死者と竜の交わる時

逸れの二時

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第四章

騎士の憂慮

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次の日の朝、アロイスたちは店の大きなテーブルで報酬の計算をしながら、それぞれ独特の反応を示していた。

ザルムはどこから出しているのかわからない、潰れたような声を発して、大きな尻尾をブンブン振り回している。

マデリエネはというと、唇に人差し指を当て、ぼうっと斜め上を向いていた。彼女がお金のことを考えているときについやってしまう癖らしい。

店の入り口に向かって座るアロイスは、何とも言えない哀愁漂う表情をしながら、机の上に出された自分の全財産を眺めていた。それもただずっと。

ここ最近、忙しくしていた彼らだが、忙しくしていた分だけ報酬金がたくさんもらえる訳ではないのが、冒険者という厳しい職業の世界だ。便宜上Fランクの冒険者となっている彼らには、それ相応の安い金額でしか報酬は支払われない。ジェルグの村での報酬がその証拠であった。

そろそろ武器と防具を新調したいザルムも、もっと相性の良い杖を探したいアロイスも、そして切れ味の鋭いダガーを愛するマデリエネだって、それぞれお金が足りずに、その悲願が達成されることはなかった。

お金が全くないということではないため、絶望ということではないにしろ、装備を整えるにはいまいちお金が足らないのだ。

「と、とりあえず冒険者の登録用紙に技能を書き足してきましょうか。この時期だと混んでいそうですが仕方ありません」

「そうするしかなさそうね……」

「……これも俺のロングボウのためだ……」

こうして、彼らの技能欄にはこう書き足される運びとなった。


アロイス ダルクール 男性 四レベル
技能:知覚魔法=四、変性魔法=三、操原魔法=三 知識=四 魔物知識=四

ザルム グラルト 男性 五レベル
技能:片手剣=五 盾=三 索敵=二

マデリエネ バックリーン 女性 四レベル
技能:短剣=四 隠密=四 索敵=三 捜索=四 罠=四 鍵=三 


技能の書き足しを済ませて店に戻ると、ファムがまん丸の目をして聞いてくる。

「仕事がいくつか来ているから紹介しようと思うんだけど、君たちの技能を教えてくれるかな?」

「そういえば報告すべきよね。パーティランクが自動的に二つ上がったわよ」

「おかげさまでEランクになりました。ザルムさんの五レベルとマデリエネさんの技能の多さが効いているのでしょう」

「一気に二つ上がるなんて、やっぱり君たちは実力があるね」

「嬉しい言葉だな。それで、紹介できる依頼は何かあるか?」

「そうだなあ……」

ザルムはカウンターの下から書類を取り出して一枚一枚目を通していく。冒険者の彼らがそれを見守っていると、途中の一枚でファムが長いこと手を止めた。

「見つかったかしら? 魔物退治みたいな暗い雰囲気にならない依頼がいいんだけど」

「これはまさに、その単純そうな依頼だよ。縄張りが拡大してきた大型の魔物の討伐だね」

「おお、それ良さそうじゃねえか?」

ザルムが眉をあげて反応するも、アロイスは落ち着いた調子でファムに聞く。

「何か気になる点がおありのようですね。聞かせていただけますか?」

「さすがは冷静な魔術師だね。実はこの依頼、その大型の魔物の名前が書かれてない。それに縄張りが拡大してきたとあるけど、そこが妙に引っかかるんだよね」

「出所が怪しい依頼ってこと?」

「そうでもないよ。依頼主は南西の小都市スタイスの騎士みたいだ」

「じゃあなんでそんなに曖昧なんだろうな?」

「騎士であれば、世間の信頼を裏切るような行いをすれば厳罰が下されるはずです。おそらく騙すつもりなどではなくて、何か理由があるのでしょう」

「訳ありっぽい依頼だけど、どうする?」

ザルムはそんなことはお構いなしのようで、大型の魔物を相手にすることで頭がいっぱいのようである。マデリエネの方は、他に良さそうな依頼がないことを確認すると、渋々、提示されている報酬額をファムに聞いた。

「Eランク以上の冒険者希望で、報酬は一人当たり1500ナッシュだそうだよ」

「その報酬額なら文句ないわね。他に依頼がないなら、話だけでも聞きに行ってみない? 待つのは好きじゃないのよね」

「そうしましょうか。ザルムさんがやる気のようですから」

そうしてストレンジは用紙を受け取ると、小都市スタイスへと向かって行った。


スタイスの街並みはカルムとはまた違って建物が少ないが緑が多く、家の周りに芝生があったり、中央の広場に大きな木が植えられていたりと心安らぐ雰囲気が漂っている。

カルムは左右に建物が並んだ道がずっと続くような、そんな街の構造をしているが、ここは空間を広くとってあって、息苦しさを微塵も感じさせない。老後に静かに暮らすという夫婦や、のんびりと暮らしていきたいと思う住民にとっては最適な街並みだろう。

だが今回はその雰囲気と打って変わる魔物退治の依頼だ。ストレンジの三人は、街の中央に続く通路の右側、騎士の修練所に入って行った。

分厚い石の壁に、入ってすぐ目に入ってくる鉄鎧は、平和ボケしないためにあえてどっしり作ってありそうだ。その荘厳な建物の奥からやってきたのは、壮年期に差し掛かるくらいの真面目そうな男だ。

フラルゴと名乗ったこの騎士は、仲間を代表して依頼を出したそうで、聞くまでもなく詳しい内容を話してくれる。

「俺たち騎士は村の安全を守るために街の見回りはもちろん、外に出て魔物を倒すこともしているのだが、ある一人の青年騎士がその途中で大きな魔物の足跡を発見したのだ。その場にいた者たちで足跡を調べてみたのだが、東の方から来ているということしかわからなかったのだ」

「だだっ広い草地で足跡を追跡するのは難しいからな。技能を持ったやつじゃないと追い切るのは厳しいだろう」

「そこで君たち冒険者に依頼を出したという次第である。報酬はその用紙の通り、一人当たり1500ナッシュだ。引き受けてくれるか?」

「相手がどんな魔物なのかわからないのに二つ返事をするわけにはいかないのよ? 取りあえず、手に負えずに情報だけ持ち帰った場合はどのくらい報酬をいただけるのか聞きたいわね」

「そうだな……その場合は一人当たり500ナッシュになるだろう」

「そうですか。私からも質問ですが、そのお金はどこから支払われるのですか?」

「領主様から直々に支払われるそうだ」

「おいおい、随分太っ腹だな。まだ被害も出てないのに金を出すのか?」

「我が都市の領主様は騎士の家の出であるからな。被害が出てからでは遅いということをよくわかっていらっしゃるのだろう」

「それは素晴らしいわね。まあ真っ当なお金が支払われるなら何も言うことはないわ。この依頼、受けてもいいんじゃないかしら?」

「私もそう思います」

「じゃあ決まりだな。フラルゴさん、あなたの依頼は俺たちが引き受けよう」

ザルムが代表して引き受けると、フラルゴは感謝すると言って恭しく頭を下げた。しかも魔物の足跡が見つかった場所まで案内してくれたのだった。
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