじゃ! どこにも!」
耳を疑った。嫌な予感が脳裏を過った。
まさか。嘘だ。仲直りして、元に戻った筈なのに。
しかしそれは幻想だった。
「まさか外に行ったんじゃ……。じいちゃん、カードキーは!?」
急いでカードキーを置いてある場所を確認すると、本来あるべき場所からそれは消えていた。
「グロリア……」
ならば行き先は一つしかない。
オレとじいちゃんは外に繋がる民家へと走った。
するとそこには書き置きが一つ。【世話になった。旅に出る】と。
「なんてことを……。一人で行ってはならんとあれほど……」
膝から崩れ落ちたじいちゃんの目からは涙が溢れていた。
「ボクのせいだ……」
そこでようやく気付いた。グロリアが出て行ったのは自分のせいだと。
外の世界を見せたから。ブレーキになったと思っていた行いは、背中を押す行為でしかなかったのだと。
「ごめんじいちゃん……。ボクのせいでグロリアは出て行っちゃったんだ……。外の世界を見に行かせたから」
謝って許されることではない。許されたいと思って言ってはいない。責められるべきだと覚悟して言ったのだから。
けれど自分の知らぬ本心では、ただ罪を自白することで、この罪悪感を少しでも軽くしたかったのだろうと思う。じいちゃんなら責めたりしないと分かっていたから。その優しさに甘えたのだ。
「外に……出たのか? いや、それは今はいい。よく、教えてくれた」
案の定、じいちゃんは優しく抱き締めてきた。
細い手だ。だけど温かくて、心が安らぐ、大きな手。
ボクはどうしようもない人造人間だ。こんな時に、この時間が永遠に続けばいいと、邪な考えが湧く、卑しい人造人間だった。
それからというもの、じいちゃんは必死になってグロリアを探した。色々なところに電話したり、自分の足で探したり。そこにオレもついて行った。
「もっと、もっと早くに外の世界を見せてやるべきじゃった。グロリアが外の世界に興味を持っておったのは知っていた。しかし、何かあってはならんと、お主達を信じられなかった。子供だと、守ってやらねばと、そう思い込んでおった」
探し始めて一ヶ月半。グロリアの足取りは一切掴めていなかった。
オアシスの一角でベンチに腰を下ろすじいちゃんの背中は、あの日から小さくなっている気がする。
このままではグロリアを失った重責で、じいちゃんは潰れてしまう。
そんなのは嫌だ。だからオレはある決意をした。
「じいちゃん。ボク……、いや、オレがじいちゃんを支える。グロリアが帰って来るまで。何で出て行ったのかは分からないけど、帰って来る場所があるんだ。いつかふらっと帰ってくるよ。だからさ、それまではオレがグロリアの分まで働く。じいちゃんの夢を叶えてみせるよ」
「ガイナス……」
アイツはじいちゃんを、この場所を嫌いになって出て行った訳じゃない。きっとまた帰って来る。その日がいつになろうと、居場所を守る。それが、今のオレに出来る精一杯の償いだ。
それからというもの、オレは一切用具置き場には行くことはなくなった。
勉強に鍛錬に手伝い。これまでとは住む世界が異なるのではという日々を送った。それと同時にグロリアの凄さを実感した。
「ガイナスや。ようやく出来たぞ!」
そんな日々がどれくらい続いただろうか、いつものように頭を悩ませながら、世界地図を研究室で眺めていると、じいちゃんが興奮気味に駆け込んでくる。
「どうしたんだよ」
「遂に完成したんじゃ。オアシスを見つける為の、お主の相棒が」
その腕に抱える巨大な箱が微かに揺れている。
ずっと精密な機械があるからと立ち入り禁止にされていた場所に入り浸っていたことは知っていたが、また何かを造っていたとは。
中に生命体がいることは確定。まさか犬や猫か?
