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第四章
巧妙なる隠者
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それなりの大きな都市と言えども、カルムの街にも貧民はいる。見るからに家が無く貧しいという彼らに少しばかりお金を握らせて話を聞くと、一人の老人がその緑帽子を見たと言ってきた。
「ソイツはいっつもあっちの塀のあたりに腰かけとるんじゃが、そう言えば朝一度見かけたっきりどこかに行っちまったみたいじゃのう……おろ? あそこにおるんじゃないかえ?」
そう言う老人の視線の遥か先に、確かに緑の帽子とボロボロの服の男が見えた。四人は彼にこっそり近づいていったが、彼にも悪いことをした自覚があるのか、冒険者がついてきているのに気付くといきなり走りだしてしまった。
彼我の距離は十メートル程度、流石に捕まえるのにはまだまだ遠い。しかしここでも魔法が活躍する。アロイスは瞬時にシェイドを呼び出すと、逃げ惑う彼の視覚を封じた。
目が見えなくなっては前に進むのもままならず、フラフラと壁に激突して、彼は易々とザルムの手に捕まった。抱えるは布がかけられた球体一つ。どうやら一番高値で引き取ってくれるところを探し回っていたようだ。
だが尋問中の彼の話によると、値段が店ごとに全くと言っていいほどの差があり、不思議に思ったそうだ。どういうことかと布を幕ってみると、その理由がわかる者にはわかった。
「すごく……きれいだな。欲しくなるのがよくわかるぜ……」
「そうかしら? ただのガラス玉のように見えるんだけど」
「ワタシにはキラキラ輝いて見えるです。欲しくなるです」
「これには明らかに呪刻が為されていますね。魔法に抵抗できなければそのものが魅力的に見える“ファッシネイション”の魔法でしょう」
アロイスは分析しながら、魔法にかかったザルムとカイネに魔法への耐性を上げる四レベルの操原魔法、“アクワイアレジスタンス”をかけた。すると宝珠を見る目が180度変わる。
「あれ? なんだただのガラス玉じゃねえか」
「全然キラキラしてなかったです」
「依頼主はこの魔法にかかってしまったのでしょうか。でも最初は買うのを躊躇ったと言っていましたが……」
「そうよね。躊躇ったのなら魔法に抵抗したとも考えられそうだけど……どういうことかしら?」
「とりあえずこれかどうか確認すれば済む話だろう」
「そうだと思うです。イヤなおばさんのところに行くです」
そんなこと言っちゃだめよとマデリエネが柄にもなく止めながら、彼らは宝珠を持って貴婦人の家に向かった。再びあのこれ見よがしな扉をくぐって中に入ると、彼女は紅茶を嗜んで庭を眺めていた。
やっと見つけたのかしらと嫌みのように彼女が言う。それにピキッと青筋が入る者もいたが、アロイスは気にせず宝珠を取り出す。
「あくまで確認ですが、こちらの宝珠ではありませんね?」
彼女はしばらく差し出された球体を眺めたが、やがて断じて違うというように首を横に振った。
「それはただのガラス玉じゃない。私が見たのはもっと美しい宝珠だったわ」
「大変失礼しました。正しいものを見つけるために今一度お尋ねしますが、あなたがそれ見たのはメルビズ魔法店で間違いありませんか?」
「そうよ。間違いないわ。だからさっさと探しに行ってちょうだい」
「かしこまりました。もう少し時間をくだされば、お望みの物をお持ちします」
「ええそうして」
カイネはともかく、ブチ切れる寸前の二人を急いで外に避難させると、その彼らは不満を爆発させた。夫人の家から少しは離れた道のりでそれはまき散らされる。
「何なのよあの女。嫌みったらしくてやってられないわよ」
「アイツは俺たちのことをバカにしてるのか?」
「お金持ちだからって威張りすぎだと思うです」
「そうよね! 全く腹立たしいわ! アロイスもそう思わない?」
しかしアロイスは口を閉じて憐みの表情を浮かべていた。それにはもちろんわけがある。
「きっと自尊心を傷つけられた経験があるんですよ。母とよく似ていますから……」
