砂漠のガイナス

霜月

文字の大きさ
16 / 22

第15話 反乱軍のリーダー

しおりを挟む
 何処に向かっているか分からないが、ペルリナは迷う素振りすら見せずに、道を進んでいく。

「なぁアンタ。何処行くんだ?」

 聞くが、ペルリナはこちらを一瞥するのみで答えてはくれない。
 そんな態度を見て、ポルンが説明する。

「大丈夫よ。あの人は私を助けて、ここまでついてきてくれたの。敵じゃないわ」
「本当に? 騙されてない?」
「だ、大丈夫よ! 子供扱いしないで」

 心配した様子で聞くペルリナに対し、ポルンは戸惑った、慌てた様子で否定する。
 それが怪しさを感じさせることになる訳だが、本人は気づいていないらしい。
 しかし、これまでのかしこまっていた姿とは違う。これがポルンの素なのだろう。
 知り合いと出会えて心がほぐれたのだとしたら、喜ばしいことだ。

「分かったわ。ガイナス、アナタのことは信じてあげる」
「そりゃどうも。てかずっと気になってたんだが、なんでオレのこと知ってるんだよ」

 変装もしている。余程親しい人間でなければ、簡単には見抜けない筈だが。

「ハンター業界じゃアナタ有名よ? それにアタシ、人を見る目だけは得意なの」
「アンタ、ハンターだったのか」
「元よ、元」

 どうりで男共がのされてた訳だ。

「もうそろそろよ」

 暫く歩いていくと、傾いていて、いつ崩れるか分からない廃墟へと到着する。
 そこにペルリナは躊躇なく入っていく。
 中はあらゆる物が倒壊しており、足場なんて存在しない。
 故に人はだれも寄りつかないそんな場所。

「こっちよ」

 そんな中を平然と進んで、ペルリナは一つの扉を開ける。
 すると建物からは想像も出来ないくらい、内装の整った部屋が現れる。

「ここだけやけに綺麗だな」
「アタシの隠れ家よ」

 そう答えながら、ペルリナはポルンと共にソファーに腰掛けた。

「隠れ家だ? なんでそんなもん持ってんだよ」

 対面に座りながら聞くとペルリナはポルンの頭を撫でながら答える。

「アタシはケルラドの妻よ。夫のサポートくらいして当然でしょ?」

 そういえば聞いていなかったが、ポルンの兄はケルラドと言うらしい。
 けどそんなことはどうでもいい。聞き捨てならない発言があった。
 それにオレよりも先にポルンが食いついく。

「ペルリナ。アナタ、お兄ちゃんのやってたこと知ってたの!?」
「えぇ、無茶なことばっかりして、それで死んだら世話ないわよ」

 ポルンはペルリナはケルラドについては、何も知らないと言っていたが、それはポルンが気付いていなかっただけのようだ。
 ポルンが抜けているのか、それともペルリナがバレないように立ち回っていたのかは謎だが。まぁそこはどうでもいいか。
 それよりも、旦那が死んだというのにやけにあっさりとしているペルリナの態度に怒りが湧く。

「悲しくねぇのかよ。旦那が死んだってのに」

 一切の悲壮感もない。それどころか自業自得だと言わんばかりだ。
 市民の為に命を懸けた者に対して、あまりにも侮辱的。
 しかしすぐにそれは勘違いだと知る。

「悲しくない訳ないでしょ!」

 ペルリナが声を荒げた。

「アナタに何が分かるっていうのよ! 何も知らない赤の他人が! アタシがどんな思いだったか……。ケルラドが事故で死んだって偽装されて、全部奪われて……。知ったような口聞かないで!」

 その目には涙が流れていた。
 救えなかった悔しさ、周りに対する怒り、そして何より自分自身への怒りに満ちている。
 それが嫌というほどに伝わってくる。無理をして気丈に振る舞っていただけだったのだ。
 思慮に欠けた発言だった。
 最愛のパートナーを失って心が傷まない訳がない。それを知っている筈なのに、思い至れなかった。

「すまない。そちらの気持ちを考えられず、勝手なことを言ってしまった」

 頭を下げて謝罪した。もちろんこんなことで許されることではないのは分かっている。
 だが今出来ることはこれしかなかった。
 返ってくる言葉はない。
 沈黙だけが部屋に響いた。
 そんな静寂を破って、ポルンが口を開く。

「あの……二人共、仲良くしましょ?」

 仲を取り持とうとしてくれているが、顔を上げることは出来ない。
 ペルリナからの言葉でなければ、動くことは許されない。
 ポルンが困惑しているのは見なくても分かった。
 しかし、今ペルリナが何を思っているのか、どんな顔をしているのか。それは分からない。
 再び沈黙が訪れた。
 そしてその沈黙がどれだけ続いたのだろうか。
 ポルンも黙ってしまった中、遂にペルリナが言葉を発する。

「顔を上げなさい。ガイナス」

 言われて顔を上げると目元を赤くしたペルリナが睨むようにこちらを見ていた。

「大人げないことをしたわ。ごめんなさい」

 ペルリナが軽く頭を下げて謝罪をしてきた。
 あちらに非などないというのにだ。

「いや、オレが悪かった。そっちの気も考えず、知ったようなことを言ってしまった」
「ならお互い様ということで手を打ちましょう。険悪になる為に連れてきたんじゃないんだから。いい? だからこれでこの話はおしまいよ」

