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第2章 新生活スタート

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「えっと、水──ですか?」
「うん。リンゴ酢を美味しく作るのに凄く綺麗な水が必要なのです。ちなみにもう一つのは味を比べるためのもの。だから兄さんの魔法が一番なの。ほら、僕は水属性を持ってなかったから……。ね、お願いだよぉ~、お水欲しい。お水ちょーだい?」

 なんだかグレン兄さんだけでなく部屋にいる人全員がボーッとしてるけどどうしたんだろ? そんなに魔法で出した水を欲しがったらいけませんか? 首をかしげて返事を待っているといち早く脱け殻状態から回復したのはグレン兄さんだった。さすが騎士団の団長様。なにがさすがなのかと聞かれると困るから聞かないで下さい。

「ルカ……。わかりました、水で良いんですよね? 『ウォーター』」

 同じ量の水を壺に入れてくれて俺が大喜びをしていると何故かグレン兄さんにギューッと抱き締められた。う、うん。いや、その、なんだ? 体がミシミシと悲鳴をあげてる気がするんだ。でも苦しいとは言えないこの状況。だってグレン兄さんが泣いてる気がするんだもん……。だからギューッて、ギューッて圧迫されても我慢我慢──無理ですぅ~……。

「ま、ママ~……。あの、僕、兄さんの部屋を見せてもらってきてもいいですか? さっき、見せてもらう前に散歩に行っちゃったのを思い出したの!」
「えぇ、グレンが良いのなら全然構わないわよ?」

 あくまでも見てませんよ~……を笑顔で押し通すママは凄いなぁ……。てかさ、そんなに水属性って役に立たないと思われてるの? 腹立つわぁ……。凄く便利なのに……。よし、決ーめたっ! 俺、本格的な冬になったらグレンさんに氷の魔法を仕込もう! 主要貴族の別邸に霙を確認したら氷柱の雨を降らせてやる!!

 ──冗談だけども、とりあえず今は脳内だけにしておこうか……。

 先ずはお湯が出せるようになったらビーム……じゃなかった。高圧洗浄みたいな水撃。もしくは水の弾を拳銃のように放つ魔法を仕込むか……。主要貴族の別邸の壁という壁を穴だらけにしてくれるわっ!

 ──とりあえずこちらも脳内だけにしておいてやろう……。

 朝の身支度の時にミリアムに、勉強の時にヨハンにと色々と聞いたけれど、水属性は水しか出せないんだって……。液体だから敵(モンスター)を倒せないとされてるんだってさ……。

 ──液体でも敵は倒せるわっ!

 と、口を大にして言いたい。モンスターの顔に水風船みたいなものをヘルメットみたいに被せれば水死させられるっちゅーの! それにモンスターから血という水分を奪えば力がなくても殺せるんじゃね? あれ? これはドライで出来るのかな? 知らない人とか暗殺者等に使われたら困るから言わないけどさ……。
 グレンさんに「兄さんの部屋に行きたい」と言うと少しだけ困った顔をしてくれて、そっと俺を抱っこしてくれた。とりあえずお茶を用意してもらったにも関わらず、テーブルに出される前に退室という超我儘な坊っちゃんみたいな行動──。悪気は一切ないので許してください。お茶を用意していたミリアムにハーブティーはお好みでハチミツを入れてねと助言と、壷に色違いの布を掛けるように頼んだ。

 廊下を進み、また戻ってきたグレンさんの部屋はモダンな感じでした。俺に用意された部屋がなんかおかしいだけな気がしてきたよ? 何て言うかちょっと男にしては可愛いと言うか……。まぁ、嫌いではないから暮らせるけど……。

「ルカ。今、キスしていいですか?」
「え、んっ……」

 あのね? 質問したなら少しくらいは返事を待って欲しいの。え? って顔をあげたらチューされましたよ? これってキスしていいですか? じゃなくてキスしますね? の間違いな気がするよ。

 あー……でもグレンさんのキスは嫌じゃないんだよね。これってなんでなのかな。

「んっ……」

 もっとって思ってしまうのは何故──?



   ◆



「ルカ、すみませんでした……」

 現在、グレンさんの部屋のソファーで体を向き合う様にして俺は膝に座っていた。え、理由? ……その……さっきまでずっとチューしてて途中で腰が抜けたというか、ヘロヘロ~と力が抜けちゃって……。抱き抱えられてソファーに座ったんだけど、そこでもキスが続きまして──。暫定的にグレン兄さんはキス魔と思われる。

「え、ううん? グレンさんのキスは好きだから平気……」

 腰が抜けたくらいなんでもないよ! 逆にキスで腰が抜けたのに驚いたくらいだよ? 全然、OK! 気にしちゃダメさ! ちょっと長いなぁ~……って思っただけだよ?

