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第二章
慈善
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「こんなところに来て何をしようと言うのかしら?」
お昼頃、日が高くなってきた屋外でマデリエネは腕組みをしながら不審げに神官を見ていた。一口に神官と言っても、この女性神官は変わり者。勧誘や布教活動には一切興味がなく、その人の心に善の灯がともればそれで良しとする異端者だった。
神殿内にはもちろん苦い顔をする者がいないことはないが、彼女の考えに共感する者だっていないことはなかった。
「マデリエネさんはきっと悩める人たちの相談を聞いたり、神殿の炊き出しを手伝ったりするよりもこっちの方が良いと思って」
そう言って彼女が勧めるのは食料集めだった。つまり、今彼女らが眺めている光景は小さな川とその周囲に広がる河原である。こんなことになったのも、マデリエネが自分の人生についてリュドミーラに話したことに由来する。
最初はそんな話をするつもりではなかった彼女も、リュドミーラが犯罪組織の生まれだという事実を聞いて、気が付けば話してしまっていた。認めたくはないが、盗賊として物を盗んで生活してきたことが後悔に変わりつつあるということかもしれない。
そう思ったことがリュドミーラにも伝わって、慈善活動をしてみてはどうかという提案に繋がった訳だ。
「確かにそういうのは性に合わないと思うわ。でもしたくないからやらないなんて、そんなんでいいのかしら?」
「別に無理をしてそういうわかりやすい活動をする必要はないのですよ? 誰かのために活動することこそが慈善活動というものの本質ですから」
「確かにそうね」
神官様の言うことは一理あった。
「では狩りをしていきましょう。冒険者が増えたことで食肉の供給が増えてきたのは事実ですけれど、それでもまだ貧しい人たちには高価なものですわ」
「というか神官でも狩りは許されるの?」
「必要なことならば神様もわかってくださいますわ。神殿には良い顔をされないでしょうけど、私は神に仕えても神殿に仕えるつもりはないのですわ」
「そんなことを言ってしまうなんて、やっぱりあなたは変わり者ね」
二人は物陰に隠れつつ、水を飲みに来た動物を狙う。しかし、距離が近すぎて逃げられてしまったり、逆に遠すぎてナイフが当たらなかったりと意外と苦労した。最終的にはシカが一頭とカモ一羽を捕まえることができ、マデリエネは納得の表情だったが、まだまだ仕事は終わっていなかった。それは獲物の運搬である。
「本当に手伝わなくてよろしいのですか?」
「私の慈善活動だもの。あなたに手伝ってもらったら悪いわよ。それに私は体力をつけないといけないわ」
マデリエネは素早くは動けたが、持久戦の自信はなかった。盗賊業と冒険者としての仕事は彼女にとってはかけ離れてはいないが似てもいないのだ。重しをつけてある程度の長距離を急ぐのはそれなりに効果がありそうで、街の神殿地区に着くころには、いつもはエレガントに振る舞っている彼女も息を切らしていた。
「やっと着きましたわね。お疲れ様ですわ」
「神殿の中には入りづらいし、あなたが持って行ってくれないかしら?」
「わかりましたわ。マデリエネさんはここで休んでいてください」
リュドミーラがシカとカモを抱えて神殿に入ってから少しして、前掛けをしたシスターがリュドミーラと共にやってきた。どうやらお礼を言いに来たようである。
「あれだけの動物を捕らえるのは大変だったでしょう。どうもありがとうございます。神のご加護がありますように」
シスターは礼儀正しく挨拶すると、また神殿内へと戻っていった。たったそれだけのことではあったが、彼女の気持ちは少しだけ晴れたような気がした。
「こんなことでもいいのかしら。ただの自己満足よね?」
「慈善活動なんて所詮は自己満足ですわ。それでもその気持ちで誰かが救われる。わたくしはそれでいいと思いますわ」
「それもそうね」
マデリエネは呟いた。しかし彼女がいつものように冷やかに言うのとは違い、今回はしっかりと重みを伴っていた。
やることもやりましたし帰りましょうと言うリュドミーラの言葉をきっかけにして、二人は豪傑の虎亭へと向かった。しかしその途中、見慣れたローブの二人組を見かける。
