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第五章
まだ見ぬ戦火
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毒を受けたマデリエネは体が麻痺しており危険な状態だ。
だがカイネの卓越した操原魔法のおかげで毒の治療が済む。
マデリエネがカイネにお礼を言っていると、アロイスがカイネに治療を頼んだ。体は動いているが、毒が回っている状態らしいのだ。
「麻痺毒をもらっているのに動けているですか?」
「意識的に力を注げば無理やり体を動かすことができるのが死霊のいいところですよ。余計に集中力が要りますが」
「便利なもんだな。アロイスが魔法を使えたおかげで毒吐かれずに済んだよ」
「今回は難儀な相手だったわね。その甲斐があるといいのだけど」
アロイスの治療が終わってから、いよいよ氷の床を歩いて奥に進んでいく。
すると今度こそは本物らしき巻物と壁画が彼らを待ち構えていた。再び慎重に巻物を手に取るが、こちらも罠は仕掛けられていなかった。
隠された通路を見つけた時点で用心深さは認められているらしい。
巻物には同じように竜族の絵と細かい文字がつらつらと並んでいるが、内容は雲泥の差がありそうだ。
ザルムは今度こそ満足げな表情で巻物を眺めていた。
「これは本物で間違いなさそうだ。帰ってからじっくり読むとして……」
アロイスは一足先に壁画を眺めていたのだが、見事なタッチで描かれた竜族と魔物の戦いの姿はどんな人の好奇心も煽りそうだった。
ザルムのように盾と片手剣を持った者と、竜族の大柄な体に似合った大きさの巨大な剣を両手に持つ者がそれぞれ邪悪な魔物と戦っている様子だ。
体を回転させながら片手剣を振るって亜人種の体を両断する姿と、大剣を体に寄せて一気に相手に切り払い走り抜ける一瞬の剣捌きが豪快に表現されていた。
「これも竜剣技ですよね。迫力がありそうです」
「ザルムが習得すれば身近で見られるわよ。習得できればね」
「なんでそこを強調するんだよ」
「目的のものがあってホッとしたです。帰ったら修行の日々になるですね」
カイネはそう言ってザルムに笑いかけた。
それから数カ月の時間が経ち、ザルムを初めとするストレンジの冒険者たちは修行と依頼をこなす日々を送っていた。
カルムの街には冒険者が少ないこともあって依頼はそれなりの頻度で回って来るが、もうすぐ高レベルの冒険者と呼ばれるようになる彼らには歯ごたえのある依頼は多くない。
さらに言えば時期が冬に差し掛かり、本格的に寒くなってきたことで商業地区の賑わいも段々と静まりつつあった。
寒くなったとは言ってもこのレンタグル大陸の冬は比較的温暖な方で、この時期でも気温は優に10度を超える。
しかしどうやら大陸全体に広まる静まり気味の風潮とは違った地域も存在するようだ。ファムが朝食を取り終わったストレンジに手招きをする。
いつ見ても柔らかそうな手に握られているのは、だいたい意匠の凝らされた美しいグラスか、面倒そうな依頼内容の記された退屈な用紙だが、今回は後者だった。
「ようやく君たちにピッタリな依頼が来たよ。面倒とも言えそうだけどね」
「どんな依頼だ?」
「ここから五日くらい離れた地域の部族争いに関する依頼だね。どうやら戦争が起きそうな事態らしい」
「部族争いですか……それは厄介そうですね。何という部族ですか?」
「ラウレンツとアルマンドという部族だよ。ラウレンツの方からの依頼だけど、聞いたことあるかい?」
「ええ。確かラウレンツが温厚派、アルマンドが過激派の部族だったはずです。平和主義の部族からの依頼ならば大体は想像がつきますね」
「でも達成できるかどうかは別の話よね。依頼の内容はなんて書いてあるのかしら?」
「部族争いの件で力を貸してほしいとしか書かれていないね。止めて欲しいって書かないあたり、戦いも辞さないってことみたいだ」
「それほど追い詰められてるですか……。戦争は絶対止めるです」
カイネが肩に力を入れているのが全員に伝わる。彼女が冒険者になった理由を考えても、この依頼を受けない訳にはいかなかった。
カイネでなくても、一度戦争が起きればどうなるかは想像に難くない。
多くの人が恐怖と苦痛の内に息絶えて、それを目にしたものは人間の醜さとひ弱さに直面することになる。
死んでも死にけれなかった者たちは怨念を残してアンデッドと化し、永遠に命を奪い続けることもある。
それでもかろうじて生き残った者は、無駄だとはわかっていても亡き者に思いを寄せて、もう二度と帰ってこないと嘆き苦しむのだ。
命が失われるというのはいつの時代でも残酷なもの。カイネはこのことをよく知っていた。
