マーダー・パレード【魔法少女よ誰が為】

霜月

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第4話 お友達

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 目の前で理解に苦しむ出来事が起きた。
 突然現れた姫奈ぴいなちゃんが忍ちゃんを殺したんだ。
 会話を聞く限り、姫奈ぴいなちゃんは忍ちゃんを助けるつもりだったはずなのに。
 だけど目の前で起きてたのは殺人。
 あまりにも衝撃的な光景に、うち――五十嵐大火いがらしたいかは動揺のあまり、その場から動けずにいた。

「なにを……やってるんすか。アンタは忍ちゃんを助けるんじゃなかったんすか」
「んー? 助けるよ。でもぴいな、誰でも助けるわけじゃないよ。お友達じゃないと助けないよ」
「いや……、殺してるじゃないっすか」

 深々とカッターナイフが突き刺さってる。
 行動と言葉が矛盾している。
 人は理解出来ないものと出会うと恐怖を感じるっていうけど本当だった。
 今、目の前にいる姫奈ぴいなちゃんを見て、うちは心の芯から凍えている。

「大丈夫。お友達になるのは今からだから」
「どういうことっすか」
「見ててー」

 姫奈ぴいなちゃんは、無造作に忍ちゃんに突き刺さったカッターナイフを引き抜くと、包帯の巻き付いた自分の手首を切った。
 鮮血が包帯に滲み出し、ポタポタと垂れ始める。
 自傷行為なんかして、気でも触れてしまったのだろうか。多分そうなんだろう。じゃなきゃ、助けようとした相手を殺すわけがない。
 恐怖が哀れみに変わり、気付くと手を姫奈ぴいなちゃんに向けていた。
 二人もろとも焼いてやろう。
 けど、続く姫奈ぴいなちゃんの奇行に手が止まる。

「は?」

 流れ出る血を忍ちゃんの体にかけ始めたんだ。
 およそ人体から出ていいとは思えない量の血が、忍ちゃんに流し込まれていく。
 そして出血が止まると――

「嘘……だ」

 死んだはずの忍ちゃんがゆらりと起き上がった。

「なんで……どうなってるっすか。忍ちゃんは死んだはず……」
「くノ一ちゃんはー、ぴいなとお友達になったんだよ。ねー?」

 姫奈ぴいなちゃんが忍ちゃんに抱き着くが、忍ちゃんの表情はピクリとも変わらない。

「意味分かんないっすよ……」

 死人を生き返らせる能力?
 いや、これはそんなんじゃない。うちがつけた火傷は治っていない。痛々しい見た目のまま動いている。
 つまりはもっと非人道的なおぞましい能力……。

「……ゾンビにしたんすか」
「お友達だよー?」

 イカれてる。
 死人を友達だなんて精神異常者だ。
 野放しにしておいたらなにをしでかすか分かったものじゃない。
 うちは脳裏に流れた『排除』の二文字に従って、全力の炎を放った。
 ゾンビだろうがなんだろうが、行動の暇を与えなければ倒すのは容易い。
 そう思っていたけど――

「あの一瞬で!?」

 炎が燻っていくと、帯が二人を包んでいた。
 生前の忍ちゃんと変わらない反応速度だ。
 その動揺の隙を突かれた。

「へ?」

 一瞬の出来事だった。
 二人を包んでいた帯が解けたかと思うと、中から飛び出してきた姫奈ぴいなちゃんが、血で出来た鎌でうちの左腕を斬り落とした。

「腕がっ……、腕がああああ!」

 痛い痛い痛い! 血が止まらない!
 うちはその場にうずくまり、欠けた左腕を押さえて悶えた。

「痛いよね。すぐに楽にしてあげる」

 殺される。
 うちは痛みを耐え忍び、だけど収まるわけがない涙を流しながら全力で逃げた。
 頭の中は恐怖でいっぱいで、ただひたすらに走って逃げた。

「なんで……なんでうちがこんな目に……。痛い……痛いよ、ママ……」

 なにか悪いことした? なにもしてない。忍ちゃんを殺そうとしたのだって不可抗力だ。そうしないといけない状況だっただけ。誰だってそうする。
 ずっと頑張ってきたのに。努力が報われないまま終わるなんて嫌だ。
 どれだけ叩かれたか。どれだけ怒鳴られたか。どれだけ涙を地面に吸わせてきたか。
 生き返ってみんなで大会に出るんだ。
 優勝しなきゃ死んでも死にきれない。うちの人生が無駄になってしまう。