それはアロイスとカティだ。だがその様子は神妙で、誰かを追いかけているようだ。二人は即座に異変を感じ、誰かを追う彼らを追いかけた……。
お昼頃、日が高くなってきた屋外でマデリエネは腕組みをしながら不審げに神官を見ていた。一口に神官と言っても、この女性神官は変わり者。勧誘や布教活動には一切興味がなく、その人の心に善の灯がともればそれで良しとする異端者だった。
神殿内にはもちろん苦い顔をする者がいないことはないが、彼女の考えに共感する者だっていないことはなかった。
「マデリエネさんはきっと悩める人たちの相談を聞いたり、神殿の炊き出しを手伝ったりするよりもこっちの方が良いと思って」
そう言って彼女が勧めるのは食料集めだった。つまり、今彼女らが眺めている光景は小さな川とその周囲に広がる河原である。こんなことになったのも、マデリエネが自分の人生についてリュドミーラに話したことに由来する。
最初はそんな話をするつもりではなかった彼女も、リュドミーラが犯罪組織の生まれだという事実を聞いて、気が付けば話してしまっていた。認めたくはないが、盗賊として物を盗んで生活してきたことが後悔に変わりつつあるということかもしれない。
そう思ったことがリュドミーラにも伝わって、慈善活動をしてみてはどうかという提案に繋がった訳だ。
「確かにそういうのは性に合わないと思うわ。でもしたくないからやらないなんて、そんなんでいいのかしら?」
「別に無理をしてそういうわかりやすい活動をする必要はないのですよ? 誰かのために活動することこそが慈善活動というものの本質ですから」
「確かにそうね」
神官様の言うことは一理あった。
「では狩りをしていきましょう。冒険者が増えたことで食肉の供給が増えてきたのは事実ですけれど、それでもまだ貧しい人たちには高価なものですわ」
「というか神官でも狩りは許されるの?」
「必要なことならば神様もわかってくださいますわ。神殿には良い顔をされないでしょうけど、私は神に仕えても神殿に仕えるつもりはないのですわ」
「そんなことを言ってしまうなんて、やっぱりあなたは変わり者ね」
二人は物陰に隠れつつ、水を飲みに来た動物を狙う。しかし、距離が近すぎて逃げられてしまったり、逆に遠すぎてナイフが当たらなかったりと意外と苦労した。最終的にはシカが一頭とカモ一羽を捕まえることができ、マデリエネは納得の表情だったが、まだまだ仕事は終わっていなかった。それは獲物の運搬である。
「本当に手伝わなくてよろしいのですか?」
「私の慈善活動だもの。あなたに手伝ってもらったら悪いわよ。それに私は体力をつけないといけないわ」
マデリエネは素早くは動けたが、持久戦の自信はなかった。盗賊業と冒険者としての仕事は彼女にとってはかけ離れてはいないが似てもいないのだ。重しをつけてある程度の長距離を急ぐのはそれなりに効果がありそうで、街の神殿地区に着くころには、いつもはエレガントに振る舞っている彼女も息を切らしていた。
「やっと着きましたわね。お疲れ様ですわ」
「神殿の中には入りづらいし、あなたが持って行ってくれないかしら?」
「わかりましたわ。マデリエネさんはここで休んでいてください」
リュドミーラがシカとカモを抱えて神殿に入ってから少しして、前掛けをしたシスターがリュドミーラと共にやってきた。どうやらお礼を言いに来たようである。
「あれだけの動物を捕らえるのは大変だったでしょう。どうもありがとうございます。神のご加護がありますように」
シスターは礼儀正しく挨拶すると、また神殿内へと戻っていった。たったそれだけのことではあったが、彼女の気持ちは少しだけ晴れたような気がした。
「こんなことでもいいのかしら。ただの自己満足よね?」
「慈善活動なんて所詮は自己満足ですわ。それでもその気持ちで誰かが救われる。わたくしはそれでいいと思いますわ」
「それもそうね」
マデリエネは呟いた。しかし彼女がいつものように冷やかに言うのとは違い、今回はしっかりと重みを伴っていた。
やることもやりましたし帰りましょうと言うリュドミーラの言葉をきっかけにして、二人は豪傑の虎亭へと向かった。しかしその途中、見慣れたローブの二人組を見かける。
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