死者と竜の交わる時

逸れの二時

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第三章

貧しさの断片

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マデリエネがダレンの家まで戻っても、アロイスはまだ操原魔法を維持し続けていた。彼女が持ってきた薬草を渡すと、彼は手早くその薬草の処理をしていき、あっという間に茶色みがかった薬が出来上がる。

「これでいいでしょう。ところでザルムさんは?」

「ああ、アイツならきっと今頃、魔物を切り倒して喜んでるわよ」

「そうですか。彼のおかげで薬草が早く手に入りましたし、助かりましたね。マデリエネさんも森までわざわざ疲れ様でした」

「お安い御用よ。これで良くなるといいんだけど……」

「大丈夫ですよ。治らない理由がありませんから」

すると近くで体育座りをしていたコリンがアロイスに聞いてきた。

「本当に? お母さんは良くなるの?」

「本当だよ。みんなで協力してお薬が作れたから、きっと元気になるはずだよ」

「そうね。……君みたいな若い子がそんな顔をするもんじゃないわ。お母さんが元気になるように、綺麗なお花を摘みにいきましょ」

マデリエネはコリンの手をそっと取ると、アロイスに頼んだわよと目配せして扉の外に行った。

薬を飲ませてから、ザルムが返り血だらけで帰ってくるほどの時間が経つと、メラニーの呼吸は落ち着いてきて熱もだいぶ下がっていた。さらに時間が経ち、マデリエネと共にコリンが戻ってくる頃には、かなり楽になったようで意識もハッキリとしていた。

コリンがマデリエネと作った花冠を彼女の頭に載せてあげると、メラニーはありがとうとコリンの頭を撫でてあげている。ザルムより戻るのが遅かったのは花冠を作っていたからだったのだ。

それからしばらくメラニーの様子を見守った後、彼らが再び村の外に出ると、お昼を少し越したくらいの日の高さだった。村長の家で事情を話し、メラニーのところへ食事を届けに行ってから、自分たちも軽く食事を済ませた。

そしてようやく、中断されていた親子の家の捜索に戻って来る。そこにはあのペンダントがギラリと不気味に光っていた。マデリエネはそれに何重にも布をかけて恐る恐る持ってみる。

……危険な反応が起きることはない。彼女から安堵のため息が聞こえた。そして彼女はそれをポーチに丁重に仕舞い込んで、今度は家の中の捜索を始めた。

最低限の物が置かれた食器棚に、小さなテーブル。古びた椅子に、一人しか横になれないような大きさの粗末なベッドがそれぞれもの寂しげに並んでいる。小さなテーブルは木製故に、敷き詰められた板の間に、小さいとは言えない大きさの隙間がいくつも空いていて、その物自体の作りが粗雑なのがよくわかる。

食器棚の方も本当に必要なだけの食器のみが残され、あとはもう何も残っておらず、すべて換金されているように思われた。

「かなり苦しい生活だったことがよくわかりますね」

「余裕のある人なんてそんなに多くないと思うけど、ここまで酷いなんて……」

「いや、多分どこもこんな感じだぞ。俺の家もなかなかに貧しかったからな」

「そうでしたか。やはり私は恵まれていたのですね……」

ザルムはこの部屋の光景を見て、懐かしさと苦しさ、そして惨めさを思い知ったようなそんな気分だった。だが少しずつ、忘れていた記憶の断片がよみがえってきた。ランタンの炎に不気味さを覚えていた理由がここでようやく腑に落ちた。

それはまだ、彼がずっと幼かった頃。竜族というだけで、他の子供たちと混じって遊ぶなんてことは夢のまた夢であったし、両親も細々した畑仕事が苦手だったために鉱山で働いていたが、賃金はあまりにも安く、何とか頼み込んで二人で働いていても生活は依然として苦しかった。おまけにザルムは家で独り留守の番。外には出歩くなと言われていたが、そんなことは子供にはあまりにも酷だった。

彼はこっそりと外に出て一人で遊んでいる毎日だったが、その習慣が彼の命を救うことになる。ある日、熱中し過ぎて帰りが遅くなったとき、焦って岐路についた彼が見たのは……オレンジ色の炎に包まれて燃えている我が家だった。

原因は今でも不明であるが、向かいの家の住人たちだけが、火事が起きても一向に家から顔を出さなかったことをザルムはよく覚えている。両親も働きに出ていたため、家族は全員無事だったが、住む家が無くなって一家は本当に苦労するハメになったのだった。

そして今、この家をよく見れば、間取りなどの構造がザルムの昔の家によく似ていた。だからふと思い出したのかもしれないと思って黙り込んでいたザルムを、仲間二人が眺めているところで彼は我に返った。

心配され、なんでもないとザルムは一応答えるが、それから複雑な思いを消すことができずに、口数はずっと少ないままだった。
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