皇子と王女は珍道中!

三条

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兄王からの命令

1話

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アナスタシアにとって、今からちょうど一年前の出来事だ。

 長らく病を患っていた国王が崩御し、義兄たるレオンが玉座に着いた。

  義姉妹との仲は余りよろしくないが、義兄あにのレオンとは互いを認め合う程には仲が良かった。

  アナスタシアはとある事情から、幼い頃から男として育てられ、アナスタシオと呼ばれている。


  今思えば不思議なものだ、彼女の周りの人間は、『女顔の可愛い男の子』くらいにしか思わなかったのだ。

  王の命令だったので、断る理由もなく、男として過ごして来た。

  アナスタシアが王宮入りして間もなく、義兄姉達と顔を合わせるよう、国王が機会をはかってくれた。

  アナスタシアが女だという事は、国王と宰相が知っているのは当然として、兄弟の中で知っていたのはレオンだけだった。

  それをどうしてかと義兄に尋ねると、

  「陛下に、将来俺が国を背負って行く事において、真に信頼の置ける右腕が男でも女でも構わないから欲しいと言った。」
  「そうしたら、陛下はこう仰った。『私には実はお前達の母以外の女との間に子供がいる。』その時は当然驚いたさ、しかし陛下はこう続けた。『あの娘とその母親にもお前達親子にも悪いことをしたと思っている。しかし、お前の母と私は仲がいいが、昔は政略によって成り立っていた仲だった。昔は私も若かった。一番可哀想なのはその女との間にできた子供だ。あの子に立場をやって欲しい。あの娘は今母親と貧民街で暮らしている。』と頼まれたのさ、その時に君が男の姿をしているが実は女だという事も聞いていた。」
  「俺の右腕にするなら、男の方が都合がいいこともあるし、お前は元平民だから、女だと尚更貴族たちに何をされるか、言われるかわからんからな。」


  欲しい答えはもらえたし、女に戻る気も起こらなかったので、アナスタシアはアナスタシオとして、国王とレオンの庇護のもと、王子として教育を受けたのだった。





ーーー






  時を戻して、今。

  アナスタシオことアナスタシアは現王レオンに呼び出しを受けていた。

  ここ一年でのアナスタシアの仕事振りはめざましく、国外でも評判になってきた。

  特に大きな失敗もなかった筈だが、一体どうしたものかと王のもとを訪ねたら、内密の命がある。と言われた。


  「俺が国を治めて早一年、お前もよくやってくれている。そこで頼みがある。といってもこれは半分命令の様なものだな。」

  義兄が自分に命令するのは非常に珍しい事だ。
  あってもそれほど大した事ではないのだが、一体どうしたのだろうか?

  「命令、ですか。珍しいですね。一体どの様なものでしょう。」


  今までよくしてもらっているし、自分は彼こそがこの国の王に相応しいと思っている。だから、彼の憂いはできるだけ晴らしたいと思っている。


  「俺は他国を知りたい。それも、友好国や同盟国に限らず様々な国を。」


  その事は前々から彼がこぼしていた事なので知ってはいる。

  
  「俺は立場、国を離れるわけにはいかん。そこで、お前に旅に出て欲しい。五年でいい。できるだけ多くの国を見てこい。」


  これには流石に驚いた。

  しかし、彼は命令だと言ったのだ。

  断る理由も無いし、と思い、アナスタシアはこれを引き受けた。


  「畏まりました。このアナスタシオ、しかとその使命を果たしてみせます。」

 



  こうして、彼女を取り巻く運命(と言うには大袈裟か?)が動き始めたのだった。




  
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