「死んでたまるか。みんなで大会に出るんだ……っ」

 血が流れ過ぎているのか、意識がかすみ始めた。
 だからなんだ! それは足を止める理由にはならないだろ!
 意識を繋ぎ止め、走って走って走り続けた。
 たった一つ。みんなと大会に出るという願いの為だけに。

 だけどそんな願いは泡となって消えてしまう。

 痛みのあまり、周囲への警戒がおざなりになっていた。
 突如として路地の曲がり角に現れた首無しの亡霊に斬りつけられてしまい、鎖骨からお腹まで一気に裂けた。
 その亡霊は知っていた。最後に起きたから気を遣って声をかけてあげたのに、不愛想で、指揮まで取ろうとした変わり者。
 フィロちゃんとの戦いで殺された――

「勇花……ちゃん」

 視界に青空が広がった。
 体が動かない。息も出来ない。
 みんなのところに帰りたい。
 空の向こうにあるかもしれない世界に、力を振り絞って手を伸ばすけど、届きはしない。ただ空を切って、地に落ちる。

「うっ……うぅ……」

 感情のダムが決壊して、とめどなく涙が溢れてくる。
 なんでこんなことになってしまったんだろう。うちの人生はなんの為にあったんだろうか。

「苦しいよね。大丈夫だよ。最期は気持ち良くしてあげるから」

 覗き込んできた姫奈ぴいなちゃんと目があった。
 屈託のない笑顔だ。人殺しをしているのに心は傷まないらしい。それどころかうちの為にやってあげているみたいな態度だ。
 とことんまで狂ってる。
 いや、それはうちも同じか……。忍ちゃんを私利私欲の為に殺そうとしたんだから。
 その報い……なのかな。
 姫奈ぴいなちゃんの手が、うちの首を絞め始めた。

「キューってするとね、すっごく気持ちいいんだよ。ぴいなもユウくんによくやってもらってるの。お薬も飲んでやると天国行ったみたいになってもっと気持ちいいの。ぴいなね、ユウくんに絞めてもらってたら死んじゃったの。このままだとユウくんが捕まっちゃうから、ぴいなは生き返らないといけないの。だからごめんね?」

 苦しくはない。肺が斬られているんだ。特段変わりない。
 忍ちゃんもこんな感じだったのかな。だったらちょっと悪いことしちゃったかもしれないな。

「でも大丈夫。炎ちゃんともお友達になってあげるから。お友達ならずっと一緒だよ」

 視界が暗くなってきた。

 ごめんっす、みんな……。ごめんなさい……、ママ……。

 ※※※

 大火の傷口に姫奈ぴいなの手首から流れ出る鮮血が注ぎ込まれると、大火は生き返ったかのように立ち上がる。
 だがその目に生気はない。
 ただ虚ろを見つめるのみ。
 臓物をまろび出し、物言わぬ傀儡となり操者に従う。

「お友達がまた増えちゃった! ぴいな嬉しい! くノ一ちゃんも炎ちゃんも嬉しい?」

 姫奈ぴいなの問いかけに、隣り合う忍と大火は頷く。だがそこに意思はない。二人は死者。故にこの行いはただの児戯にすぎない。

「ほんと!? ありがとー!」

 まるで本物の相手にしているかのように、姫奈ぴいなは二つの死体に抱きつく。

「じゃあ、もっとお友達増やしに行こー!」

 高らかに拳を突き上げた姫奈ぴいなだったが、ふとあることを思い出す。

「あっそうだ。くノ一ちゃん、あれちょうだい?」

 言われて忍の死体は、大火が落としてしまった左腕を差し出す。

「ちゃんとくっつくから安心してね」

 腕を受け取った姫奈ぴいなが大火の死体の欠損箇所に腕をねじ込むように押し付ける。すると寄生虫のように湧き出てきた血の触手が腕を接合し始める。
 そして瞬く間に大火の腕は元通りになっていった。

「よーし、それじゃあもう一度気合注入だ! 三人共集まってー」

 ぴいなは首なき死体、焼けただれた死体、臓物を撒き散らしている死体の三人と円陣を組む。

「もっともっとお友達増やして生き返るぞー! おー!」

 響く声は一人。だが決して裏切らない血よりも固い力で結ばれた『お友達』と共に、姫奈ぴいなは新たな友達作りへと励んでいく。
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