「母親があんな感じだと大変そうだな」
「まあお互い色々あるわよね。依頼が終わってからでもゆっくり話しましょ」
「そうですね。今は依頼について考えましょう」
「にしても魔法店から追ってるのになんで別物に行き着いたんだ?」
「途中で別物にすり替わったのよ。そのタイミングがあるとすれば……」
「アンジェラさんにもう一度会いに行くです」
相変わらず風雲の天狗亭内は賑わっており、特大肉のステーキやら丸焼きやらが並んでいるテーブルもある。しかし端っこの一角だけはお通夜モード。アンジェラに加えてその仲間たちがどんよりと沈んだ様子でチビチビと酒を飲んでいた。
気分が悪すぎて自分たちで探す気力すら起きないらしい。マデリエネが見かねて発破をかけるように捲し立てる。
「しょうがない冒険者たちね。こっちもまだ見つけてないから偉そうなことは言えないけど、どんよりしてるだけじゃ損失は帰ってこないわよ?」
「アンジェラさん、どこかで宝珠がすり替えられたという可能性はありませんか?」
「あれから行方を追って行ったら別の宝珠になってたんだ。バレないようにするためか知らないが魔法が刻まれたものだったけどな」
「心当たりがあったらワタシたちに教えてほしいです」
アンジェラは仲間たちにはアロイスたちのことを話していたらしく、彼女のパーティメンバーは、あなたたちがと言いながら挨拶してくる。それに囲まれた一番暗いアンジェラは、少し考えた後でハッとして顔を上げた。
「そういえば軽鎧を着たフードの男とぶつかったんです。悪びれもせず去って行くので嫌な人だと思っていたんですが……」
「それよ! それからどこに行ったかわからない?」
「その人が本物を持っているです」
「ええっと……反対方向に走り去って行ったように思うけど……」
「商業地区の方かしら」
「時間が経っていますし、今から行っても足取りを掴めないかもしれませんが……」
「それだと困るが行ってみるしかないだろう」
ザルムがそう意見を出したとき、突然誰かが店に駆け込んで来る。
「魔物だ! 街に魔物が出たぞ!」
「一旦調査はここまでのようですね」
「やれやれ、何が起きているのかしら」
反射的に店の奥へと引っ込む人々とは対照的に、ストレンジの四人は外へ出て騒ぎが起きている場所へと躊躇うことなく向かって行った。
「ソイツはいっつもあっちの塀のあたりに腰かけとるんじゃが、そう言えば朝一度見かけたっきりどこかに行っちまったみたいじゃのう……おろ? あそこにおるんじゃないかえ?」
そう言う老人の視線の遥か先に、確かに緑の帽子とボロボロの服の男が見えた。四人は彼にこっそり近づいていったが、彼にも悪いことをした自覚があるのか、冒険者がついてきているのに気付くといきなり走りだしてしまった。
彼我の距離は十メートル程度、流石に捕まえるのにはまだまだ遠い。しかしここでも魔法が活躍する。アロイスは瞬時にシェイドを呼び出すと、逃げ惑う彼の視覚を封じた。
目が見えなくなっては前に進むのもままならず、フラフラと壁に激突して、彼は易々とザルムの手に捕まった。抱えるは布がかけられた球体一つ。どうやら一番高値で引き取ってくれるところを探し回っていたようだ。
だが尋問中の彼の話によると、値段が店ごとに全くと言っていいほどの差があり、不思議に思ったそうだ。どういうことかと布を幕ってみると、その理由がわかる者にはわかった。
「すごく……きれいだな。欲しくなるのがよくわかるぜ……」
「そうかしら? ただのガラス玉のように見えるんだけど」
「ワタシにはキラキラ輝いて見えるです。欲しくなるです」
「これには明らかに呪刻が為されていますね。魔法に抵抗できなければそのものが魅力的に見える“ファッシネイション”の魔法でしょう」
アロイスは分析しながら、魔法にかかったザルムとカイネに魔法への耐性を上げる四レベルの操原魔法、“アクワイアレジスタンス”をかけた。すると宝珠を見る目が180度変わる。
「あれ? なんだただのガラス玉じゃねえか」
「全然キラキラしてなかったです」