「この依頼は受けるしかねえな。依頼書を渡してくれ」
ザルムがそのすべてを理解しているかのように依頼書を受け取ると、彼らは出発の準備を始めた。
だがカイネの卓越した操原魔法のおかげで毒の治療が済む。
マデリエネがカイネにお礼を言っていると、アロイスがカイネに治療を頼んだ。体は動いているが、毒が回っている状態らしいのだ。
「麻痺毒をもらっているのに動けているですか?」
「意識的に力を注げば無理やり体を動かすことができるのが死霊のいいところですよ。余計に集中力が要りますが」
「便利なもんだな。アロイスが魔法を使えたおかげで毒吐かれずに済んだよ」
「今回は難儀な相手だったわね。その甲斐があるといいのだけど」
アロイスの治療が終わってから、いよいよ氷の床を歩いて奥に進んでいく。
すると今度こそは本物らしき巻物と壁画が彼らを待ち構えていた。再び慎重に巻物を手に取るが、こちらも罠は仕掛けられていなかった。
隠された通路を見つけた時点で用心深さは認められているらしい。
巻物には同じように竜族の絵と細かい文字がつらつらと並んでいるが、内容は雲泥の差がありそうだ。
ザルムは今度こそ満足げな表情で巻物を眺めていた。
「これは本物で間違いなさそうだ。帰ってからじっくり読むとして……」
アロイスは一足先に壁画を眺めていたのだが、見事なタッチで描かれた竜族と魔物の戦いの姿はどんな人の好奇心も煽りそうだった。
ザルムのように盾と片手剣を持った者と、竜族の大柄な体に似合った大きさの巨大な剣を両手に持つ者がそれぞれ邪悪な魔物と戦っている様子だ。
体を回転させながら片手剣を振るって亜人種の体を両断する姿と、大剣を体に寄せて一気に相手に切り払い走り抜ける一瞬の剣捌きが豪快に表現されていた。
「これも竜剣技ですよね。迫力がありそうです」
「ザルムが習得すれば身近で見られるわよ。習得できればね」
「なんでそこを強調するんだよ」
「目的のものがあってホッとしたです。帰ったら修行の日々になるですね」
カイネはそう言ってザルムに笑いかけた。
それから数カ月の時間が経ち、ザルムを初めとするストレンジの冒険者たちは修行と依頼をこなす日々を送っていた。
カルムの街には冒険者が少ないこともあって依頼はそれなりの頻度で回って来るが、もうすぐ高レベルの冒険者と呼ばれるようになる彼らには歯ごたえのある依頼は多くない。
さらに言えば時期が冬に差し掛かり、本格的に寒くなってきたことで商業地区の賑わいも段々と静まりつつあった。
寒くなったとは言ってもこのレンタグル大陸の冬は比較的温暖な方で、この時期でも気温は優に10度を超える。
しかしどうやら大陸全体に広まる静まり気味の風潮とは違った地域も存在するようだ。ファムが朝食を取り終わったストレンジに手招きをする。
いつ見ても柔らかそうな手に握られているのは、だいたい意匠の凝らされた美しいグラスか、面倒そうな依頼内容の記された退屈な用紙だが、今回は後者だった。
「ようやく君たちにピッタリな依頼が来たよ。面倒とも言えそうだけどね」
「どんな依頼だ?」
「ここから五日くらい離れた地域の部族争いに関する依頼だね。どうやら戦争が起きそうな事態らしい」
「部族争いですか……それは厄介そうですね。何という部族ですか?」
「ラウレンツとアルマンドという部族だよ。ラウレンツの方からの依頼だけど、聞いたことあるかい?」
「ええ。確かラウレンツが温厚派、アルマンドが過激派の部族だったはずです。平和主義の部族からの依頼ならば大体は想像がつきますね」
「でも達成できるかどうかは別の話よね。依頼の内容はなんて書いてあるのかしら?」
「部族争いの件で力を貸してほしいとしか書かれていないね。止めて欲しいって書かないあたり、戦いも辞さないってことみたいだ」
「それほど追い詰められてるですか……。戦争は絶対止めるです」
カイネが肩に力を入れているのが全員に伝わる。彼女が冒険者になった理由を考えても、この依頼を受けない訳にはいかなかった。
カイネでなくても、一度戦争が起きればどうなるかは想像に難くない。
多くの人が恐怖と苦痛の内に息絶えて、それを目にしたものは人間の醜さとひ弱さに直面することになる。
死んでも死にけれなかった者たちは怨念を残してアンデッドと化し、永遠に命を奪い続けることもある。
それでもかろうじて生き残った者は、無駄だとはわかっていても亡き者に思いを寄せて、もう二度と帰ってこないと嘆き苦しむのだ。
命が失われるというのはいつの時代でも残酷なもの。カイネはこのことをよく知っていた。
「この依頼は受けるしかねえな。依頼書を渡してくれ」
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