邪神に仕える大司教、善行を繰り返す

逸れの二時

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堕天の刺客

隠滅

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 そんなわけでクルトと一緒にダロイの正門から外に出て、改めて巨大クレーターを目の当たりにした。そしたら……うーん、これは酷い。外に出ただけで見える大きな穴は、まるで隕石が落ちたかのように口を開けている。

 完全に土が抉れて綺麗な球形の下部分が見て取れるのだ。これを今から直そうというのもキツイが、何よりこんなことをしてしまったんだなという実感が沸々と湧いてくるのが辛かった。早く消してしまいたくて、俺はノエラとクルトに声をかける。

「二人とも、まずはごめんな。こんなことをさせてしまって申し訳ないよ。俺も精一杯力を渡すから頼むな」

「仕方あるまい。確かにドラゴンは脅威が過ぎた。制御を誤ってしまうのも無理はなかろう」

「そう……ですよね。思えば街の人に被害がなかったのはサムさんのおかげですから、気にしないでください」

「お、おう。じゃあ始めよっか!」

 ありがたいお言葉には素直に甘えさせてもらうことにする。俺はとにかくランタンを取り出して火を点けた。昨日は割と全力を出したが、もう神力は回復してるみたいだから何とかなりそうだ。ノエラとクルトの肩に軽く手を置いて、俺は譲渡の奇跡を行使する。

献身の常闇グランスオブデディケイション

 彼ら二人に俺の神力を渡そうと意識を集中する。しかしその直後に焦ったクルトに止められた。

「なっ、す、少し待て!」

「うん? どうかした?」

 俺は一旦奇跡の行使を中断する。クルトは僅かに見えている口元だけでもかなり狼狽えているのがわかった。

「お前はサム、と言ったか?」

「ん? ああそうだよ」

「貴様は……悪魔か何かか?」

「…………は?」

 今悪魔って言ったか? どっから来たんだその悪魔とやらは。神官様に対して失礼だなおい。俺はもちろん人間だぞ? あれ? 人間だよな?

“何を馬鹿げたことを考えておる。人間に決まっておろうが我が大司教よ”

「神力の量と質は悪魔並かもしれませんが、もちろん人間でいらっしゃいます」

 神と天使からお墨付きをもらっているとクルトがおずおずと説明する。

「貴様の神力は異常が過ぎる。イネッサの【献身の恵みグランスオブデディケイション】を受けたことがあるが、その何倍、いや。何千倍は神力があるように感じた。悪魔と言われてもおかしくはないが」

「悪魔じゃないって。確かに神力の量は多いみたいだが人間だぞ?」

「え? サムさんって人間だったんですか?」

「えっ? 人間じゃなかったんですか?」

 ノエラまで悪ノリしてきている。本気で言っていないのは彼女の笑みからわかるが、クルトがどう思うかは考えてなさそうだな。

「やはり人間ではないのか。まあ良い。私は誰にも言わない」

「だから人間だっての」

「大丈夫だ。私には分かっている。止めて悪かった。始めようではないか」

 いや、全然分かってないから! という抗議も空しく、クルトは一人で納得して精霊魔法に集中し始めてしまった。もう駄目だ。クルトはご丁寧にも誰にも言わないそうなので、俺は誤解を解くことを諦めてもう一度【献身の常闇グランスオブデディケイション】を行使することにした。

 それからはクルトとノエラも協力して穴を塞ぐべく力を注いでいる。彼らは途中まで探りを入れるように、少しずつ土の精霊と植物の精霊に頼んで修復していた。

 だがいけると思ったのか、俺の神力を大幅に使いながらメキメキと土を生み出してそれを盛りあげ、その上に植物を育んであっという間に小さな街くらいはある大きな穴を元通りに塞いでしまった。

 いやはや、凄いな。こう見てみると精霊魔法というのは自然のことには滅法強いのがよくわかる。完全に消え去っていた土を生み出して、植物を復活させるのは奇跡や魔術には無理だ。

 俺は尊敬の眼差しで彼らを見ていたつもりだったのだが、彼らは何か可哀そうなものを見る目で俺を見つめてきた。クルトはフードで隠れているが、何となく表情がわかってきた。

「これだけ神力を使われたのに何ともないとは……もはや哀れだ」

「サムさんを気にしながら進めたのは無用だったみたいですね。一応人間のはずだと思って加減していたんですが……」

 ノエラよ。その悪気がない感じで俺を人外扱いするのはやめてくれ……。でもまあこうして元通りになって俺の罪悪感みたいな申し訳ない気持ちもかなり薄れた。もっと時間がかかるかと思ったが思ったよりも早く終わったしな。
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