砂漠のガイナス

霜月

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第16話 反乱軍の基地

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 ペルリナが部屋のタンスをずらして床板をどけると、地下へと続く石畳の階段が現れた。

「ここから反乱軍の基地に行けるわ」

 中に続く道は狭く、人一人通るのがやっとの空間だ。ペルリナは壁に掛けてあったランタンの灯りを頼りに進んでいく。

「この通路は追われたとき用に各隠れ家に作ってあるの」

 つまりあの隠れ家も反乱軍のものという訳だ。

「それにしては随分と古いようだが?」

 壁の質感を見るに、十数年は経っている。
 そんな昔から反乱軍があるとは考えられない。つまり、この道は元々別の使い方をされていた筈だ。

「これは旧水路よ。ヴェルナーが着任する前まで使われていたの。今はもう誰も覚えていないから、アタシ達が上手く利用しているって訳」
「全然知らなかった……」

 後ろを歩くポルンが呟いた。
 それもそうだ。普通に過ごしている限り、生活している足元がどうなっているかなんて気にしたりしない。
 こうして反乱軍が自由に使うことが出来るということは、ヴェルナー自身もないものとしているのだろう。
 淡い光だけを頼りに歩き進めていくと、行き止まりに突き当たった。

「一旦外に出て移動するわ」

 天井の床板を押し上げて、外に出ると、別の部屋の中に出た。
 先ほどと同じく周辺は廃墟にしか見えない造りだが、一室だけは生活が出来るように整えられている。
 そこから廃墟を出ると、それまでと変わらないスラム街に似た場所だ。
 そんなところを出たり入ったりをひたすら繰り返していく。
 外部にバレない為の工作に感心すると同時、ウェルトの情報収集能力の高さを改めて尊敬した。
 いったいどのようにして基地の場所の得たのか、ご教示いだきたいほどだ。
 どれだけ歩いたのだろうか。いい加減飽き飽きとしてきて小言を言いたくなって来た頃、ペルリナは細い地下通路の先にあった鉄の扉の前で歩みを止めた。

「長い道のりでこさせてごめんなさいね。アナタ達が尾行されていなとも限らなかったから」
「それだけ慎重な方がこっちも信用出来る」

 実際、動きがバレていないとも限らない。泳がされていた可能性も視野に入れる慎重さは必要だ。
 ここまで複雑に移動すればさすがに追っては来られない。
 ペルリナには感謝すべきだ。共倒れになる危険性を潰せたのだから。
 鉄の扉が重々しい音を立てながら、ゆっくりと開いていく。中から差し込む光が大きくなっていく。

「おぉ……」

 ポルンが驚き声をこぼした。

「ようこそ。ここが反乱軍の基地よ」
「これはすげぇな」

 ただただ圧巻。
 基地と言うに相応しい場所だ。
 何百人規模で集まることが出来る空間。そこにいる銃やら剣など、様々な武器を携えた人間達。
 外とは異なる、息を呑む世界がそこにはあった。

「姉御!」

 一人の男がペルリナに気付き、駆け寄ってきた。

「無事だったんですね! 俺達、姉御を助ける為に話し合ってたんすよ!」

 馬鹿みたいにうるさい声だ。
 二十代前半といったところだろうか。顔には大きな十字傷。体の至る所には生傷がついている。
 同業者なのだろうか。

「変なことしないでよ。アタシ達の存在がバレれば、アタシ達だけじゃない。このオアシスに住むみんなに迷惑がかかるんだから」
「分かってますよ!」

 男は「ナハハ」と気持ちいいくらい元気に笑った。
 分かっているなら話し合いなんかしてないだろうというツッコミは置いておくとして、ここにいる人間が全員反乱軍か。
 数は百以上。想定していたよりもずっと多い。
 目の前の男含め、ハンターと思わしき者も多くいる。
 もしも武力衝突となれば、人死は避けられないだろう。
 平和の為の礎なんて言葉があるが、平和の下に犠牲なんてオレは認めない。
 ウェルトの動きがある前に、説得しておく必要がある。
 ふとペルリナの前にいる男が、後ろにいる俺を見た。

「も、もしやあなたは……」

 なにやら興奮気味だ。
 それにこちらを知っているような発言。

「ガイナス様ではございませんか!?」

 オレの手を取ると、男はぶんぶんと激しく上下に揺らしながら握手をしてきた。

「わたくしはリローテと申します! ガイナス様の特集を見た時から、お慕い申し上げております!」

 どいつもこいつも、どうして簡単に変装を見破ってくるのか。
 そんなに下手な変装だったか?
 そうだとしたらここまで誰にもバレなかったのは奇跡だと言えるし、自分の変装センスのなさに失望しかないのだが。
 そんなオレの渋い顔を見て、心境を悟ったのか、リローテは慌てて弁明をしてくる。

「あぁ、違いますからね!? ガイナス様の変装は完璧です! わたくしが見破れたのは、ガイナス様の特集を擦り切れるほど見ているからでありまして」

 思わず気持ち悪いと口にしそうになった。
 別に悪いことではないが、そんなアイドル的な扱いをされると、背筋に悪寒が走る。

「だから……」
「分かった。もういい。ありがとう。慰めてくれなくて大丈夫だ」

 もう腹がいっぱいだ。これ以上詰め込まれたら吐いてしまう。
 熱烈な好意を向けられること自体慣れていないのもあるが、今回でよく分かった。
 これはウェルトを相手にしている方がマシだ。
 オレは逃げるように話題を変える。

「ペルリナ」
「えぇ、分かってるわ。ポルンこっちに」

 ペルリナに呼ばれ、ポルンは緊張した面持ちで前に出た。
 視線が全てポルンに集まる。
 余程緊張しているのだろう。深呼吸で肩が上がっている。
 その隣でペルリナは一呼吸すると、それまでの朗らかな空気から一変。張り詰めた空気が流れ始めた。

「皆が集まってくれていてちょうどよかったわ。まず安心してほしい。アタシは全くもって無事よ」

 反乱軍から歓喜と安堵の声が湧き上がる。
 それを聞くとペルリナがどれだけ慕われているのかが伺える。

「それでこの二人はヴェルナーを引きずり落とす為に来てくれた協力者よ。こっちがハンターのガイナス。この子がポルン。アタシの夫の妹よ」

 どよめきが起こった。

「二人は夫の残してくれたヴェルナーの不正の証拠をアタシ達の所に届けに来てくれた。今、二人の仲間がその証拠を拡散しようと動いてくれている。アタシ達はその混乱に乗じて、デモを起こすわ。隠蔽なんてさせない」

 ペルリナは血が滲む勢いで手を握り締めた。

「ここでヴェルナーの悪政を終わらせるのよ」

 拳が突き出されると、基地が揺れるほどの歓声が上がった。
 それは決意ではなく宣言。願いではなく確信。
 そう思わせる強さが含まれていた。
 思わず胸が高鳴った。
 そんな時、テレビから流れていた他愛もないニュースが突如として切り替わり、警告音に似た恐怖を刺激する音が鳴り響いた。
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