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赤き爪痕
類まれな治癒
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正直人に見られながら治療するのは気が引けるが仕方がない。治療の様子はどう見ても呪いだが、それについては黙っていてもらうしかない。覚悟を決めて、俺はランタンの火を灯して治療を始めた。途端に包む黒い霧。それらが患者たちに降りかかり、渦を巻いて治癒の神力を注いでいく。
セレーヌも大司教も酷い光景に息を呑んでいるのが聞こえる。だが、黙ってこちらを見ているだけだ。そのおかげで集中は保てている。本当に酷い傷だ。よくここまで逃げて来られたと不思議に思うほどに内臓まで焼け付いて、深く焦げ付いている。それらを神力で包み込み、黒く濁った紫色の光を当て続ける。
傷周りの治癒力を活性化し、これほどまでに傷を受けた体を回復させる。約十五分くらいだろうか。俺は患者の傷が完全にふさがって、傷んだ内臓も元通りになったのを感じて治療を終了させる。酷い名前の奇跡だが、それは今更だ。
【暗黒の濃霧】
霧が一斉に収束して消える。後ろで見ていた大司教はわけがわからないとでも言うように首を傾げた様子だったが、セレーヌは感嘆の声を漏らした。
「サム様、やはりこれだけのことを成し遂げてしまうのですね」
「セレーヌよ、彼は治療を……?」
「大司教様、サム様は類まれな力の持ち主。患者たちは完治したのでしょう」
「何ですと!? たったこれだけの時間でこの人数を?」
「ええ。それが彼の力なのです。紛うこと無き神の御業ですわ」
どうやらこの神殿の大司教様は、時間があまりにも短かったから俺が治療を諦めたと思ったようだ。ふふん、そんなすぐ諦めたらマサマンディオスが泣いちゃうよな。まだまだ患者は残ってるんだ。これで終わりにはできないよ。
「次の患者を治療しよう」
「は、はい。こちらへ」
セレーヌに他の患者のところに案内してもらう。彼らも同様に、火傷と鋭い何かによるひっかき傷、そして噛み付かれた跡。全く同じ状態だ。俺は嫌な気配を感じつつも治療を始めた。
一応先ほどのようにつつがなく治療は終わり、傷跡を完全に消すことに成功する。連続で治療するのはさすがにキツかったが、一度に5人治療したことにより、ノエラの魔法と薬による治療と合わせて、三度目で患者を全員治療しきった。
ノエラは一人一人治療したようだが、三人も人数を減らしてくれたのでかなりありがたかった。もう一回同じように治療するのは骨が折れるからな。ということでとりあえず患者の治療という目的は果たしたことにはなるが……。
「なあ、セレーヌ。さすがにこれはおかしいよな。これだけの重症者がこの人数。それなのにちゃんと全員逃げ帰って来てるなんて変だろう。傷も全部同じということは同じ魔物にやられた可能性が極めて高いってことだよな?」
「……ええ。かの山で何が起こっているのか、きちんと調査しなければいけませんね」
「それは任せるぞ。俺はもう疲れた。ノエラも相当頑張ってくれたし、もういいだろ」
「もちろんです。私たちの神殿の患者を救ってくださってありがとうございました。神殿からのお礼等は後日改めてきちんとさせていただきますので」
セレーヌは一度俺の治療を見ているからかさして驚いていないが、この神殿の大司教様は違った。もちろん俺についての諸々はセレーヌから聞き及んでいるだろうが、実物を見るとやはり困惑してしまうようだ。
邪神の神官と名乗る男が世にも恐ろしい黒い霧で患者を包み込んだと思ったら、自分ではやらないような形で患者の治療をしているなんて……控えめに言って異常極まりない。だから大司教様は形だけありがとうございましたとは言っているが、どこか上の空だった。
