【完結】忘れられた王女は獣人皇帝に溺愛される

雑食ハラミ

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第4話 威風堂々の獅子

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レグルスは、視察からずっと帰ってこなかった。確かに、ロザリンドが嫁いで来る直前に起きた災害はそれなりに大きいものだったらしい。それなら不在が長いのも仕方ないのだが、ロザリンドは自分に落ち度があったから会ってもらえないのではないかと密かに怯えていた。

そんな時だった。看病してくれたメイドに偶然再会したのは。

「私の面倒を見てくれた子ね。あの時はありがとう。お陰ですっかりよくなったわ」

「いいえ、私の顔を覚えて下さったなんて、身に余る光栄です」

お礼を言われたメイドは照れる余り、顔を真っ赤にして先日と同じように耳をぴょこぴょこ動かした。

こちらに来て初めて知ったことがある。一口に獣人と言っても、犬型だったり猫型だったりと、色々な種類があるのだ。このメイドはウサギ型で、白く長い耳をぴんと伸ばす姿は愛らしい。

「ねえ、聞きたいことがあるの。私が高熱で震えていた時、動物が体をくるんで温めてくれたような記憶があるんだけど、あれは気のせいだったのかしら?」

それを聞いた彼女は、露骨なくらいにうろたえた。

「えっ!? な、何も存じませんよ? 私たちも余程のことがない限り動物の姿にはなりませんから。不思議なこともあるもんですねえ?」

「そうなの……確かに不思議よね? 私も意識がもうろうとしていたので曖昧な記憶しかないのよ。もう少し詳しく分かればいいんだけど」

「夢かもしれませんよ? ほら、高熱を出すと夢見るって言うし」

「そうなのかしら……とにかくありがとう。仕事の邪魔をしてごめんなさい。そうだ、まだあなたの名前聞いてなかった」

「メイドの名前なんか聞いてどうするんですか?」

「タルホディアのことをもっと知りたいの。私はまだここに来たばかりで何も分からないから。色んな人と知り合って色々学びたい。まだ肝心のご主人様にも会えていない状態だけどね」

残念そうに苦笑するロザリンドにつられて、メイドも一緒にしゅんとした。

「きっと……すぐに戻って来られますよ。私の名前はハンナと言います。新しい奥様にお近づきになれて光栄です。どうか末永くよろしくお願い致します」

ハンナは膝を折って未来の皇妃に対する敬意を示してから仕事に戻って行った。

常にカルランスの侍女たちに囲まれる状況は息が詰まる。久しぶりに他人と気の置けない会話をした気がして、ロザリンドは気分がスーッと軽くなった。どうせ手元に置くならハンナのような人物の方がいい。祖国から着いて来た侍女たちは、いくら同国人とは言え心を開けない。どうにか今の状況を変えられないだろうか。そんなことを考えながら、廊下のフランス窓から中庭に出てふらふらと歩き出した。

上着を着ずに外に出たので、少々肌寒い。タルホディアはカルランスよりも涼しい気候と言われているがその通りのようだ。カルランスでは秋の始めくらいだったが、ここでは既に冬の足音が聞こえる。

しかし、庭園をしばらく歩いていると、ここの気候にそぐわない低木が植えられていることに気付いた。これらの植物は、本来熱帯地域で見られるはずだ。そう言えば心なしか気温も高くなっている気がする。一体これはどういうことなのだろう?

ちぐはぐした違和感を抱えながら散策していると、一匹の動物がのっそりと歩いている場面に出くわした。オスのライオンだ! びくっとして思わず立ち止まる。

(やだっ! なんでこんな所にライオンが!?)

彼女は恐怖で足がすくんで動けなくなった。一歩でも動いたら襲われるかもしれない。そんなことを考えていると、ライオンがゆっくりと歩みを止めこちらに顔を向けた。

目が合った。

まずいと思いはっと息を飲んだが、相手の目を見た瞬間、なぜか恐怖心が消え去り、これは大丈夫だと安心した。自分でもよく分からない感覚に戸惑いつつも、目の前の獣から目が離せない。

(こんな美しい生き物がこの世に存在するの? ここまで深い知性のこもった目を見るのは初めて。なぜ? 動物のはずなのに?)

