邪神に仕える大司教、善行を繰り返す

逸れの二時

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月の氾濫

これからのこと

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 よし、倒したか。

“よくやった我が大司教よ”

「素晴らしい戦闘でした」

「どうも。とにかく早く飯を食いたい……」

 俺たちがそうして一息ついていると、ツリーハウスからシビルとノエラが何事かと揃って出てきた。やべえ、振動でノエラを起こしちゃったのかな。

「んなっ! こ、こんな大物を一人で狩ってきおったか……!」

「……!」

 シビルは高い位置から魔物を見下ろしつつ驚愕しているし、ノエラも同様に巨大な昆虫を見て唖然としているようだ。

 それで気付いたがノエラの服装がボロ布の服から大分ランクアップして、ちゃんとした布の白い服を着ている。俺が来る前から既に起きていたようだな。

「おう、おはようノエラ。起きてたか。具合は良くなったか?」

 俺はノエラに話しかけたが、代わりにシビルが渋い顔をする。

「話をするのは良いが、まずはそこのデカブツを何とかせい。そんなグロテスクなものを引き連れてくるでないわ」

「わかってるっての」

 俺は手早く奇跡を使って倒したアパットカリットを消し去った。コイツの素材は俺の身長くらいはあろう巨大なカマ。それもきちんと回収して【闇の領域ブラックホール】に入れておく。

 このカマで殺されかけたんだ。高く売って金にでもしてやらないと気が済まないからな。

 あ、そういえばノエラの前で奇跡を使っちゃったけどいいか。そんな気にしないだろ。そんなことを逐一考えつつ処理していると、シビルが突然叫んできた。

「お、お前何をした!? ワシはてっきり処理に困ると思っておったのに」

「あ? 奇跡で消し去っただけだよ? そういうのは精霊魔法じゃできないのか?」

「できるわけないじゃろうが! 全く、さも当たり前のように強力な力を使いおって……」

「……」

 何? 俺が悪いの? いいじゃんねえか別に。便利なもんはどんどん使っていかないと損だしな。

 そうやってグチグチ文句を言われていると、ノエラがちょっと微笑んでるのが遠目に見えた。あれ、ノエラってこんな風に笑うんだな。

「サム様、どうしましたか? 中に入りましょう」

「お、おう」

 それから俺はツリーハウスの中に入り、シビルに狩りの成果を報告した。話をしながら気付いたが、このあたりの魔物は強くないって言ってたのに、そこそこ強い相手ばかりだった気がする。一般人でも撃退くらいはできそうな相手はマガスパング以外いなかったかもな。

 それをシビルに聞いてみたら、やっぱり月の影響みたいだ。三年前から徐々に魔物が強くなっていったそうだが、ここ数日は特に酷いようだな。光の神の影響とはいえいい迷惑だね! 

 この森の中はシビル以外の人が住んでないからまだいいんだろうけど、これが他の地域となると、普通に生活している人たちが危険に晒されないとも限らないな。

「なあシビル。他の場所は大丈夫かな? 魔物が強力になると困るだろ?」

「そりゃもちろん困っておるだろうな。森の中ほどではないじゃろうが、少しずつ魔物が強くなっとるはずじゃ。じゃが森を出られんワシにはどうにもできんからな。月に手出しはできんし、森の魔物を駆除するのだって追いついとらん」

「そうだよなあ……」

 あれあれ? これ、もしかして相当にマズい状況なのでは?

「そうですね。かなり危険な状況であると言えますね」

“カロヌガンめ。一体どうするつもりなのだ……”

 あろうことか邪神に説教されるなんて、カロヌガンとかいう神はホントしょうもないな。

「ふっ。……ふふっ」

 アンヘルが悪魔顔で笑いを堪えきれていない。微妙にマサマンディオスからイライラが伝わってくるけど多分気のせいだろう。

「クサクサしても仕方ないじゃろう。ところでサムよ。お前はこれからどうする? ノエラはワシに精霊魔法を教えてほしいと頼んできたから一通り教えるつもりじゃが」

「あ、そうなの? じゃあ俺もノエラの修行? が終わるまでここにいるよ。いつまでかかるかわからないけど、ノエラを森の中で放置ってのはさすがにあり得ないだろ」

「あ、ありがとう……ございます」

「いいって。というかノエラにはきちんと自己紹介してなかった気がするな。俺、サムな。よろしく」

「……はい。よろしくお願いします」

 そう言いながら、ノエラは俺から目線を転がしてどこかを見ている。そしてまた、小さく微笑んだ。可愛い。

「どうしたのノエラ?」

「あ、いえ……」

「精霊じゃよ。お前には見えんだろうが、糸の精霊がお前の髪で遊んでおる」

「エッ。何それ? 大丈夫なの?」

「大丈夫って何がじゃ。別に害のある精霊じゃないぞえ」

「そうか。じゃあ好きにさせとくかな」

「……どうせお前にはどうにもできんじゃろうに」

「まあな」
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