 念を押すようにこちらを指して言った。
 オレが「分かった」と返すと、ペルリナは一つ深呼吸をしてから、本題へと移る。

「それで、アナタ達はここに何しに来たの? 指名手配されてるってのに里帰りって訳じゃないでしょ? それともアタシのこと助けに来てくれたのかしら?」

 後半は冗談で言ったのつもりだったのだろう。
 ポルンが「そうよ」と伝えると、ペルリナは目を丸くした。

「あは……あっはっは!」

 余程おかしかったのだろうか、ペルリナは大笑いして手を叩く。

「アタシの心配って、自分が大変なことになってるのにお人好しね」

 その目には先ほどとはまた違う涙が浮かんでいた。
 それは嬉し涙か泣き笑いか。オレの知るところではない。

「あーおかし」

 涙を拭うペルリナにオレはここでの目的を説明する。
 ペルリナにならば言ってもいいだろう。そもそも関係者だ。知る権利がある。

「それもあるがオレ達の目的はヴェルナーの不正をここを含めた周辺オアシスに暴露することだ。アンタの旦那が命懸けで隠した不正の証拠をポルンが見つけて、ここまで持ってきた」
「へぇ、それでアナタはなんでポルンと?」
「指名手配されて追われてるところを助けてな。そっからは成り行きだ。オレもヴェルナーを許せねぇからぶっ飛ばしてやろうかなって」

 発言に嘘はない。
 ただここで本当のことを全て喋れば、話がややこしくなる。そう判断したから必要な部分のみ伝えた。
 それをポルンも分かってくれているのか、口を出してはこなかった。

「んでもって今は暴動を起こそうとしている奴らのところに向かってる。他にも協力者がいてな。そいつが不正の証拠を拡散するから、そのタイミングで暴動を起こしてヴェルナーを引きずり出そうって作戦だ」
「不正の証拠なんて持ってたならアタシにも教えてくれたらよかったのに……。一人で無茶して」

 ケルラドは愛する者を巻き込みたくなかったのだろう。
 実際、命を奪われている。そんな死地とも言える場所に連れていきたい訳がない。
 だが残された側からすれば頼ってほしかったという気持ちも分かる。
 どちらの気持ちも正しいのだ。
 だからこそ、今何をするかが重要だ。
 ケルラドの意志を無駄にしない為、オレ達は最善を尽くさなければならない。
 そしてその意志は思いもよらない形で紡がれていくこととなる。

「でもよかったわね。アナタ達の探している相手はここにいるわよ」
「は?」
「え?」

 オレもポルンも耳を疑った。
 探している相手とはどういうことか。
 今の目的は暴動を起こそうとする集団の元へ行くこと。
 ペルリナはそれが達成されたと言ったのだ。
 つまり、まさか……。

「待てよ。まさかアンタ、暴動を起こそうとしてるメンバーなのか!?」
「正解。というよりも、暴動を起こそうとしてる反乱軍の頭ね」
「ペルリナ、嘘でしょ!?」

 開いた口が塞がらないとはこういう状況を言うのだろう。
 まさか偶然にも巡り合うとは。
 いや、これは偶然ではなく運命の導きなのかもしれない。

「驚いたな。ペルリナが反乱軍だったなんて」
「言ったでしょ。アタシはケルラドの妻よ? 夫だけに無茶させるつもりなんてなかったのよ。まぁ、あの人は頼ってはくれなかったけどね」

 壁の方を見るペルリナの目が陰る。
 傷心。そんな言葉では言い表せないほどの傷がある筈だ。
 それでも彼女は前を向き、立ち上がる。

「連れていってあげるわ。反乱軍の基地へ」
「ほら行くぞ、ポルン」

 衝撃の事実を未だ受け入れられないポルンの肩を叩くと、ポルンははっとした様子で立ち上がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

あざとしの副軍師オデット 〜脳筋2メートル義姉に溺愛され、婚外子から逆転成り上がる〜

水戸直樹
ファンタジー
母が伯爵の後妻になったその日から、 私は“伯爵家の次女”になった。 貴族の愛人の娘として育った私、オデットはずっと準備してきた。 義姉を陥れ、この家でのし上がるために。 ――その計画は、初日で狂った。 義姉ジャイアナが、想定の百倍、規格外だったからだ。 ◆ 身長二メートル超 ◆ 全身が岩のような筋肉 ◆ 天真爛漫で甘えん坊 ◆ しかも前世で“筋肉を極めた転生者” 圧倒的に強いのに、驚くほど無防備。 気づけば私は、この“脳筋大型犬”を 陥れるどころか、守りたくなっていた。 しかも当の本人は―― 「オデットは私が守るのだ!」 と、全力で溺愛してくる始末。 あざとい悪知恵 × 脳筋パワー。 正反対の義姉妹が、互いを守るために手を組む。 婚外子から始まる成り上がりファンタジー。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

貞操逆転世界に転生してイチャイチャする話

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が自分の欲望のままに生きる話。

処理中です...