死者と竜の交わる時

逸れの二時

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第三章

痛ましき調査

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メラニーを宥めてから外に出ると、そろそろ夕暮れ時になっていた。焦った様子で農具を片付けて家に入る村人たちが目に入る。村長から日が暮れたら家に入って外には決して出ないようにときつく言われていたらしい。

アロイスたちも流石に気疲れしたのか、少し早めだが村長の家へと足を運んでいる。

「悲しい話ばかりで心が締め付けられる思いよね」

「そうだな。遺された者の辛さが、ここ最近本当によくわかる気がするぜ」

「この事件を解決したら、難しいことを考えずにできる魔物退治の仕事でもやりたいところですね」

「それが一番だな」

「いつもなら反対するかもしれないけど、今は心から賛成よ」

村長の家に着くと、お疲れじゃったなと村長が広めの一室を案内してくれる。

「すまないが寝床は二つしかない。交代で眠ってたもれ。夜に起こった事件じゃし、いずれにしろ一人は起きているだろうが」

「ありがとうございます。ザルムさん、私と交代で眠りましょう」

「そうしよう。マデリエネはこれでも一応女だからな」

「これでもとは失礼ね。少しはデリカシーってものを考えたら?」

「お前は少しくらいおしとやかにしろ」

などと村長がいなくなっても口喧嘩が続く彼らにアロイスは尻ごみしつつ、明日の段取りを決めましょうと声を張って遮った。

「そうねえ。私は親子の遺体があった場所とその家の中、あとダレンさんの遺体の場所も捜索したいわ」

「俺は他の村人からも親子の話を聞きたいな。どんな人柄だったのか知っておきたい」

「私はそれぞれのお墓に行って、できれば遺体の状態まで確認したいですね。厳しいかもしれませんが」

「ナイーブな問題だものね。それで、手分けしてやるべきかしら?」

「どうだろうな。水瓶に男の子が見えたってダレンの奥さんは言ってたが、それが本当にアンデットだったとしたら……」

「その可能性を真っ向からは否定できませんよね。手分けした方が効率がいいことは確かですが、相手がいつどこから来るかわからない以上は戦力の分断は避けるべきかもしれません。物理攻撃が効かない可能性も考えられますから」

「あ、でもアンデットって昼間から活動するものなのか?」

「アンデットに近い存在でも私みたいに動けるものはいるでしょう。基本的にはないでしょうけどね」

「それは説得力大ありね。そういうことなら固まって動きましょ。捜索も捗るし」

「それがよさそうだな」

翌日の動き方が決まったところでアロイスを残して二人は床に就いた。

その夜、アロイスが創成魔法の魔導書を片手に番をしていると、頓に背筋に冷たいものが走った。その直後、今度は子供の笑い声がした気がした。即座に魔導書をしまい、彼は辺りを見回し警戒する。

だがそれきり、特に何かが起こるわけでもない。それでも用心深いアロイスは、杖を取り出し、最近習得した“プリモニション”の魔法を使った。ところが、これにも特に反応はない。

少なくとも、自分や近くの仲間が襲われかけているということではなさそうだった。

腑に落ちない様子のアロイスだったが、彼の知覚魔法のレベルではこれ以上何かをしようがない。この深夜帯の暗闇の中、闇雲に一軒一軒調べて回るのも、やはり現実的ではないだろう。

そう考えて、次の番のザルムに今あったことを伝え、指輪の効果に注意するよう言うだけに留めた。幸い、それからは特に何事もなく朝を迎える。

昨夜は何事もなかったみたいねとマデリエネが言うのに対し、アロイスはそうでもないかもしれませんと昨晩のことを詳しく伝えた。すると彼女はしおらしくその話に聞き入って、一回だけ瞬きをした。

「そう。もしかしたら思ったよりもすぐに、相手は何か仕掛けてきてるかもしれないわね。昨晩何かなかったか、すぐに聞いて回りましょ」

彼らは急いで準備をすると、しらみつぶしに一軒一軒軽く聞いて回った。

しかしながら、すべての家の戸を叩いても、何か起きた様子はなかったのである。なかなかの角度で首を傾げるアロイスに、ザルムは何もなかったならよかったなと明るく声をかける。

しかし彼にはどうも納得がいかないようで、しばらく考え込んでしまった。

とは言え、納得がいかなくても昨日立てた計画を放り出すわけにもいかず、渋々、行くべき場所へと歩いていった。

最初に向かったのは例の親子が息絶えてしまった家の前だ。マデリエネは覚悟するように大きく息を吸うと、今度はゆっくりそれを吐き出して、さあ始めましょうと薄手の手袋をはめた。

現場は悲劇があったときのままになっており、遺体が片付けられただけの状態になっている。みな気の毒がったり恐ろしがったりして近寄らなかったのだろう。

だが彼女がふと地面を見ると、第一発見者の男の話通り、大人が少し引きずられた跡が見える。その横には、手でえぐられたような小さな穴があり、ここで少年は泥水をすくい、耐え切れなくなった空腹をごまかそうとしたことが想像できた。

あとは雨による土崩れと時間の経過によってほとんど何も残っていないが、マデリエネが少し時間をかけて調べてみると、微かに、日の光を反射して輝く何かが見えた。

彼女はそれが気になって、周りの土を掘ってどけていく。すると、銀でできた綺麗なペンダントが姿を現した。

手がかりに違いないと警戒することなくそれを手に取った瞬間、頭に衝撃が走ったような頭痛がするとともに、ある一つの光景が目に飛び込んできた。

反射的にペンダントを落としてしまうとすぐにそれは消えてしまうが、嫌な汗と凄まじい息苦しさは、まるでこびりついたかのようにずっと体に残っていた。

肩で息をする彼女に、少し離れて周囲を捜索していたアロイスとザルムが駆けつけて来る。

「どうしたマデリエネ!? 大丈夫か?」

「これは……ペンダントのようですね。何があったのですか?」

そう聞いてくるザルムとアロイスに、マデリエネは起こったことを、まずは自分自身で整理しながら話をした。すべて聞き終わると、アロイスは魔法を使ってペンダントを宙に浮かせ、続けて魔法を唱えて光る目を見開いてじっくりとそれを観察しだした。

ある一点を見た直後、彼はペンダントを地面にゆっくりと戻し、冷静さを保つようにザルムとマデリエネを交互に見て口を開いた。

「物凄い怨念の力が見えました。尋常じゃないほどの……。あと、ペンダントの先に付けられた指輪には ライナス 誕生を祝して と書かれていました。おそらく、このペンダントはここで亡くなった男の子のものでしょう……」

「男の子の名前はライナス……か」

「私が視たのは、彼が見ていた最後の光景なのかしら。確か……そう。土砂降りの雨が降っていたわ」

「村長さんの話では彼らが亡くなったのは雨の日の夜でしたよね。だとすればその可能性は大いにあります」

「雨の日の夜ねえ……」

ザルムが呻いていると、遠くから男の子の声がした。その方向を見ると、ダレンの家で見た男の子が何か言いながら走ってくる。近くまで来ると、やっと何を言っているのかが理解できた。

「助けて! お母さんが!」

「何!? まさか襲われたのか」

「すぐに行くわよ!」

三人は手遅れになっていないことを祈りつつ、ダレンの家に向かう。冷や汗が垂れるのが分かるが、気にせずに走り続けた。
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