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悲しみの暮れ
黒服
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そんな街並みの変化を楽しみながら歩いていると、ふと黒っぽい服に身を包んだ数人の人がそそくさと一つの建物に入って行くのが見えた。一言で言えば広い屋敷のような建物。
高い塀に囲まれて立派な石の建材が使われた高級そうな屋敷だ。そもそも屋敷と呼べそうな建物自体がこの世界では多くないことを考えると、きっと上等な貴族の屋敷なのだろう。
いつかこんな豪邸に住みたいななんて不意に考えたが、それよりもさっきの黒っぽい服の人たちのことが気になった。貴族ならもっと派手な服装をしていても良いはずなのに、みんなして黒い服装とは一体どうしたのだろうか。真っ先に考え付くのは、やはりお葬式だろうか。
でもなんであんなに人目を忍んでって感じの雰囲気だったのだろうと色々と考えが巡る。ノエラも同じことを考えていたのか、二人して歩いていた歩を止めて屋敷の方を見つめていた。
「サムさん、あそこのお屋敷で何かあったんでしょうか?」
「何かあったことは間違いなさそうだよな。余計なお世話かもしれないけど、ちょっとお節介していってもいいか?」
「もちろんです。私はご迷惑にならない限りサムさんに付いていきますよ」
「ありがとうな。それじゃ神官らしいことの一つでもしてみるよ」
人目につかないよう、こっそりと邪光ランタンに火を点けて奇跡を行使した。
【堕落の導き手】
途端に俺の頭の中に困っている人の気配が飛び込んでくる。どれくらい困っているのかもこの奇跡で瞬時にわかった。
「思ったよりもたくさん困っている人がいるんだな。その中でも特にこの屋敷の中の人たちはかなり困ってるみたいだ」
「そうですか。何かお手伝いできることがないか話を聞いてみますか?」
「そうしようか。でもまずは宿の確保をしておきたいな。寝床がないと俺たちも困っちゃうからな」
「わかりました」
俺たちは観光の途中で見つけた宿に入ってとりあえず一泊だけ確保させてもらった。入った宿は無難に大通りの中くらいの規模の宿屋で、客の入りも良い感じだ。
内装はどこか北の方の民族が好みそうなインテリアが多い感じで、温かそうなモフモフの赤い布や青、白で描かれた独特な文様のある布が壁に広げてかけられている。
置物も無骨な木の人形や骨の飾り物なんかがあって、統一感もバッチリだった。そこの店主さんは褐色の肌にアフロっぽい髪型のおじさん。そして彼の娘なのか同じく褐色の肌をした若い綺麗な女性が食事を運んだり注文を聞いたりしている。
それ以外にも従業員はいたが、彼らが主にここの宿を取り仕切っているようだった。借りた部屋は地下の方にあって、下に下りると長い廊下にズラッと部屋が並んでいた。木の扉なので音が漏れそうなのが心配だったが、騒ぐのは上の階にあった食事処でできるから問題ないのかもしれない。
部屋の確認まで済んだらノエラと一緒に問題の屋敷まで戻って来て、少し離れたところで作戦会議をする。何も知らない人間がいきなり押しかけるわけだから、それなりの口上なり言い訳は必要になるだろう。
そしてノエラと相談した結果、シンプルにありのままを述べるのが良いだろうということになった。何も思い浮かばなかったというのもあるが、変に誤魔化しても仕方ないという結論だ。
俺は思い切って屋敷の敷地に入って行き、遠慮がちに豪華な扉をノックする。別に悪いことをしにきたのではないのだが、妙に緊張する時間だ。しばらく待っていると、やはり黒い服に身を包んだ女性が出てきた。
年の頃は恐らく四十代くらい。少し赤みの混じった髪色のその人は目を真っ赤に腫らして寝不足なのか目に隈を携えている。きっと美人さんだろうに悲しみにくれてどん底にいるのだろう。この様子から考えて、お葬式で一旦当たりをつけても良さそうだ。
「突然お邪魔して申し訳ないな。俺は神官のサム・オルグレン、こっちは精霊使いのノエラ・ラ・トゥールだ。大都市ダロイでは伯爵と子爵の位をもらってる」
