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第四章
輝く探し物
しおりを挟むそれから何日かして、それぞれの金銭問題に阻まれていた悲願を達成すべく、ストレンジは商業地区に足を運んでいた。
カイネの角の“被り物”を愛でる人とすれ違いながら、ザルムは口元を気味悪く歪ませて品質の良いブロードソードとロングボウを待ちきれないとでもいうようにニヤついていた。その顔のまま武具店に行って後悔することになるとも知らずに。
「なんだ兄ちゃん、おかしくなっちまったのか? 気の毒に……」
ザルム顔を見て本気で心配する、久しぶりに会った武具店の店主にマデリエネがいつものように辛辣にものを言う。
「元々おかしいのよコイツは。それで、装備を新調したいのだけどいいかしら?」
「もちろんだぜ。ところで姉ちゃんも仲間になったのか? お? そっちの被り物のかわいい子もまさか冒険者か? いやいや、賑やかになったもんだな!」
話の弾む武具店の店主、ジャンといろいろ世間話をしながら、各々装備を選んでいく。ザルムは剣と盾を鋼のものにランクアップし、結局持ち運びを考えてロングボウではなく小型のクロスボウを購入した。
さらには鎧を青銅製から鉄のプレートアーマーにしたことで18600ナッシュを支払った。ちなみにボウガンの弾に当たるボルトはアロイスが創成魔法で生産するらしい。
マデリエネは鋼を使ったドレスアーマーと鋼のダガーを一本購入して出費は19800ナッシュだ。美しさは変わらないまま防御力も上がって彼女はご満悦だ。
最後のカイネが動きやすく軽いジャケットを買って、18000ナッシュを献上したところで一旦買い物を終える。
そうしてジャンの明るい顔を見た後に向かうのは魔法店だ。
ここでは杖やローブに魔導書が置いてあって、窓には黒いカーテンが引かれている。そのおかげで店内が少し暗めで、独特に渦を巻く植木が良い味を出していた。雰囲気作りのためのカーテンだろうが、アロイスにはそれが心地良い。
気分が良くなった彼がまず手に取るのは魔導書だった。前回の試験から早いもので、すべての魔法系統が四レベルに到達し、もうすぐ五レベルまでいきそうな系統もある。
そうなると、5レベルまでしか書かれていない今の魔導書をすべて買い替えることになりそうで、一冊3000ナッシュの5系統はお財布にかなり響いた。
とは言え買わなければ成長がなくなるので、怪しまれないようにカイネにも協力してもらってすべて揃える。杖の方は集中の補助がその用途なので、より原理の力に干渉しやすい素材が使われており高値だ。
虹色の輝石に巨大な骨、ハーピィの鮮やかな部分の羽をふんだんに使ったフェザースタッフで3600ナッシュを持って行かれ、合わせて18600ナッシュが消えて無くなった。
質感よく作られた骨の柄が良く馴染む杖をアロイスが受け取ると、金払いの良いアロイスに店主が残念そうに話しかけてくる。
「惜しかったね。もう少し早く来ればあの輝いてた宝珠を紹介できたんだけど。今度またいらっしゃい」
「宝珠ですか。興味深いですね。次に入荷したら見に来ましょう」
アロイスの自然な社交辞令に店主が是非いらしてくださいと定型文で返してくる。もうお金はないし、お世話になるならまだまだ先の話だと考えつつ、買い物の済んでいた三人を連れて、アロイスは豪傑の虎亭へと戻って行った。
装備を新調して心機一転。すがすがしい顔をしてストレンジが帰ってくると、前回の冒険のとき同様、ファムが依頼の用紙を持ってカウンターからやって来る。
火氷風雷のメンバーは既に別の依頼を受けていたらしく、今日にはもう店を出ていた。
そういう訳で、本人とファムを含めた、六人分のミアの絶品料理を食べながら、興味深そうな依頼の話を聞くことにした。ファムは依頼の内容をすべて読み上げて食事を始めようとしたが、それを阻止するかのように冒険者たちの会話が始まった。
「その宝珠の情報を届けるだけでも報酬をくれるんだろ? きっかけはもうできてるし話を聞きに行くしかねえだろ」
「依頼人は神殿地区に住む貴族の方ですし、ザルムさんはあまりいい顔をされないかもしれませんよ? 少し心配です」
「そんなの気にしてちゃこの先やってられないわよ。ねえザルム?」
「ワタシもただの人間種じゃないです。気にすることないと思うです」
「おうよ。気にしないからすぐに行こうぜ」
「さてはザルムさん、まとまったお金が手に入って舞い上がってますね?」
「まあな。アロイスがいれば何となく危ない依頼に引っかからないとも思っちまうし」
「信頼はいいことだけど、一人に任せるのは良くないよ。こっちとしては張り切って仕事をしてくれるのはありがたいけどね」
「でもこの依頼は安全だと思うです」
「戦闘はなさそうだし、街の中での探し物ならなんとかなりそうじゃない?」
「そうですね。でも浮足立ちすぎないように気を付けましょうね」
こうして結局宝珠探しの依頼を受けることになり、冒険者たちは午後から依頼人の家に向かう手筈を立て始めた。
そんな中、すごくおいしいと思うですとカイネがミアの料理を褒めると、ミアはありがとうございますと朗らかに笑って返してくれる。そろそろこの仕事にも慣れてきたのかもしれない。彼女のぎこちなさは、少しずつ影を薄くしていた。
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