「だからそう言うのが誤解のもとなんですよ?」
「……兄さんにしか言わないから良いの」

 他の人にグレン兄さんとするキス好きなんだよね~っ! て言うわけないでしょ? ……あ、あれ? あ、他の人が俺とグレンさんの仲を誤解するってこと? あー、そっか……。お仕事とか色々あるし困るもんね……。 言葉には気を付けようっと……。

「…………う……。あー、……コホン……。さて、ルカ? ラードのことなのですが……」

 話題を変えられ、調味料のラードの話になった。なんか、隠し通せないってさ……。いや、隠さずに寧ろラードを広めるべき何だけど、ムカつく奴等に無償提供なんか絶対にしたくない。

「うん。ならランドルフ領の特産品の一つにしたらいいんじゃないかな。主に豚の脂肉で作るのがラード。牛の脂肉で作るのがヘット。馬の脂肉で作るのが馬油って言うの。馬油は食用にも使えるし顔とかに塗って保湿も出来る優れもの何だよ? だから馬油作って販売するなら食用じゃなくて少量で高級化粧品として売るのが一番! ランドルフ領は特に馬の産地何でしょ?」
「えぇ、そうですね……。ゼノの所は酪農が特に盛んです」

 あはは、聞いてよ。ゼノさんは子爵家出身でランドルフ領の領都から少し離れた大きな町をゼノさんのお父さんが取り仕切っているらしい。所謂市長とか区長みたいな感じかなぁ。アンドレアさんもゼノさんと同じでお父さんが別の町を取り仕切ってるらしいよ? ただ騎士団でゼノさんの補佐についてる人だけが違うみたい。なんか商家の息子さんらしい。商家ってことは商人の家の子ってことだよね? つまりは彼を使えば商売のルートを確保したようなものなのでは──。

「ねぇ、グレンさん。ゼノさんとアンドレアさんは裏切らない?」
「うーん、そうですねぇ……。なんとも言えませんが裏切る可能性は低めとしか言えませんね。勿論先のことなどわかりませんし、この国の貴族全てが王族を敬っている訳でもありませんから、同じ様にうちと仲が良いと言ったところで裏切らないとは残念ながら言えないのですよ。ただ、二人の家は我が家の親戚になるので裏切ることは低めとしか言えないと言いますか……」

 うーんと、確か国の形式としては領邦って言うんだっけ? あー、世界史ちゃんと勉強しておけば良かったなぁ……。確か昔のヨーロッパって各地で一定の軍事力権限を行使する実力者がいて、昔の日本の武将みたいな感じなのかな? それらがより上位である帝権、王権の下で半自律的な政権を樹立してたんだったっけ? んでそれらは今までのように辺境防衛の目的から築城じゃなくて自らの支配拠点にあたる箇所に城を設けた……。これが所謂領地、領土、本宅ってことだよね? んで世襲制のもとで一定の領域に対して支配力を行使する。えーっと、その領域的支配は封建的な人的関係に依存する。

 これが基本のベースだったよね……。

 中世後期になって王権の強化が進み、各地の領邦は王権に従属する。それにより各領邦は自立した主権国家にはならなかったはず……。確かヨハンさんの話だとウォルター家は国王から土地を与えられて主従関係を結んだ豪族などではなく、もともと自分の土地を持っていて国王と主従関係を結んだことでその所有権を認められた豪族だと言っていた。主従なのかは建国当初から不明らしいけど、ウォルター家は仕方なく主従関係を結んだらしいので代々忠誠心は薄め。ただ、受け継ぐ長子が皆武に秀でているので、騎士の家系となったらしい。つまりパパもグレンさん並みに強いってことか……。いや、年の功ってことでパパのが強いこともあるかな? 他の貴族の内部はわからないが、代々それを受け継いで領地の経営をしているうちに王から賜ったと言う意識は元よりないのではないかと言っていた。
 あー、そう言えば小説でもよくあるよね! 貴族。つまりは諸侯は強い王でなければ従う意味はないって独立しちゃったりさ……。現在水面下で腹の探りあいをしているらしい。うーん、その、なんだ? 意外と貴族の中で王様の支持率が悪いってことなのかな?

「とにかくゼノとアンドレアとは今のところ良好ですからすぐに裏切ると言うことはないと思いますよ?」
「うん、ならさ? ラードとヘット、馬油を試作品として作ってパパに特産品の一つとして普及させてもらったらどうかな……。なにも馬を殺せとは言わないよ? ただ死んだばかりの馬の体を解体して脂肉をもらう感じかなぁ……」
「ルカ、心配しなくても平気ですよ? 領地では軍馬や馬車馬以外に食肉としても普及してますから。脂だけ使い道がなかったのですが、使えたのですねぇ」

 しみじみと言ってるけど、たぶん庶民の人のハンドクリームがわりになってる気がするけどなぁ~……。よくある話でオリーブとか椿とか油を作っている場所は独自のスキンケアが発達してるとかさ……。何となく脂肉を手に擦り付けたりと何かしらしてると思う。民間療法的な、ね……。




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