死者と竜の交わる時

逸れの二時

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第八章

護衛

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その言葉に従って少し待って全員をそろえると、カイネは依頼の話を持ってきたとまた嬉しさ溢れる笑顔をみんなに向けた。

何故そんなに嬉しそうなんだ? とザルムが聞くと、神殿の偉い人からの依頼だからとカイネははしゃいでいる。しかもその内容が……。

「護衛依頼か。これは責任重大だな」

「依頼主、護衛対象共にイングヴァル司祭様ですか。モレノさんを治療してくださった方ですね」

「ああ、その依頼なら店宛にも届いてるよ」

アロイスがなんとなく司祭の顔を思い出していると、ファムが依頼書を持ってやってきた。

ファムの手に握られている依頼書にはカイネが興奮しきって説明不足になっているところまでしっかりと書かれていた。

具体的には東のテロフィの街への護衛。司祭は知人の治療に赴きたいとのことで、どうしてもデスメ火山のある山脈の峠を通って行かないと異常なまでに時間がかかってしまうらしい。

「これまたあんな危険地帯を通るのね。受ける一択だとは思うけど、久々に全力で取り組まないといけない依頼だわ」

「イングヴァル司祭様には絶対に怪我をさせてはいけないと思うです」

「護衛対象に怪我をさせたら、そいつはもう報酬が無になるだろうし、冒険者としての信頼も失うだろうな。気を引き締めないとだぜ」

「偵察は……任せろ……」

「それは心強いですね。空から進む道を見渡せるのは大きなアドバンテージですから」

「アロイスはまだ空を飛べたりしないの?」

「変性魔法の八レベル、“フライト”が使えれば可能だったんですけどね。残念ながらあと一レベル足りません。少々浮くぐらいならできますけどね」

「ワタシはそれだけでもすごいと思うですよ。色んな系統を使いこなすのは簡単じゃないことはよくわかるです」

「ありがとうございます。全員の力を合わせて司祭様をお守りするとしましょう」


依頼を受ける冒険者として、カイネが通う神殿へ行くと、お待ちしておりましたとシスターに出迎えられる。

依頼を受けるにしろ断るにしろ、カイネが来てくれると思ってシスターにも話を通してくれていたのだろう。

全員でここに来たことでシスターはある程度察したようで、嬉しそうな表情でイングヴァル司祭を呼びに行った。

しばらくして、よくおいでくださったと奥の部屋から司祭がやってくる。

彼は最高司祭の割にはずいぶんと若く、初老という印象の優しげな男性だ。

カイネさんに良くしていただいて感謝しますとアロイスが手始めに言うのにも、こちらこそ、優秀な冒険者の娘さんと人々を救うことができて、むしろ私の方が助かっておるくらいですと、これまた完璧な回答をしてくる。

慕われているだけあって人格者のようだ。

人柄の良さにいくらか安心した冒険者たちは、依頼を受けると正式に告げると、司祭は感謝を述べて依頼についておさらいがてら、条件のすり合わせをしたいと提案してきた。

かかる日数も考慮して報酬は一人当たり2500ナッシュの計12500ナッシュ。多少の怪我くらいは仕方ないと言ってくれて、無事に往復できた時点で依頼達成ということだそうだ。

向こうで用事を済ませる間は数人近くにいてくれればいいそうで、全員で護衛する必要はないらしい。

お互いその条件で納得したところで、準備の時間を二時間程もらい、それからすぐにカルムの街を出発した。

今回の目的地は、全員行ったことのないテロフィの街だ。冒険者たちはどんなところか楽しみにしつつ、最高司祭といういつもよりさらに気を使わなければならない護衛対象と共に街道を歩んで行くのだった。


片道四日の距離は長い旅路で、さらに守るべき人がいるという状態は冒険者たちにはまだまだ新鮮だ。

細々した依頼で護衛依頼を受けたりはしたが、全員で行くような危険な場所を通ることなどそう多くはなかったのだ。

新しい気持ちで油断しないようにしながら見慣れた草原地帯を抜けて、荒野地帯に入る頃、早くも夕暮れに向けて日が傾いてきた。

今回は初老の男性を連れてきていることで、歩調遅めかつ休憩多めで進んできたことで時間の進み方が早いのかもしれない。

冒険者たちだけならもうそろそろデスメ火山付近の峠に着けたかも知れないが、依頼人を疲労困憊状態にさせてしまっては仕方がない。

彼らは遅めに歩いたことを司祭に気負わせないようにしつつ手早く野営の準備をして、アロイスが起こした火を囲んで夕食を取った。

少しのんびりして温かい食べ物を食べたら眠くなったのか、司祭は次第にウトウトし始める。それを見てカイネが無理せず休むように伝えると、彼は素直に感謝してテントの中に入っていった。

見張りを立てて休む前に、チャンスとばかりにマデリエネがふと呟く。

「最高司祭ともなるともっと傲慢な人を想像していたけど、すごくできた人だったわね。意外だったわ」

「誰にでも優しいし、実力のある司祭様だと思うです」

「カイネさんを上回る操原魔法の使い手はなかなかいませんからね。並々ならぬ努力を積んできたのでしょう」

「成長の早い冒険者でもないのにまだまだ若いもんな。素直に尊敬するぜ」

「……立派な人……なんだな……」

依頼主が実力者ということもあって、絶対に気を抜いてはいけない。それを全員で再確認したところで、湿地のときの見張り順で一番危ない時間帯、夜の時間の警戒をする。

幸いこの日は魔物に襲われることもなかったのだが、アロイスは空を見上げて。雲行きの怪しさを見て取った。文字通り、空に雲がモクモクとかかっており、明日は雨になりそうなのだ。

ザルムとカイネの順番でもまだ雨は降らなかったが、朝を迎えて出発しようというところでちょうど降ってきた。

荒野に入ってから降る雨は、小雨でもうかうかしているとすぐ水たまりになってしまう。そうなったときには魔法の力が必要になりかねないので、仕方なく依頼主を気遣いながら歩調を早めた。

必要になるかもしれないと、司祭の分も首から上が濡れないようなフードつきの外衣をそろえていたのは正解だった。おかげで視界は悪かったものの、あまり濡れることなく比較的長く続いた雨をしのぎ切った。
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