まあ仕方ないよな。かなりの緊急事態であの生真面目なセレーヌが頼った人間なのだから丁重に扱わざるを得ないが、どう見ても怪しくて奇妙で異質だろうし。そういうことなので、俺たちは大司教様の態度を特に気にせず、帰路についたのだった。
セレーヌも大司教も酷い光景に息を呑んでいるのが聞こえる。だが、黙ってこちらを見ているだけだ。そのおかげで集中は保てている。本当に酷い傷だ。よくここまで逃げて来られたと不思議に思うほどに内臓まで焼け付いて、深く焦げ付いている。それらを神力で包み込み、黒く濁った紫色の光を当て続ける。
傷周りの治癒力を活性化し、これほどまでに傷を受けた体を回復させる。約十五分くらいだろうか。俺は患者の傷が完全にふさがって、傷んだ内臓も元通りになったのを感じて治療を終了させる。酷い名前の奇跡だが、それは今更だ。
【暗黒の濃霧】
霧が一斉に収束して消える。後ろで見ていた大司教はわけがわからないとでも言うように首を傾げた様子だったが、セレーヌは感嘆の声を漏らした。
「サム様、やはりこれだけのことを成し遂げてしまうのですね」
「セレーヌよ、彼は治療を……?」
「大司教様、サム様は類まれな力の持ち主。患者たちは完治したのでしょう」
「何ですと!? たったこれだけの時間でこの人数を?」
「ええ。それが彼の力なのです。紛うこと無き神の御業ですわ」
どうやらこの神殿の大司教様は、時間があまりにも短かったから俺が治療を諦めたと思ったようだ。ふふん、そんなすぐ諦めたらマサマンディオスが泣いちゃうよな。まだまだ患者は残ってるんだ。これで終わりにはできないよ。
「次の患者を治療しよう」
「は、はい。こちらへ」
セレーヌに他の患者のところに案内してもらう。彼らも同様に、火傷と鋭い何かによるひっかき傷、そして噛み付かれた跡。全く同じ状態だ。俺は嫌な気配を感じつつも治療を始めた。
一応先ほどのようにつつがなく治療は終わり、傷跡を完全に消すことに成功する。連続で治療するのはさすがにキツかったが、一度に5人治療したことにより、ノエラの魔法と薬による治療と合わせて、三度目で患者を全員治療しきった。
ノエラは一人一人治療したようだが、三人も人数を減らしてくれたのでかなりありがたかった。もう一回同じように治療するのは骨が折れるからな。ということでとりあえず患者の治療という目的は果たしたことにはなるが……。
「なあ、セレーヌ。さすがにこれはおかしいよな。これだけの重症者がこの人数。それなのにちゃんと全員逃げ帰って来てるなんて変だろう。傷も全部同じということは同じ魔物にやられた可能性が極めて高いってことだよな?」
「……ええ。かの山で何が起こっているのか、きちんと調査しなければいけませんね」
「それは任せるぞ。俺はもう疲れた。ノエラも相当頑張ってくれたし、もういいだろ」
「もちろんです。私たちの神殿の患者を救ってくださってありがとうございました。神殿からのお礼等は後日改めてきちんとさせていただきますので」
セレーヌは一度俺の治療を見ているからかさして驚いていないが、この神殿の大司教様は違った。もちろん俺についての諸々はセレーヌから聞き及んでいるだろうが、実物を見るとやはり困惑してしまうようだ。
邪神の神官と名乗る男が世にも恐ろしい黒い霧で患者を包み込んだと思ったら、自分ではやらないような形で患者の治療をしているなんて……控えめに言って異常極まりない。だから大司教様は形だけありがとうございましたとは言っているが、どこか上の空だった。
まあ仕方ないよな。かなりの緊急事態であの生真面目なセレーヌが頼った人間なのだから丁重に扱わざるを得ないが、どう見ても怪しくて奇妙で異質だろうし。そういうことなので、俺たちは大司教様の態度を特に気にせず、帰路についたのだった。
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