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第三章
霊障
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ようやくダレンの家の木の扉を開けたとき、妻のメラニーが、なんと胸を押さえて倒れていた。
ハッと驚きつつ、ザルムとマデリエネが彼女をベッドまで運んで寝かせると、アロイスが魔法を使ってすぐさま診断を始めた。だがそれが終わる前に、マデリエネが原因に行き着いた。
「アロイス、あれを見て」
「あれは、カップですか? 水を飲んで倒れたのでしょうか」
アロイスがすべて言い切る前に、ザルムが落ちたカップの中身を確認する。こぼれてしまってよくわからないとみると、今度は水瓶を覗いてみた。すると……。
「泥水だ……」
「やられたわね。昨日彼女が見たのはやっぱりライナスくんだったんだわ。最初の被害者の妻だから狙われたのかしら」
「推理の前に、まずはゲルナードの森に行って薬草を取って来てもらえますか」
アロイスは素早く、薬草の種類を持っていたメモ用紙に書き記すと、茶色い表紙のあの本のいくつかのページを開いて挿絵を見せた。二人は挿絵を眺めてメモ用紙を受け取ると、光のような速さで森に向かって行く。残ったアロイスは、優しい調子で怯えていた少年に話しかけた。
「私はアロイス。きみの名前は?」
「……コリン……」
「コリンくんか。まずは安心して。お母さんは絶対良くなるから。でも必要なものがあるんだ。大きめの器に、草をすり潰せる物なんだけど、どこかにないかな?」
するとコリンは水瓶が置いてあるさらに奥の木の棚を指さした。アロイスがそれを確認すると、ちょうどいい大きさの木の器と、延べ棒が見つかった。
すり鉢と乳棒とはサイズ感が違うが、何とか用は足りそうだ。それから近くの井戸に行って、清潔な水を確保すると、彼は魔法を使って火をつけて水を十分に沸騰させた。あとは少しだけ効果がありそうな操原魔法かけ続けて、ようやく薬草を待つのみとなる。
「メラニーさん、聞こえますか?」
そう言われて彼女は目で反応するが、声を出して返事をする気力はないようだ。額に手を当ててみると、かなり高い熱があり、体が拒否反応を表していることがすぐにわかる。
三レベル魔法“バイタリゼイションアザー”を精一杯の力でかけ、彼は彼女と少年を見守っていた。
ザルムにとっては懐かしい場所となったゲルナードの森。だが今回は森の美しさを楽しんでいる暇などない。
急いでここまでやってきた二人は手分けして目的の薬草を探す。シマナの樹皮、ジニジニの根、シオリズミンの葉にチラスラスの茎と順番に薬草を集めて、それが必要なもので間違いないかを確認していく。
何かあったときに備え、彼らは一つずつ多めに薬草を摘んでいくと、あとは村に向かって全力疾走する。
しかしながら、大きな音を立てすぎたのか、森の中を走り抜けようとする彼らに、オオカミのような魔物、コボルト五匹が立ちはだかった。しかも後ろには二匹のマンドラゴラが控えているように見える。
マデリエネがダガーを抜こうとしたとき、その彼女の手にいくつかの薬草が手渡される。
「お前はそれを持って村に行ってくれ。ここは俺が引き受ける」
「これだけの数を相手に余裕の対応ね」
「まあな」
「ふふ。少しはいいとこあるじゃない」
その刹那、マデリエネはコボルトたちに向かって走っていく。
対する向こうもマデリエネに噛み付こうと牙を露わにして向かって来るが、鋭い牙が届くその直前で、彼女の姿はフッと消えた。
ザルムが上を見ると、コボルトたちの真上の木の枝を伝って、彼女が既に相手の後ろ側に抜けているのがわかる。
着地した後の走り始めに、彼女の元から何かがキラリと輝いた。と同時に、二匹のマンドラゴラはナイフに貫かれて息絶える。
マデリエネのサービスに、ザルムは口元を緩めると、威嚇し続けてくるコボルト五匹を静かに見渡した。
