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第三章
懐かしの少女
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「マデリエネさん、悔しいけど、あれは凄かったよ」
モレノと共に技巧ギルドの試験を終えたマデリエネは、罠の解除よりも設置の方がお好きなようだった。
ギルドでは罠の設置班と解除班に別れて試験を受けることになっていたのだが、最初に罠を設置する側になったマデリエネは世にも意地の悪い罠を作り上げた。試験会場が森林の中だったのを彼女は巧みに利用したのだ。
ロープを使った罠で人間ミノムシを作り上げたかと思えば、丸太を使った罠で池を覗いた人間を冷たい水底へと突き落としたりもした。最後には重量制限型の落とし穴で何人もの冒険者を地の底へと叩き落とし、彼女の高笑いが森にこだまするまでに至る。
最初の手番で解除班に回ったモレノももれなくその凶悪な罠の餌食となり、彼は悔しながらも称賛してしまっていたのだ。
「人を罠にかけるのって最高に楽しいわね。次回はどんな罠にするか楽しみだわ」
「ほどほどにすることをお勧めするよ……」
軽快に歩くマデリエネとトボトボ歩くモレノが次に向かったのは斥候ギルド。隠密能力や偵察能力など、戦闘能力とはまた違った能力を養成する場所だ。
ギルドの建物に入ると、壁に貼られた地図や様々な場所の風景が描かれた絵が目に入ってくる。それらは非常に興味深いものばかりであった。ところが、そんな興味深いものを見ることを今日という日は許さないつもりらしい。
多くの人が集まって来るギルドの中で、受付を困らせる人物を見つけた。その人物は男性に何度も何かをお願いしているようだが、試験日だからなのか男性は許可することができないようだった。
「困ります。今日は試験当日ですから、錬金台の使用はできません」
「そこをなんとかお願いします。お薬をある村まで届けなければいけないのです」
「そう言われましても……」
どうせ受付に用があるしとモレノがそこに割って入った。
「どうしたのお嬢さん。もしかして錬金台を使えなくて困ってるのかな?」
「えっ。どうしてそれを?」
丸聞こえだからである。しかしモレノはあろうことか冗談をかました。
「僕は超能力が使えるからね。良かったら相談に乗るよ?」
「超能力ですか? それは凄いですね!」
少女が真に受けたのを見て、マデリエネが渋々声をかける。
「超能力なんて冗談に決まってるわよ。見たところ、あなたはこの街に来たのが初めてのようだけど、ここには錬金店があるからそこに行けばいいのよ?」
「あ、そうだったんですか……ありがとうございます。でもどこにあるのでしょうか……?」
自分で探しなさいよとマデリエネが言う前に、モレノがスッと提案した。
「僕の仲間のカティなら場所を知ってるだろうし、冒険者の店まで来ない?」
「本当ですか? でもあなた方はその何とか試験を受けにきたんじゃないんですか?」
あーそうだったとモレノが言うと、少女はどんよりと肩を落とした。期待させてこの仕打ちは流石の彼女でもかわいそうだと思ったのだろう。自分のことを譲らない姿勢は保ちつつも、マデリエネは彼女の手助けをする意見を出した。
「それならちょっとここで待っててもらって私たちの試験が終わってから行く? 今日の日程は隠密と錬金術の試験だけだから、そんなにかからないでしょ。受けるのは隠密だけだし」
「そうだな、かかってもニ十分くらいだろうし、そうしよう。どうかなお嬢さん」
「わかりました! ここで待ってます」
元気の良い少女を待たせること十五分、二人の試験は終わった。
「忍び足で一定距離歩ききるとか無理な姿勢で音を立てずに耐えるとか、そんなに難しい試験じゃないのね」
「まあな。もう少しレベルが高い試験になると内容が変わるらしいが、俺たちのはまだ楽勝だったな」
モレノとマデリエネが話していると、それを見つけた少女が駆けてきた。
「お待ちしてました。カティさんの場所までよろしくお願いします」
「うん。逸れないようについてきてね」
途中、少女が人ごみに紛れないように手を引いたりしながら進み、虎のマークの提げ看板が目印の店に着く。
三人で中に入ったとき、ちょうどアロイスとカティがカウンターに座って話をしていた。ファムに出されたグラスの中身がお酒ではないのを確認してから、モレノがカティに話しかけようとしたとき、先に声を発したのはなんと連れてきた娘だった。
「アロイスさん! お久しぶりです」
するとアロイス少し眉をあげて少女に答える。
「フィオナさんじゃないですか。住んでいる村からは遠かったでしょうに。カルムの街に何か用事ですか?」
「ええ、少し……」
フィオナが口ごもると、カティがむんずと身を乗り出してきた。
「なあんだアロイス、こんなに可愛い子がいるんじゃない」
「いえ、そういう関係ではありませんよ。以前薬草探しを手伝ったことがあるんです」
「その通りです! あ、そう言えばザルムさんは今どこにいるんですか?」
「ザルムさんは少々お疲れのようで、二階の自室で休んでいますよ」
「そうなんですか。きっといつも頑張っていらっしゃるのね」
一旦話の区切りがついたところで、モレノが本題を切り出した。
「彼女、斥候ギルドの錬金台が使えなくて困ってるみたいなんだ。行きつけの錬金店を紹介してやってくれよ」
「そういうことならアロイスが行ってあげなさいよ。縁があるみたいだし」
「そうですね。私が案内しましょう」
