邪神に仕える大司教、善行を繰り返す

逸れの二時

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月の氾濫

狩るか狩られるか

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  それからは闇の感知を駆使しながら相手を探して狩っていき、倒して解体、消滅させるという流れが続く。

 二体目に現れたのは腕が異常に発達したサル、マティナスガブラソだった。二本の腕は俺の腕よりもでかくて、ゴリラ位の大きさなのに常に腕が地面に着くくらいの長さだった。

 あんなのでぶん殴られたらお終いなので、【闇の豪炎ディバインブレイズ】で焼き払っておく。素材は魅力的なものが無さそうだったので、全部消滅だ。

 続く三体目はアルマスオソ。要は角の生えた熊だな。サイみたいにも見えたし、不思議な生き物だった。

 でもその角で串刺しにされるのは御免なので、暗殺者さながらに影から【漆黒の槍玉ブラックランスライズ】を使って地面から黒い槍で串刺しにした。

 素材は良質なお肉とふっさふさの毛皮、それから堅そうな角だ。これらは高く売れそうだ。

 四体目は可愛らしいミンクのような魔物、マガスパング。

 倒したくないなと躊躇していたら、振り返りざまに顔が見えたのだが……なんと端から端までパックリと口が裂けているではないか。しかもそこから馬鹿でかい牙が覗いている。

 まあ素敵だこと! 俺は迂闊に近づかなくて良かったと思いながら、【黒き排除ブラックエリミネイション】単品で消滅させた。小さかったから試してみたら、本当に即死攻撃みたいに使えた。

 こうしてツリーハウス周辺の魔物はあらかた狩ったから帰ろうかと思ったら、背後から一際強い悪意を感知した。

 どうやら大物のようで、しかもこっちに迷わず向かってきている。俺の存在がもう知られているということなのだろう。

「なんか強い相手がこっちに向かってきてるみたいだ。腹が減ったから帰ろうと思ったのに……」

「もう一仕事していきましょう。大丈夫、サム様ならすぐに終わりますよ」

「奇跡一発で片付かなさそうな気配なんだけどな」

「そうですか。なら私は剣になっておきましょう」

 アンヘルは俺の手に吸い込まれるようにして剣に変化した。なんで腹が減ってる時に剣で戦わなきゃならないんだよう……。

 しかし文句を言っている暇もなく、強い気配の相手はすぐに現れた。その魔物の姿を見た直後、俺は頭が真っ白になって固まってしまった。

 えっ……え? そこにいたのはとにかく巨大なカマキリのような昆虫。でも見間違いでなければ腕が四本あって、カマは刃物みたいに日光を浴びて光り輝いている。

 見上げると複眼が明らかにこちらを向いていて、俺のことを見定めていた。ヤラれる! 

 俺はそれを直感し、なんとか紙一重でカマを躱した。とんでもない威圧感。そして初めて、魔物への恐怖を感じた。

 今までは何となく狩る側でいたが、今は狩られる側になっている、まさにそんな気がした。

 当然そんな相手を目の前にしてはボケッとしていることもできず、四本のカマが俺を休ませることなく切り裂こうとしてくる。相手のリーチは長くて、手数も多い。

 ここは奇跡で何とか戦況を変えないといけないな。

呪怨ブレス

 俺は祝福もとい呪いを使って邪剣パルーサを使えるようにしておく。そのおかげで、木にぶつからないように後ろと気にしながら後退し続ける代わりに、余裕を持って攻撃を避け、さらにはカマを押し返しながら考える時間を持てた。

 まずはこんな木が生い茂る森の真ん中じゃ戦い辛い。弱っているノエラもいるからかなり迷うが、ここは俺の安全を優先してツリーハウスのある広場まで誘い込むことにしよう。

 あそこなら広さがあるから多少大胆に動ける。もしツリーハウスに害を及ぼしそうになったら、そのときは奇跡で何としてでも止めよう。

 俺はそう決めて隙を見ながら、攻撃が緩んだ一瞬で相手に背を向けて走り出した。ナビは右手に持ってるアンヘルに任せて、攻撃を避けながら自然の広場を目指す。

 ヒエッ。今耳元で風切り音がした! 

 うわ! 今度はカマが右後ろの地面にめり込むのが見えたぞ。

 もうイヤッ! 怖すぎる! とにかく俺はすばしっこく逃げるネズミのように遁走しながら、なんとか広場の中心に躍り出た。

 くるっと体を回転させて、ドシドシ追って来るカマキリことアパットカリットと対峙する。好き勝手攻撃してきやがって、もう許さん! 

 俺は邪剣パルーサを神妙に構えて、相手の足元に潜り込む。その間もカマの攻撃は続いているが、怒った俺には遅すぎるくらいで掠りもしない。

 まずはツリーハウスを守るために、ここで大人しくしてもらおう。大きく発達した足を狙って、俺はパルーサを思いっきり振りかぶった。

 ザシュッと良い手応え。俺がヤツの背後に抜けると同時に、巨大な体がガクリと揺れた。後ろの足を失って完全に体勢が崩れたな。ざまあ見ろ! 

 そのまま俺はもう一方の後ろ脚に向かって駆け出し、その後ろ脚に背を向けた格好から、ぐるりとパルーサを力強く振り回した。回転攻撃で勢いがつき、もう一方の足も簡単に切れ離されて、ヤツの腹が地面に落ちた。

 前足はまだ無事だが、これで大分機動力は落ちただろう。

「動きが鈍くなりましたね。あとは離れて奇跡を!」

「ああ!」

 俺は即座にその場から離脱して、邪光ランタンを左手でかざす。

邪悪なる闇光ホーリーライト

 一瞬だけ、辺り一帯すべてが闇に包まれる。胸騒ぎを引き起こすような重い振動が一挙に広がり、そして光が戻ってきた刹那。

 昆虫の大きな魔物は力をなくして真横に倒れた。昆虫とはいえ巨体なために、衝撃で地面がズズンと揺れた。
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