死者と竜の交わる時

逸れの二時

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第三章

親子の死

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去年は不作で作物があまり取れず、村全体が飢えに苦しんでいた。中でもその親子は、母と子の二人暮らし。それでもご近所で助け合ってはいたが、食料の問題はどうしようもなく、親子が他の家に食料を分けてもらいに行き、断られる姿を何度も見かけたという。

母親はたちどころに痩せていき、見る影もなく人相が変わるほどであった。

そして大雨の夜を越した次の日の朝、ついに母と子が身を寄せて死んでいるのが見つかった。亡くなった子供の手と口には沢山の泥がついており、空腹が限界を迎えたということが誰から見ても明らかだったという……。


「そりゃないぜ……」

「本当ですね」

「あんまりだわ。それが祟りの原因だと思っても無理ないわね」

「そういうことじゃ。でも三か月も前のことなのに、どうして今になって化けて出てきたのじゃろうか。アンデットにしてみればそれが普通なのか?」

「場合によるかとは思いますが、怨念によってこの世に留まるとすれば、そう時間はかからないと思います」

「何か現れるための条件があるのか?」

「そう考えるのが妥当かもしれません。もし憑代が無いのであれば、強い怨念が生み出された場所や状況が現れるのに必要になるのかもしれません」

「気がめいるけど、彼ら親子のことをもっとよく知る必要がありそうね」

「何とかしてくれるなら金は払おう。みなで出し合うぞお前たち」

村長が言うと、周りの男たちは各々承諾の掛け声をあげて頷いた。お嬢と言われるだけあって、彼女にはカリスマがありそうだ。

「では頼んだぞ、冒険者諸君。貴殿らの冒険者の店にはわらわから使いを出しておこう。それから、この家の空き部屋を好きに使ってくれて構わんからな」

そうして、この不穏な事件の調査が始まった。


まず話を聞くべきは第一発見者だ。畑仕事をしに戻っていった男たちの中で、最初に被害者ダレンを目撃した男に残ってもらった。彼はビクビクしながらも、その状況を話してくれる。

おおよそ村長の説明通り、彼が畑仕事をしに村に出たとき、その親子が彼らの家の少し前で死んでいたそうだ。だがその母親は、どうやら彼らの家に向かって少し引きずられていたらしく、その跡に小さな水たまりができていたという。それから推察するに、母親が力尽きた後、子供が母親を家に運び込もうとしたが、力が足りずにそれが叶わず一緒に倒れてしまったのではないかとのことだった。

「家の方向に引きずられたのであれば、子供がやったとみて間違いなさそうですね」

「つまりは母親が死んじまったとき子供はまだ生きていたんだな」

「辛い話ね……」

そのあとは目新しい情報は特になかった。貴重な時間を無駄にしないため、彼らは第一発見者の男に礼を言ってから次なる目的地に向かう。もちろん、被害者の男ダレンの家だ。

旦那さんの死について調査している冒険者の者ですと妻らしき女性に伝えると、どうぞお入りくださいと中に入れてくれた。三人入ると閉塞感を感じるくらいの広さしかないが、そんなことは全く気にならないくらいに、女性は気の毒にゲッソリと痩せていた。

何しろ、夫を失ったうえに、これから女手一つで息子を育て上げなければならないのだ。その心痛は計り知れなかった。

「お辛いでしょうけど、旦那さんが亡くなった日のことを話してもらえるかしら?」

マデリエネが聞くと、このダレンの妻、メラニーは子供を近所のおじさんのところに遊びに行かせてから、息苦しそうにしつつもその日のことを話してくれる。ダレンが死ぬ前の日は特に何事もなく平和な一日で、困ったことと言えば夕方から雨が降り始め、急いで農作業を辞めざるを得なかったことぐらいだったと言う。

その夜、彼女はベッドから夫がいなくなったのには気が付いたが、農具の片づけを忘れていたことを思い出して外に行ったのだろうと思ったそうだ。

だがその翌朝、彼女が目を覚ましても彼女の夫は家に戻っていない。焦って外に探しに行ってみたら、既に帰らぬ人になっていたそうだ。

あのとき私が止めていればとメラニーは涙ながらに後悔している。何の慰めにもならないとわかっていつつも、アロイスはあなたのせいではありませんと言うしかなかった。

ザルムも周りの人にしっかり頼るんだぞと前向きなことを言いながら、内心、心苦しくて堪らなかった。

すると彼女が突然、お茶もお淹れしなくてすみませんと水瓶の方に向かって行く。

構いませんよとアロイスが言うが早いか、メラニーは水瓶の水面を見つめたまま固まってしまった。その表情は血の気が引いて強張っており、尋常じゃない何かを三人に感じさせる。

急いでザルムが彼女の元に向かうと――特に何もない。水瓶の水にも特に変わった様子はなかった。どうしたの? とマデリエネが聞いても、メラニーはオロオロしながら男の子が見えた……と言うだけだ。

水面に映った自分の影が、男の子に見えたのかもとザルムは思ったが、そうにしろ彼女の動揺の仕方は尋常ではなかった。

きっと気のせいだわと彼女は自分を納得させるように何度も呟いていたが、椅子に座ることさえもできないほど余裕を失っていた……。
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