邪神に仕える大司教、善行を繰り返す

逸れの二時

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月の氾濫

素材採取

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 その後、昼食を食べてから俺は森に物資の調達に、ノエラとシビルは精霊魔法の講習をやった。俺の集める物資とはベッドの材料だそうだ。昨夜はやっぱり遠慮してたんだな。

 家具については材料さえ揃えば精霊魔法で自由に作れるらしい。俺の奇跡ではそのあたりのことはできないから、四力を持っていても、それぞれできることとできないこと、得手不得手があるな。

 必要なのは骨組みに使う丈夫な木材と長めに伸びた植物のツル、それと加工しやすい装飾用の木材だ。

 木を切るのは得意じゃないんだけど、そんなことを言ったらシビルにまた小言を言われるのでここは大人しく従っておく。一応家主だし、そもそも俺たちのせいでベッドが足りないんだからな。

 そういうわけで凝りもせず森の奥深くに入るのだが、今回は戦うのが目的ではないので、魔物は避ける方針でいく。【闇の感知ダークセンス】でも良いのだが、あえて別の奇跡を使ってみることにする。

 選んだのは自身を目立たないようにする奇跡、【闇の加護ダークブレッシング】だ。実は司祭衣を呼び出したのもこの奇跡。でもそっちの使い方は応用で、本来は姿を隠したり、見られても気にされなくしたりするような奇跡だ。

 司祭衣の方は俺の拡大解釈だったけど、ある程度意図が合致すれば奇跡も応用できる。

 とにかく俺はその奇跡で姿を隠し、魔物がいてもスルーする作戦を取った。悪意を感知しながら魔物を避けるより材料集めに集中できそうだからね。

 どんな素材が適しているかイマイチわからないんだけど、用が足りそうなものをいくつか選んで持っていくことにする。

 もちろん木こりの斧なんて持っていないから、邪剣パルーサで強引に木を切り倒す。お世辞にも木の伐採には向いているとは言えない形の邪剣だが、切れ味が鋭くてよかった。何回か木の根元を叩けば、それでしっかりと木が切れる。アンヘル自身は大層不満そうだったけど。

「こ、こんな使い方をされるなんて……」

「あー……ごめんな? でもこうする他ないからさ」

「大司教様のお役に立てるなら甘んじて受け入れます……」

「あの……そんなに嫌なの?」

「……いいえ。大丈夫です。問題ありません」

 問題ありそう。きっと剣としての沽券に関わるんだろうな。これ以降は変な使い方はしないでおいてあげよう。

 こうしてしっかりとした質の良い木材が手に入ったら、次は植物のツルだ。これは何かを結合するのに使うんだろうから、できるだけ柔軟なやつがいいよな。ちょっと場所を移動して、いろんな植物がシュルシュル生えたところにやってくる。

 ツルとなると木とかに巻き付いてたりするかなっと――お、あった。上を見上げたら大きな木の幹に螺旋状に巻き付いているツルを見つけた。この長さなら十分だし、引っ張ってみても切れずにしなやかだ。これで二つ揃ったな。

 最後は装飾用の綺麗な木材だな。さっきの頑丈な木とは違って、こっちは見た目の方が重要かもな。できるだけ綺麗な形で色と手触りがいいのにしよう。

 そうして木を選び終えたら、パルーサ……ではなく【冥暗の衝撃ブライトフォース】の奇跡で衝撃波を放って木を倒した。そしたらアンヘルから直ちに抗議の声が上がる。

「これなら先ほどの木も私を使わずに倒せたのでは……?」

「……気にしない気にしない!」

 俺は面倒になって説明をやめた。奇跡は出力の調整が大変なのよ。そうやって全部の素材を集めたらツリーハウスに帰る。森の中を歩き回ったから二時間かそこらは経ったかな。

「ただいま。素材を取って来たぞ」

「ご苦労じゃったな。つつがなく終わったか?」

「もちろん! ささ、どうぞお納めください」

 俺は【闇の領域ブラックホール】から材料を出して渡した。シビルはそれを受け取って材料の質を確認している。

 一つ一つ手に取って、注意深く眺める。木材はパルーサで丁度良さげな大きさに切って材木にしておいたから不満はないだろう。

 そんな中、俺はふと視線を感じてノエラの方を見る。でも彼女は本を読んでいて、そちらに目線を落としている。おかしいな、確かに視線を感じたんだけど。

「良いだろう。地下に運んどくれ」

「地下なんてあったのか」

「ああ。実験室になっとるよ。ほれ、ここじゃ」

 単なる部屋の端っこの場所だと思っていたあたりの地面に隠し階段があった。精霊使いの実験室とはどんな場所なのか興味に駆られながら階段を下りると、そこは薄暗い木の根元部分だということがわかる。

 少し湿っているが、それが植物の生育には都合が良いみたいで、いろんな植物が間隔を空けて植えられている。

 円形の部屋に沿って置かれた棚には薬瓶らしきものが幾つもあって、それぞれ違った色の液体が入っていた。なるほど、植物関係の実験なのか。

 精霊魔法は自然を操るような魔法だから、植物とは相性がいいんだろうな。
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