死者と竜の交わる時

逸れの二時

文字の大きさ
71 / 84
第八章

偽りの石像

しおりを挟む
すっかり水たまりになってしまった荒野は、魔法を使うことになる前になんとか過ぎ去って、今は傾斜のあるデスメ火山付近の山脈にきた。

ここの峠が今回の一番の危険ポイント。向こう側へと行こうとする人間を目当てに、山から恐ろしい魔物がやってくるのだ。

狡猾な魔物たちがどこに潜んでいるかわかったものではない。

しかしこちらもそう簡単にやられるわけにはいかない。偵察係となったゲルセルは翼をはためかせると、危険がないかを空から確かめる。

空を飛べるというのは便利なもので、遮るものがなければ色々なものが見える。岩に隠れて待つ山賊や、それを襲うオークなども例外ではない。

ところがこれらは危険には値しない。ではどんなものが危険かと言うと、石像のように見える魔物などであろう。

そして今まさにその石像が峠の中央あたりに鎮座していて、ここを通る人の油断を誘っている。

しかしゲルセルには魔物だということがすぐにわかった。何故かというと、少しだけ動いたのが空からは丸見えだからである。

ゲルセルは仲間たちのところに戻ってからこの石像のことを話すと、ガーゴイルという名前の魔物がすぐに候補に挙がった。石像なんぞに化ける魔物はそう多くないのだ。

「ガーゴイルは見た目通り硬い魔物なので、私の魔法で軟化させるか弱点の雷で攻撃したいところですね。しかしながら相手は空を飛ぶこともできるので、少々工夫する必要があります」

「空を飛びまわられたら魔法をかけるのも一苦労だもんな」

「有効な魔法攻撃があるのが知られたら、ほぼ確実に空を飛んでくるとみていいわね」

「……それなら……アロイスは……隠れればいい……」

「ナイスアイディアだと思うです。アロイスさんだけ遠くの岩陰に隠れながら雷の魔法を唱えて、残りの四人でガーゴイルの相手をするですよ。そうなると……司祭様はアロイスさんと一緒に隠れればいいと思うです」

「物理攻撃だけと見せかけて相手が油断したところに、伏兵のアロイスが雷で攻撃か。確かにいいアイディアだな!」

「頃合いになったらアロイスの方に相手を誘導する形ね。どうかしら司祭様?」

意見を聞かれた司祭は疑うことなく見事な作戦だと言って、彼らに付き従ってくれた。

こうして作戦が決まり、峠の中心部に近い岩場にアロイスとイングヴァル司祭が隠れる。詠唱し始めたのを確認して、残り四人は“むざむざ”石像に近づいて行った。そうして白々しい演技が始まることとなる。

「ああ! こんなところにカッコイイ石像があるですよ!」

「本当だ。ずいぶん立派だなあ」

「こんなところにあるなんてあやし……じゃなくて運がいいのね」

「……そう……だな……」

演技が下手過ぎる者もいたが、ガーゴイルには通じたようだ。極めつけにカイネが隙だらけで近寄って来ると、石像は突然動き出してカイネに長い爪を振り下ろす。

しかし振り下ろされるよりもっと早く、カイネは悲鳴をあげて逃げ惑い、でたらめに逃げるように見せかけつつ、アロイスの方にガーゴイルを誘導していく。

他の三人もカイネと同じようにして来た道を戻るようにして逃げていった。

魔物は自分を恐れて逃げる冒険者に気を良くしたようで、飛ぶことなくトコトコと余裕気に歩いている。完全に優位に立って油断しきっているようだ。

そのおかげで十分に詠唱の時間が稼げた。カイネはアロイスの隠れる岩を通り過ぎて、アロイスがガーゴイルの背後を陣取れる場所でわざとらしくコケる。きゃあという可愛いらしい悲鳴付きで。

三人もカイネを立ち上げるのに苦労するフリをして相手の魔物をベストなポジションへとおびき出した。もう良いかと演技を終えたカイネの変化に、ガーゴイルが気付いたときにはもう遅い。

魔物の遥か天の上に、突如として現れる巨大な魔法陣。青白く閃くそれからは電撃の咆える音がする。

けたたましく轟音をかき鳴らしてバリバリと明滅するまばゆい光が、まさにほんの一瞬、時を止めるように瞬いた。

降り注ぐ雷で動き出した時は、ガーゴイルの硬い皮膚を焼け焦がし、光の中に消し去っていく。

冒険者たちも怯む中、轟音、閃光そのすべてが暴れ終わったあとに残されたもの。それは何もない。何一つない。

黒ずんだ峠の地面でさえ、大きな窪みへと瞬く間に変貌していたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

才能は流星魔法

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。 そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。 流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。 ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。 井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。 山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。 井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。 二日に一度、18時に更新します。 カクヨムにも同時投稿しています。

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

処理中です...