邪神に仕える大司教、善行を繰り返す

逸れの二時

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波乱と休息

展望

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 そうだ。あの子を助けたのは無駄なんかじゃなかった。

「ほんと、災難だったな。自分の娘が心配だったあまりに目が曇ってたんだろうが、そのうち奴らも目を覚ますだろうよ」

「そうだといいが」

「そうじゃなきゃあいつらは人間の風上にもおけねえよ。俺にはあんたに寝床と食事を提供してやることしかできないが、応援だけはしてやる。せいぜいその信念を先入観で消されちまわないように頑張りな」

「もちろん、そのつもりだ」

「よく言ったな。おおそうだ、忘れるところだった。あんた旅人なんだろ?」

「そうだが、それがどうかしたか?」

「フォースなのに有力者じゃないヤツはこの街では四力統治塔フォースタワーで生計を立てるそうだぞ。まああんたは金に困ってないって言ってたが、魔物退治をするにしても依頼を受けてからにすればより金の入りが良くなるだろう。魔物退治以外にも人助けに繋がる依頼も多いから、あんたなら重宝するはずだ」

 わからない単語が出てきたのでそれとなく紋章に聞くと、フォースというのは四力のいずれかの力を持つ人のこと。四力統治塔はそのフォースたちをまとめる機関のようだ。情報通りなら、その四力統治塔に行けば自然と人助けをすることができるだろう。

 【堕落の導き手フィギアヘッド・オブ・レリーフ】を使って困っている人を探そうと思っていたが、不自然極まりないからな。

 あなた、困っていませんか なんて司祭衣の男に聞かれたら警戒されて逃げられても文句は言えないだろうし、下手したら通報されかねないな。この情報はかなり有益そうだ。

「なるほど、良い情報だな。感謝するよ」

「だが気をつけろよ。あんたは特殊だから最初は歓迎されないだろう。上手いことやるんだな」

 それじゃとおじさんは持ち場のカウンターへと戻っていった。今日は最後にどっと疲れたがそれなりに良いこともあったな。おじさんのおかげで、この世界も捨てたものじゃないと感じることができた俺だった。

 あの後、俺とノエラは普通に自室に戻って眠りについた。いくらおじさんの優しい言葉があってもあの親子のことは頭から離れなかったが、これからマサマンディオスの名前を広めるために活動するなら、こんなことはいくらでもあるだろう。

 何も感じなくなるなんてことにはならないだろうし、なりたくもないが、せめて自分は善意を持って行動しているんだという軸だけはしっかり確立しておかないといけないな。

 あれ以後アンヘルとマサマンディオスとは何も話はしなかったが、きっとショックを受けただろうな。邪神になった経緯についての完全な当事者ではない俺でもかなりの衝撃だったのだから、完全に当事者のマサマンディオスはもっと心を痛めているだろう。

 翌朝になり、窓辺から差した朝日を浴びながらそんなことを考えていると、急にマサマンディオスが安定の低音ボイスで語りかけてきた。

“……昨夜のことは感謝する。汝には苦労をかけたな”

「気にするなって。今や俺も熱狂的な信者だからな! そう言うマサマンディオスは大丈夫か? 結構キツいことを言われただろ?」

“あの程度で挫ける我ではない。案ずるな”

「今までも地獄から何度か人間たちの様子を見ていましたから、マサマンディオス様も私も今回のようなことを見聞きしたのは初めてではありません。ですがサム様、お気遣い本当にありがとうございます」

「そんなに気にしてないならいいんだ。今日はノエラと買い物だから楽しんでくるよ」

 俺はベッドから飛び降りて支度を済ませると、ノエラの部屋の戸を叩いた。昨日の内に今日の予定を言っておいたから、準備をしてくれているといいんだけど。

「サムさん、もう出かけますか?」

 宿の部屋の扉越しに見えたノエラの姿は言い知れぬ生活感があってグラッと来そうだった。セミロングの髪は整えられる前で毛先が広がっているが、それがむしろ寝起きを感じさせ、目が覚めきっていない様子も何故かグッと来るものがある。

 ババアのところにいた時は、俺は起きてすぐ魔物退治に向かっていたため、寝起きのノエラを見ることはなかったのだが……これは危うい。

 思わず狼狽えそうになるが、馬鹿なことはできるだけ考えずに、朝食を食べたら出発するから準備していてくれとだけ声をかけた。
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