じいちゃんが箱を開けると、そこには丸っこい黄色の生き物がいた。
球体の体に備わった大きな羽と足。鳥の出来損ないみたいな、おそよこの世の生物のどれにも当てはまらない外見。
「まさかアームド……」
一瞬身構えるが、子供のように目を輝かせるじいちゃんを見ると、それは間違いだと分かる。
いや、もしかしたらアームドなのかもしれない。しかし害はないのだと感じ取れる。じいちゃんに対する信頼が、目の前の生物にも適応されている。
「こやつの名はピュイじゃ。こやつは水場を探知出来る能力が備わっておるからの。二人で協力してオアシスを見つけてほしいんじゃ。未来の子らに辛い思いはさせたくない為にも。それにお主もそろそろこんな場所は窮屈じゃろ」
「じいちゃん……」
ようやく認めてもらえたという感動と、遂に使命を果たす時が来たという重圧が胸を鳴らしてくる。
それだけじゃあない。これでグロリアを探す範囲も広げられる。旅の中で出会えるかもしれない。
「ありがとう! ピュイだったよな。よろしくな!」
「ピ!」
どこに目があるのか分からないが、体を少しこちらに向けて、ピュイはよろしくと言わんばかりに羽を上げる。
やはり悪い奴じゃあなさそうだ。
それから三日後。オレとピュイは研究所を旅立つ為の準備をしていた。
「ピュイ、それ取ってくれ」
「ピピ」
短い付き合いだというのに、すっかり仲良くなって、これからの不安なんてなくなりそうだ。
そんな明るい気分の中、荷造りを進めていると、研究所内に警報音が鳴り響く。
「まさか!」
足がもつれそうになる勢いで走った。
この警報音は外からの侵入を知らせる為に作られたものだ。設置の目的は、外敵の存在を知らせる為ではない。家族の帰りをいち早く知る為。吉報にいの一番に気付く為なのだ。
「グロリア! 帰ってきたのか!」
研究室へと走った。グロリアなら帰還したことをじいちゃんに報告しに行くと思ったから。
外に出ていたのだ。どんな風に成長したのだろうか。オレが旅に出られるようになったと知ったらどれくらい驚くだろうか。ピュイを見たらどんな反応をするだろうか。
山のように積み上がった想いが、今にも口から零れ落ちそうになる。
しかし今はまだ飲み込む。吐き出すのはグロリアに会ってからだ。会った瞬間に全部出してやる。
「グロリアおかえ……り……」
けれど、そんな時は来なかった。
研究室の扉を開けて映った光景に、喜びといった感情は全て消し飛んでしまった。
代わりに吐き出されそうになったのは、困惑という名の感情だった。
「……え?」
脳が処理を拒んだ。意味が分からないと、現実を突き返した。
動悸が起きた。呼吸が早まり、息が充分に吸えない。
「よぉ、ガイナス。久し振りだな」
それでも現実を理解しない訳にはいかなかった。
じいちゃんが倒れている。地面に血溜まりを作って。
それが誰による犯行か。一目瞭然だ。
「何を……、何をしてんだよ! グロリアァ!」
火山の噴火の如く感情が湧いた。
言葉だけでは収まりきらない怒りが体を突き動かした。
しかし気付くと後頭部への衝撃と共に、天井を見ていた。
「喚くなよ」
服に血が染みてくる。まだ温かい。そして同時に証明される。それが本物の血だと。じいちゃんから流れてきているのだと。
「どういうつもりだ!」
掴み掛かり、問い詰めるが、グロリアは微動だにしない。
「ゴミ共を救うなんて戯言抜かすからだよ」
その目には光がなかった。一切を通さぬ漆黒の闇。そして見る者が気圧されるほどの圧を放っていた。
思わず固まった。見たことのないグロリアに恐怖を覚えた。
しかしそれは一瞬。すぐに現実に引き戻される。
「意味分かんねぇよ!」
腕を振りかぶった。すると、体が宙を舞った。先ほどよりも強い衝撃が体を走る。
「ぐっ……」
「弱ぇな」
靴底が映ったかと思うと、意識を持っていかれる威力の痛みが頭部に鳴り響く。
何度も何度も何度も。防ぐ隙すらなく踏みつけられた。
攻撃が止んだ頃には、視界の殆どが閉じていた。頭も回らず、痛みは一周回ってなくなっていた。
「待……て……」
「待て? 待つ訳ねぇだろ。敵討ちも出来ねぇガキは一生そこで寝てろ。殺してぇんだったら這ってでも追ってこい」
「グロ……リア……。何……で……」
去りゆく背中に呼び掛けるが返事はない。
動くことも出来ず、空間には乾いた足音と、ピュイの心配する声が反響するのみだった。
そして限界の来たオレの意識はそこで途絶えた。
不甲斐なさと後悔と疑問、悲しみ。そして消えることのない怒りを胸に残して……。
※※※
「てな訳で、オレはその後は生計を立てる為にハンターをやりつつ、夢半ばで倒れた博士の望みを叶えることとグロリアを探してるって訳だ。アイツが何で博士を殺しのか。それを聞き出してから殺す。どんな理由があろうとオレは絶対にアイツを許さねぇ」
迷いはない。躊躇もない。同情もない。あの日、覚悟は決めた。
外でなにかあったのだろう。しかしそれは親殺しをしていい理由にはならないから。
「そんなことが……あったんですね」
「ていうか、ガイナスって今何歳なんだい? 随分と幼い頃の話に聞こえたけど、七年前なんだろう?」
「ウェルトさん、今そんなこと聞く雰囲気じゃなかったじゃないてすか」
全くもってポルンの突っ込み通りだが、まぁこれがウェルトの通常運転だ。それに変にかしこまられると、こちらもやりにくくなる。この通常運転はありがたい。
「言ってなかったか? オレは十一だ」
「十一!? 十一歳って言いました!?」
ポルンが驚きのあまり、顎が外れん勢いであんぐりと口を開ける。
「人造人間は成長速度が速いんだよ」
「驚きだね……」
ウェルトも予想打にしていなかった返答なのか、面食らって固まっている。
それもそうだろう。見た目は十代後半の見た目で実年齢が前半となれば、誰だって理解に苦しむ。逆の立場ならオレもそうなる。
「ガイナスさん。ありがとうございます。話してくださって」
「別に気にすんなって」
「そうそう。気にしなくていいよ」
「ウェルト。お前はどの立場だよ」
「ふふ」
ポルンが笑うと、思わずつられて笑いが起きた。
気を張ってばかりのここ数日の中に差し込んだ幸せな時間は、緊張をほぐしてくれる。
明日が終われば、また修羅の道へと足を踏み入れることになる。だから今だけは、この時間を楽しんでおきたいと思わずにはいられなかった。
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