「依頼主はこの魔法にかかってしまったのでしょうか。でも最初は買うのを躊躇ったと言っていましたが……」
「そうよね。躊躇ったのなら魔法に抵抗したとも考えられそうだけど……どういうことかしら?」
「とりあえずこれかどうか確認すれば済む話だろう」
「そうだと思うです。イヤなおばさんのところに行くです」
そんなこと言っちゃだめよとマデリエネが柄にもなく止めながら、彼らは宝珠を持って貴婦人の家に向かった。再びあのこれ見よがしな扉をくぐって中に入ると、彼女は紅茶を嗜んで庭を眺めていた。
やっと見つけたのかしらと嫌みのように彼女が言う。それにピキッと青筋が入る者もいたが、アロイスは気にせず宝珠を取り出す。
「あくまで確認ですが、こちらの宝珠ではありませんね?」
彼女はしばらく差し出された球体を眺めたが、やがて断じて違うというように首を横に振った。
「それはただのガラス玉じゃない。私が見たのはもっと美しい宝珠だったわ」
「大変失礼しました。正しいものを見つけるために今一度お尋ねしますが、あなたがそれ見たのはメルビズ魔法店で間違いありませんか?」
「そうよ。間違いないわ。だからさっさと探しに行ってちょうだい」
「かしこまりました。もう少し時間をくだされば、お望みの物をお持ちします」
「ええそうして」
カイネはともかく、ブチ切れる寸前の二人を急いで外に避難させると、その彼らは不満を爆発させた。夫人の家から少しは離れた道のりでそれはまき散らされる。
「何なのよあの女。嫌みったらしくてやってられないわよ」
「アイツは俺たちのことをバカにしてるのか?」
「お金持ちだからって威張りすぎだと思うです」
「そうよね! 全く腹立たしいわ! アロイスもそう思わない?」
しかしアロイスは口を閉じて憐みの表情を浮かべていた。それにはもちろんわけがある。
「きっと自尊心を傷つけられた経験があるんですよ。母とよく似ていますから……」
「母親があんな感じだと大変そうだな」
「まあお互い色々あるわよね。依頼が終わってからでもゆっくり話しましょ」
「そうですね。今は依頼について考えましょう」
「にしても魔法店から追ってるのになんで別物に行き着いたんだ?」
「途中で別物にすり替わったのよ。そのタイミングがあるとすれば……」
「アンジェラさんにもう一度会いに行くです」
相変わらず風雲の天狗亭内は賑わっており、特大肉のステーキやら丸焼きやらが並んでいるテーブルもある。しかし端っこの一角だけはお通夜モード。アンジェラに加えてその仲間たちがどんよりと沈んだ様子でチビチビと酒を飲んでいた。
気分が悪すぎて自分たちで探す気力すら起きないらしい。マデリエネが見かねて発破をかけるように捲し立てる。
「しょうがない冒険者たちね。こっちもまだ見つけてないから偉そうなことは言えないけど、どんよりしてるだけじゃ損失は帰ってこないわよ?」
「アンジェラさん、どこかで宝珠がすり替えられたという可能性はありませんか?」
「あれから行方を追って行ったら別の宝珠になってたんだ。バレないようにするためか知らないが魔法が刻まれたものだったけどな」
「心当たりがあったらワタシたちに教えてほしいです」
アンジェラは仲間たちにはアロイスたちのことを話していたらしく、彼女のパーティメンバーは、あなたたちがと言いながら挨拶してくる。それに囲まれた一番暗いアンジェラは、少し考えた後でハッとして顔を上げた。
「そういえば軽鎧を着たフードの男とぶつかったんです。悪びれもせず去って行くので嫌な人だと思っていたんですが……」
「それよ! それからどこに行ったかわからない?」
「その人が本物を持っているです」
「ええっと……反対方向に走り去って行ったように思うけど……」
「商業地区の方かしら」
「時間が経っていますし、今から行っても足取りを掴めないかもしれませんが……」
「それだと困るが行ってみるしかないだろう」
ザルムがそう意見を出したとき、突然誰かが店に駆け込んで来る。
「魔物だ! 街に魔物が出たぞ!」
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