白の世界

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とある研究員の軌跡

とある新米研究員が今日という日をなんとか終えるまで(2)

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 笹部さんと真鍋さんにより精神的にやられてから数時間経ち、私はようやくレポートの総まとめが終えて、固まった体を解すために軽く伸びをする。
 私一人となった研究室をゆっくりと見回す。私がレポートをまとめている間にチームのメンバーは定時になったので帰っていった。その中で真鍋さんは残ろうかと聞いてくれていたけど、わざわざそこまで付き合ってもらうのも悪いので帰ってもらった。そのおかげで、寂しい一人の空間を手に入れることが出来て、作業をする分には集中出来たかなと思う。
 部屋は静か……、と言いたいけど機械が働いている音がゴォーンゴォーンと部屋中を響かせている。今思えばこんなに音がうるさいのによく集中出来たなぁと自分に感心する。
 私はやることを終えたので、のんびりと自室に戻る準備を整えて研究室を出ようとした。その時に不意にあの子のことが気になって、あの子が見える場所まで足を運んだ。
 見たところ、どうやらあの子は眠っているようだ。そういえば、レポートをまとめていた時は起きていたのかな?
なんて自分には関係がないことを考え始める。そこからは私は考えが止まらなかった。
 あの子は一体どこから来たんだろう。初めから地球にいたのだったら、誰かが発見した記録ぐらい多少なりとも残されていてもおかしくないのではないか。確かにUMAとかいう生物の話はよく聞くけど、どれもでっち上げだったり、結局は捕獲も出来ていなかったりしている。でも、それとあの子の違いは実際にここにいるかどうかだ。私の目の前で生きている【未確認生物10号】と不名誉な名前を与えられてしまったあの子は実在している。それなのに、何一つ情報はないとしたら、一番考えられるのは何かしらの理由でここ最近地球にやってきたんじゃないかということ。捕獲されたのが山の中、しかも下の方ともなれば人が行けないところなんて少ないだろうし、何かしらの後は絶対に残っているはずだ。この現代においては人なんてもはや色んなところに住んでいたり、希有な人なら普通の人なら足を踏み入らない場所まで行ったりする。それなのに昔から住んでいると仮定しても、今まで見つかっていなかったのが不思議でならない。何故人に似通って目立つ存在が今となって捕まったのか……。何かしら私達人類では想像も出来ないような不思議が起こっていたのかもしれない……。

「グルルル……」

 私は急な唸り声が聞こえてきてハッと我に返った。唸り声の正体はもちろん寝ているあの子の方からだった。もしかしたら寝言に近いのかもしれない。私はすかさずカバンからメモ帳を取り出し、懐にしまってあるペンを使って唸り声を上げたことについて記録した。
 やはり、あの子は地球に住む生物と変わらないのかもしれないと優しく見つめる。チームのメンバーはあの子のことを危険だと言っていたけど、私はそんな子じゃなくて、友達にもなれる良い子だと思っている。少しずつ触れ合っていけばきっと良きパートナーになってくれるはずだ。
 私はさらにあの子のパートナーになろうという気持ちが高まってきた。それと同時に私に良い案が降りてきた。今度会った時に言語能力のチェックと称して名前を付けよう。もしかしたら名前を持っているかもしれないけど、私達の間で名前を呼び合えるようになれば、より絆が深まり、あの子も何か友情のようなものを感じてくれるはずだ。
 そうと決まればなんとかまた接触出来るように話しをつけなければ!
 私は名前を知らないあの子に向かって小さく手を振ってから研究室を出ていった。
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