「そろそろ切りたくて切りたくてウズウズしてたんだ。付き合ってもらうぜ……!」
そう言う彼の瞳は赤く滾り、血を求めて輝いていた。
ハッと驚きつつ、ザルムとマデリエネが彼女をベッドまで運んで寝かせると、アロイスが魔法を使ってすぐさま診断を始めた。だがそれが終わる前に、マデリエネが原因に行き着いた。
「アロイス、あれを見て」
「あれは、カップですか? 水を飲んで倒れたのでしょうか」
アロイスがすべて言い切る前に、ザルムが落ちたカップの中身を確認する。こぼれてしまってよくわからないとみると、今度は水瓶を覗いてみた。すると……。
「泥水だ……」
「やられたわね。昨日彼女が見たのはやっぱりライナスくんだったんだわ。最初の被害者の妻だから狙われたのかしら」
「推理の前に、まずはゲルナードの森に行って薬草を取って来てもらえますか」
アロイスは素早く、薬草の種類を持っていたメモ用紙に書き記すと、茶色い表紙のあの本のいくつかのページを開いて挿絵を見せた。二人は挿絵を眺めてメモ用紙を受け取ると、光のような速さで森に向かって行く。残ったアロイスは、優しい調子で怯えていた少年に話しかけた。
「私はアロイス。きみの名前は?」
「……コリン……」
「コリンくんか。まずは安心して。お母さんは絶対良くなるから。でも必要なものがあるんだ。大きめの器に、草をすり潰せる物なんだけど、どこかにないかな?」
するとコリンは水瓶が置いてあるさらに奥の木の棚を指さした。アロイスがそれを確認すると、ちょうどいい大きさの木の器と、延べ棒が見つかった。
すり鉢と乳棒とはサイズ感が違うが、何とか用は足りそうだ。それから近くの井戸に行って、清潔な水を確保すると、彼は魔法を使って火をつけて水を十分に沸騰させた。あとは少しだけ効果がありそうな操原魔法かけ続けて、ようやく薬草を待つのみとなる。
「メラニーさん、聞こえますか?」
そう言われて彼女は目で反応するが、声を出して返事をする気力はないようだ。額に手を当ててみると、かなり高い熱があり、体が拒否反応を表していることがすぐにわかる。
三レベル魔法“バイタリゼイションアザー”を精一杯の力でかけ、彼は彼女と少年を見守っていた。
ザルムにとっては懐かしい場所となったゲルナードの森。だが今回は森の美しさを楽しんでいる暇などない。
急いでここまでやってきた二人は手分けして目的の薬草を探す。シマナの樹皮、ジニジニの根、シオリズミンの葉にチラスラスの茎と順番に薬草を集めて、それが必要なもので間違いないかを確認していく。
何かあったときに備え、彼らは一つずつ多めに薬草を摘んでいくと、あとは村に向かって全力疾走する。
しかしながら、大きな音を立てすぎたのか、森の中を走り抜けようとする彼らに、オオカミのような魔物、コボルト五匹が立ちはだかった。しかも後ろには二匹のマンドラゴラが控えているように見える。
マデリエネがダガーを抜こうとしたとき、その彼女の手にいくつかの薬草が手渡される。
「お前はそれを持って村に行ってくれ。ここは俺が引き受ける」
「これだけの数を相手に余裕の対応ね」
「まあな」
「ふふ。少しはいいとこあるじゃない」
その刹那、マデリエネはコボルトたちに向かって走っていく。
対する向こうもマデリエネに噛み付こうと牙を露わにして向かって来るが、鋭い牙が届くその直前で、彼女の姿はフッと消えた。
ザルムが上を見ると、コボルトたちの真上の木の枝を伝って、彼女が既に相手の後ろ側に抜けているのがわかる。
着地した後の走り始めに、彼女の元から何かがキラリと輝いた。と同時に、二匹のマンドラゴラはナイフに貫かれて息絶える。
マデリエネのサービスに、ザルムは口元を緩めると、威嚇し続けてくるコボルト五匹を静かに見渡した。
「そろそろ切りたくて切りたくてウズウズしてたんだ。付き合ってもらうぜ……!」
そう言う彼の瞳は赤く滾り、血を求めて輝いていた。
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