死者と竜の交わる時

逸れの二時

文字の大きさ
28 / 84
第三章

霊障

しおりを挟む
ようやくダレンの家の木の扉を開けたとき、妻のメラニーが、なんと胸を押さえて倒れていた。

ハッと驚きつつ、ザルムとマデリエネが彼女をベッドまで運んで寝かせると、アロイスが魔法を使ってすぐさま診断を始めた。だがそれが終わる前に、マデリエネが原因に行き着いた。

「アロイス、あれを見て」

「あれは、カップですか? 水を飲んで倒れたのでしょうか」

アロイスがすべて言い切る前に、ザルムが落ちたカップの中身を確認する。こぼれてしまってよくわからないとみると、今度は水瓶を覗いてみた。すると……。

「泥水だ……」

「やられたわね。昨日彼女が見たのはやっぱりライナスくんだったんだわ。最初の被害者の妻だから狙われたのかしら」

「推理の前に、まずはゲルナードの森に行って薬草を取って来てもらえますか」

アロイスは素早く、薬草の種類を持っていたメモ用紙に書き記すと、茶色い表紙のあの本のいくつかのページを開いて挿絵を見せた。二人は挿絵を眺めてメモ用紙を受け取ると、光のような速さで森に向かって行く。残ったアロイスは、優しい調子で怯えていた少年に話しかけた。

「私はアロイス。きみの名前は?」

「……コリン……」

「コリンくんか。まずは安心して。お母さんは絶対良くなるから。でも必要なものがあるんだ。大きめの器に、草をすり潰せる物なんだけど、どこかにないかな?」

するとコリンは水瓶が置いてあるさらに奥の木の棚を指さした。アロイスがそれを確認すると、ちょうどいい大きさの木の器と、延べ棒が見つかった。

すり鉢と乳棒とはサイズ感が違うが、何とか用は足りそうだ。それから近くの井戸に行って、清潔な水を確保すると、彼は魔法を使って火をつけて水を十分に沸騰させた。あとは少しだけ効果がありそうな操原魔法かけ続けて、ようやく薬草を待つのみとなる。

「メラニーさん、聞こえますか?」

そう言われて彼女は目で反応するが、声を出して返事をする気力はないようだ。額に手を当ててみると、かなり高い熱があり、体が拒否反応を表していることがすぐにわかる。

三レベル魔法“バイタリゼイションアザー”を精一杯の力でかけ、彼は彼女と少年を見守っていた。


ザルムにとっては懐かしい場所となったゲルナードの森。だが今回は森の美しさを楽しんでいる暇などない。

急いでここまでやってきた二人は手分けして目的の薬草を探す。シマナの樹皮、ジニジニの根、シオリズミンの葉にチラスラスの茎と順番に薬草を集めて、それが必要なもので間違いないかを確認していく。

何かあったときに備え、彼らは一つずつ多めに薬草を摘んでいくと、あとは村に向かって全力疾走する。

しかしながら、大きな音を立てすぎたのか、森の中を走り抜けようとする彼らに、オオカミのような魔物、コボルト五匹が立ちはだかった。しかも後ろには二匹のマンドラゴラが控えているように見える。

マデリエネがダガーを抜こうとしたとき、その彼女の手にいくつかの薬草が手渡される。

「お前はそれを持って村に行ってくれ。ここは俺が引き受ける」

「これだけの数を相手に余裕の対応ね」

「まあな」

「ふふ。少しはいいとこあるじゃない」

その刹那、マデリエネはコボルトたちに向かって走っていく。

対する向こうもマデリエネに噛み付こうと牙を露わにして向かって来るが、鋭い牙が届くその直前で、彼女の姿はフッと消えた。

ザルムが上を見ると、コボルトたちの真上の木の枝を伝って、彼女が既に相手の後ろ側に抜けているのがわかる。

着地した後の走り始めに、彼女の元から何かがキラリと輝いた。と同時に、二匹のマンドラゴラはナイフに貫かれて息絶える。

マデリエネのサービスに、ザルムは口元を緩めると、威嚇し続けてくるコボルト五匹を静かに見渡した。

「そろそろ切りたくて切りたくてウズウズしてたんだ。付き合ってもらうぜ……!」

そう言う彼の瞳は赤く滾り、血を求めて輝いていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...