死者と竜の交わる時

逸れの二時

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第三章

祟りか呪いか

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レインボーファーマシーでは、フィオナが順調に自然薬の調合を行っている。サリヌイの花に、シマナの樹皮、ココマソの茎を混ぜたところで、アロイスには風邪薬であることが分かった。

「もう薬が作れるようになるなんて、フィオナさんは勉強熱心ですね。ところで、どなたか風邪をお召しになっているのですか? まさかカテジナさんが?」

「いえ、おかげさまで母はすっかり元気になりました! 今は軽い畑仕事をしてリハビリ中です」

「ではそのお薬は?」

「ジェルグの村まで届けるんです。遠い親戚の方が風邪を引いたみたいで、昨日のお昼ごろに村の知り合いが私にお願いにいらして」

「なるほど。もしでしたら私が村まで届けに行きますよ? 歩いて二時間の距離なら大したことはありませんから」

「本当ですか!? それなら今日中に家に帰れます! あ、でも薬のお代が……」

「そう心配しないでください。いくらですか?」

「50ナッシュで届けることになっていました。でも……いえ、本当にありがとうございます!」

そう言ってフィオナはアロイスからお金を受け取ると、もう一度お礼を言った。相手が申し出てくれたのに断るのはむしろ非常識だと考えたのだろう。彼女は気持ちよく任せてくれた。

アロイスがフィオナと別れて店に戻ると、さっきは寝ていたザルムが起きだしていた。カウンターの横にあるテーブル席を大胆に使い、大きなあくび付きでアロイスに尋ねる。

「どこに行ってたんだ?」

「たまたま街に来ていたフィオナさんと一緒に錬金店に行っていました。彼女、もう一人で薬を作れるようになったんですよ」

「えっ、フィオナさんが来てたのか? 挨拶だけでもしたかったぜ」

「それは残念でしたね。でも彼女はザルムさんのことを気にしていましたよ」

「それなら嬉しいな。んで錬金店に何か用があったのか?」

「ジェルグの村にこのお薬を作って届ける仕事をお願いされたみたいだったので、作った薬だけ預かって私が届けに行くことになりました」

「あなたって本当に紳士よね。ガサツなザルムとは大違いだわ」

マデリエネがいつの間にかザルムの背後に立っている。ミアがこっそり吹き出しかけたのを見ないようにしながら、ザルムはマデリエネに抗議した。

「気配消せるからって知らない間に背後に立つなよ」

「悪かったわね。思ってないけど。それでジェルグの村に行くの? 散歩がてらに丁度良さそうね」

「それもそうだな。俺も連れて行ってくれよ」

その会話の内容を作業しながら聞いていたファムは、ここからジェルグの村までは長い道のりだとひとりでに思ったが、冒険者界隈では散歩程度の距離らしい。ザルムとマデリエネはせっせと支度をしていた。

「では行きましょう」

その掛け声とともに、ストレンジはジェルグの村に向かったのであった。


ジェルグの村は数ある農村の中でも小さな村で、五十人ほどしか村人はいない。だがそれ故に村人同士のつながりは固く、滅多に争い事は起きない平和な村であるはずだった。

だが、散歩がてらにやってきたストレンジが目にしたのは、穏やかな人々が畑を耕し家畜の世話をするようなのどかな風景ではなく、いずれこの村は滅びるのではないかと思えるほどに閑散とした、ただ粗末な家がいくつか建っているだけの光景だった。

フィオナは村の異変について話してはいなかったし、特に警告してくることもなかった。ここ最近何かあったのだろうか。

そう思ったアロイスは薬の届け先を聞きだすのを忘れたことに気付く。あらあらとマデリエネが言う前に、アロイスは村長の家らしき、村で一番大きな家に行って風邪を引いた人がいないか聞き出すことにした。ついでに、なぜこんなに閑散としているのかということも。

その大きな家の前に立つと、何やらたくさんの人の話し声が聞こえた。隙間が空いた木の戸から声が漏れてくるのだが、これからどうするとかみんなでどこか遠くに避難しようといった内容のようだ。

多数決で立ち聞きはやめるという結論を出すと、彼らはトントンと扉を叩いた。マデリエネだけは不満げな顔だったが。

するとパタリと声は止み、体格のいい男性が戸を少しだけ開けて顔を出した。

「誰だお前たちは。何か用か?」

「フィオナさんからお薬の配達を頼まれた冒険者のアロイスという者ですが……」

「冒険者ぁ?」

男がそう言った途端に、奥からスラッとした一人の若い女性がやってきて、半開きの戸をすべて開ける。どうしたんですかお嬢という言葉ごと、彼女は男をはねのけて、こう話しかけてくる。

「お主ら冒険者か。実は困ったことになっておる。とりあえず中に入るがよい」

彼女はそれだけ言うと、すんなりとストレンジを家に招き入れた。


高い屋根相応の広い空間の中では、数人の男たちが大きなテーブルを囲んでひしめき合っていて、そのことによって非常事態の緊急会議をしていたことが伺える。

アロイスはそのうちの咳をしていた男に薬を渡し、代金を受け取ると、お嬢と呼ばれた村長の女性に話を聞いた。すると彼女は無念の表情を浮かべて、村での惨事を話し始めた。

「事の発端は昨日のことじゃ。ある村人が朝、畑仕事をしに村に出てみると、村一の働き手であったダレンという男がバラバラになって死んでおるのを見つけたそうじゃ。その死体は破裂したように肉が飛び散っていて、人間業でもなければ動物の仕業でもなさそうだと思ったそうじゃ」

「ん? それってどういうことだ?」

ザルムが訳が分からないという顔で村長を見ると、彼女はため息を一つ吐いて告げた。

「おそらく祟りじゃよ。あるいは呪いかもしれん……」

「ま、まさか本気で言ってるんじゃないわよね?」

マデリエネが確認しても、村長は何も言わなかった。どうやら周りの男たちも、同じ結論のようだ。

「アンデット絡みということですか。何か根拠が?」

「もちろんある。三か月前、ある親子が無残な死を遂げたのじゃ」

その語りから、再び残酷な話が始まった……。
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