黄金色の毛並みは陽の光を受けてつややかに反射し、豊かなたてがみが百獣の王であることを雄弁に語っている。精悍で端正な顔つきは思わず見とれてしまうほどだ。ライオンと言う生き物は知っているはずなのに、まばゆいほどに神々しさは、まるで別物だった。人間をも凌駕するオーラを放つこの獣の正体は何なのだろう?

ライオンもまた、ロザリンドを認めたようだ。落ち着きはらった状態でじっとこちらを見つめている。その深い瞳を見て、少なくとも敵意は感じられなかった。それなら、どうにかしてこの動物に触れてみたい。恐怖心に勝る好奇心にロザリンドは抗えなかった。おずおずと近づき、手を延ばす。

「おいで。怖くないから。私のところに来て」

ロザリンドが半ば自分に言い聞かせるようにそう言うと、ライオンは人の言葉が分かるのか、素直にやって来た。内心興奮に打ち震えながら、優しく抱きしめそっとなでる。ライオンはおとなしくされるがままでいた。何となく心が通じたように感じた彼女は、もっと話しかけてみることにした。

「お前は誰? 私はロザリンド。隣のカルランスからやって来たのよ」

そう言うと、分かってるとでも言いたげにライオンはごろごろと喉を鳴らした。まるで猫みたいだと思ったところで、ライオンも猫の仲間だということに気付く。

「この国の皇帝陛下に嫁いだはずだけど、まだ陛下にお会いできないの。私が気に入らないから会ってくれないのかしら」

誰もいないのをいいことにぽろっと本音が出てしまった。この獣の前なら、素直になれる気がする。少なくとも誰かに告げ口されることはないだろう。いつの間にか、ロザリンドは芝生の上に座り込み、ライオンと体を密着させ、ぽつぽつと話し出した。

「祖国でも要らない子だったの。母上が処刑されて身分をはく奪されて、生活するために必死で働いて来た。それがいきなり皇帝の妻だなんて笑っちゃうわよね。こんな半端者が皇妃だなんて恐れ多いわ」

滑らかな毛並みを楽しむようにたてがみをなでながら一人喋り続ける。

「一緒に着いて来た侍女は、タルホディアが気に入らないみたいで、色々悪口を言ってて気が滅入っちゃう。私はそんなに悪くないと思うんだけど。むしろ、この国の人の方が素朴で、私みたいな人にも優しく接してくれる。でも、私が取るに足らない人間だとばれたらがっかりされるかしら。陛下も前の奥さんと比べて失望するでしょうね」

ライオンは一瞬ぴくッとしたが、ロザリンドは気に留めることはなかった。

「陛下は、前の奥さんを今でも愛してるんですって。だからしばらく結婚しなかったらしいんだけど、それならどうして今になって再婚するのかしら? 私何にも知らないの。突然国王から王族に戻って嫁げと言われただけで。どうしてそれだけで言うことを聞いてしまったのかしら。バカよね」

ロザリンドがひとりごちている間、ライオンはじっと静かに聞いていた。言葉が通じるとは思えないが、その姿は彼女の話を理解できているように見える。一通り話し終えると、ロザリンドは胸のつかえが取れたような気がした。今まで誰にも相談できず、一人苦しい思いを抱えていたのかもしれない。ライオンの体温と毛並みはとても心地よく、身体を合わせているだけで癒された。

「ありがとう、話を聞いてくれて。あなたいつもこの庭にいるの? それなら、ここに来ればまたあなたに会えるかしら? またお会いしたいわ」

ロザリンドがそう言うと、ライオンは頷くような素振りをした。まさか、話が理解できているの? とびっくりしたが気のせいだろう。ロザリンドは、またねと言って手を振って建物の中に戻ったが、ライオンの方は立ち去る彼女の背中をじっと見送るように、いつまでもその場に立っていた。


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