「ありがとうございます! やっぱりアロイスさんは優しいですね」
私だって優しいわよと即刻マデリエネから苦情が入ると、フィオナはそ、そうでした。どうもありがとうございましたとモレノにもしっかりとお礼を言った。
モレノと共に技巧ギルドの試験を終えたマデリエネは、罠の解除よりも設置の方がお好きなようだった。
ギルドでは罠の設置班と解除班に別れて試験を受けることになっていたのだが、最初に罠を設置する側になったマデリエネは世にも意地の悪い罠を作り上げた。試験会場が森林の中だったのを彼女は巧みに利用したのだ。
ロープを使った罠で人間ミノムシを作り上げたかと思えば、丸太を使った罠で池を覗いた人間を冷たい水底へと突き落としたりもした。最後には重量制限型の落とし穴で何人もの冒険者を地の底へと叩き落とし、彼女の高笑いが森にこだまするまでに至る。
最初の手番で解除班に回ったモレノももれなくその凶悪な罠の餌食となり、彼は悔しながらも称賛してしまっていたのだ。
「人を罠にかけるのって最高に楽しいわね。次回はどんな罠にするか楽しみだわ」
「ほどほどにすることをお勧めするよ……」
軽快に歩くマデリエネとトボトボ歩くモレノが次に向かったのは斥候ギルド。隠密能力や偵察能力など、戦闘能力とはまた違った能力を養成する場所だ。
ギルドの建物に入ると、壁に貼られた地図や様々な場所の風景が描かれた絵が目に入ってくる。それらは非常に興味深いものばかりであった。ところが、そんな興味深いものを見ることを今日という日は許さないつもりらしい。
多くの人が集まって来るギルドの中で、受付を困らせる人物を見つけた。その人物は男性に何度も何かをお願いしているようだが、試験日だからなのか男性は許可することができないようだった。
「困ります。今日は試験当日ですから、錬金台の使用はできません」
「そこをなんとかお願いします。お薬をある村まで届けなければいけないのです」
「そう言われましても……」
どうせ受付に用があるしとモレノがそこに割って入った。
「どうしたのお嬢さん。もしかして錬金台を使えなくて困ってるのかな?」
「えっ。どうしてそれを?」
丸聞こえだからである。しかしモレノはあろうことか冗談をかました。
「僕は超能力が使えるからね。良かったら相談に乗るよ?」
「超能力ですか? それは凄いですね!」
少女が真に受けたのを見て、マデリエネが渋々声をかける。
「超能力なんて冗談に決まってるわよ。見たところ、あなたはこの街に来たのが初めてのようだけど、ここには錬金店があるからそこに行けばいいのよ?」
「あ、そうだったんですか……ありがとうございます。でもどこにあるのでしょうか……?」
自分で探しなさいよとマデリエネが言う前に、モレノがスッと提案した。
「僕の仲間のカティなら場所を知ってるだろうし、冒険者の店まで来ない?」
「本当ですか? でもあなた方はその何とか試験を受けにきたんじゃないんですか?」
あーそうだったとモレノが言うと、少女はどんよりと肩を落とした。期待させてこの仕打ちは流石の彼女でもかわいそうだと思ったのだろう。自分のことを譲らない姿勢は保ちつつも、マデリエネは彼女の手助けをする意見を出した。
「それならちょっとここで待っててもらって私たちの試験が終わってから行く? 今日の日程は隠密と錬金術の試験だけだから、そんなにかからないでしょ。受けるのは隠密だけだし」
「そうだな、かかってもニ十分くらいだろうし、そうしよう。どうかなお嬢さん」
「わかりました! ここで待ってます」
元気の良い少女を待たせること十五分、二人の試験は終わった。
「忍び足で一定距離歩ききるとか無理な姿勢で音を立てずに耐えるとか、そんなに難しい試験じゃないのね」
「まあな。もう少しレベルが高い試験になると内容が変わるらしいが、俺たちのはまだ楽勝だったな」
モレノとマデリエネが話していると、それを見つけた少女が駆けてきた。
「お待ちしてました。カティさんの場所までよろしくお願いします」
「うん。逸れないようについてきてね」
途中、少女が人ごみに紛れないように手を引いたりしながら進み、虎のマークの提げ看板が目印の店に着く。
三人で中に入ったとき、ちょうどアロイスとカティがカウンターに座って話をしていた。ファムに出されたグラスの中身がお酒ではないのを確認してから、モレノがカティに話しかけようとしたとき、先に声を発したのはなんと連れてきた娘だった。
「アロイスさん! お久しぶりです」
するとアロイス少し眉をあげて少女に答える。
「フィオナさんじゃないですか。住んでいる村からは遠かったでしょうに。カルムの街に何か用事ですか?」
「ええ、少し……」
フィオナが口ごもると、カティがむんずと身を乗り出してきた。
「なあんだアロイス、こんなに可愛い子がいるんじゃない」
「いえ、そういう関係ではありませんよ。以前薬草探しを手伝ったことがあるんです」
「その通りです! あ、そう言えばザルムさんは今どこにいるんですか?」
「ザルムさんは少々お疲れのようで、二階の自室で休んでいますよ」
「そうなんですか。きっといつも頑張っていらっしゃるのね」
一旦話の区切りがついたところで、モレノが本題を切り出した。
「彼女、斥候ギルドの錬金台が使えなくて困ってるみたいなんだ。行きつけの錬金店を紹介してやってくれよ」
「そういうことならアロイスが行ってあげなさいよ。縁があるみたいだし」
「そうですね。私が案内しましょう」
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