よろしくお願いしますとノエラも頭を下げてくれている。ここぞとばかりに貴族を名乗ってみたが、これは少しでも信用を勝ち取っておきたいからだ。そもそもが怪しい訪問だから、話だけでも聞くために出来る限りのことはしておかないといけない。
高い塀に囲まれて立派な石の建材が使われた高級そうな屋敷だ。そもそも屋敷と呼べそうな建物自体がこの世界では多くないことを考えると、きっと上等な貴族の屋敷なのだろう。
いつかこんな豪邸に住みたいななんて不意に考えたが、それよりもさっきの黒っぽい服の人たちのことが気になった。貴族ならもっと派手な服装をしていても良いはずなのに、みんなして黒い服装とは一体どうしたのだろうか。真っ先に考え付くのは、やはりお葬式だろうか。
でもなんであんなに人目を忍んでって感じの雰囲気だったのだろうと色々と考えが巡る。ノエラも同じことを考えていたのか、二人して歩いていた歩を止めて屋敷の方を見つめていた。
「サムさん、あそこのお屋敷で何かあったんでしょうか?」
「何かあったことは間違いなさそうだよな。余計なお世話かもしれないけど、ちょっとお節介していってもいいか?」
「もちろんです。私はご迷惑にならない限りサムさんに付いていきますよ」
「ありがとうな。それじゃ神官らしいことの一つでもしてみるよ」
人目につかないよう、こっそりと邪光ランタンに火を点けて奇跡を行使した。
【堕落の導き手】
途端に俺の頭の中に困っている人の気配が飛び込んでくる。どれくらい困っているのかもこの奇跡で瞬時にわかった。
「思ったよりもたくさん困っている人がいるんだな。その中でも特にこの屋敷の中の人たちはかなり困ってるみたいだ」
「そうですか。何かお手伝いできることがないか話を聞いてみますか?」
「そうしようか。でもまずは宿の確保をしておきたいな。寝床がないと俺たちも困っちゃうからな」
「わかりました」
俺たちは観光の途中で見つけた宿に入ってとりあえず一泊だけ確保させてもらった。入った宿は無難に大通りの中くらいの規模の宿屋で、客の入りも良い感じだ。
内装はどこか北の方の民族が好みそうなインテリアが多い感じで、温かそうなモフモフの赤い布や青、白で描かれた独特な文様のある布が壁に広げてかけられている。
置物も無骨な木の人形や骨の飾り物なんかがあって、統一感もバッチリだった。そこの店主さんは褐色の肌にアフロっぽい髪型のおじさん。そして彼の娘なのか同じく褐色の肌をした若い綺麗な女性が食事を運んだり注文を聞いたりしている。
それ以外にも従業員はいたが、彼らが主にここの宿を取り仕切っているようだった。借りた部屋は地下の方にあって、下に下りると長い廊下にズラッと部屋が並んでいた。木の扉なので音が漏れそうなのが心配だったが、騒ぐのは上の階にあった食事処でできるから問題ないのかもしれない。
部屋の確認まで済んだらノエラと一緒に問題の屋敷まで戻って来て、少し離れたところで作戦会議をする。何も知らない人間がいきなり押しかけるわけだから、それなりの口上なり言い訳は必要になるだろう。
そしてノエラと相談した結果、シンプルにありのままを述べるのが良いだろうということになった。何も思い浮かばなかったというのもあるが、変に誤魔化しても仕方ないという結論だ。
俺は思い切って屋敷の敷地に入って行き、遠慮がちに豪華な扉をノックする。別に悪いことをしにきたのではないのだが、妙に緊張する時間だ。しばらく待っていると、やはり黒い服に身を包んだ女性が出てきた。
年の頃は恐らく四十代くらい。少し赤みの混じった髪色のその人は目を真っ赤に腫らして寝不足なのか目に隈を携えている。きっと美人さんだろうに悲しみにくれてどん底にいるのだろう。この様子から考えて、お葬式で一旦当たりをつけても良さそうだ。
「突然お邪魔して申し訳ないな。俺は神官のサム・オルグレン、こっちは精霊使いのノエラ・ラ・トゥールだ。大都市ダロイでは伯爵と子爵の位をもらってる」
よろしくお願いしますとノエラも頭を下げてくれている。ここぞとばかりに貴族を名乗ってみたが、これは少しでも信用を勝ち取っておきたいからだ。そもそもが怪しい訪問だから、話だけでも聞くために出来る限りのことはしておかないといけない。
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