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妾じゃなくても……

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 喧嘩の理由が理由だけに当初の怒りはそんなに持続するものではなく、結界は三日で解除した。

 三日坊主とか言わないで欲しい。
 ただ、なんと言うか、本当になんか馬鹿馬鹿しくなったと言うか……。
 いや、ホントじゃよ!




 そして数日後。
 朝、眠いのに転移してきた父上に叩き起こされ、中々起きない妾に業を煮やしたのか使用人数名を呼び出してキッチリ、カッチリ? と、おめかしをさせられた。

 はて、今日はこんなに可愛い服を着て、髪を整えられ、お姫様みたいな状態にされて出掛ける予定は無かった筈なのだが……。

 考えるのを放棄して父上の腕の中で惰眠を貪っていると気が付いたときには父上のマントでグルグル巻きにされたミイラ……ではなく芋虫の姿で膝に座っていた。

 髪飾りもおめかしした服も、顔以外は一切見えないと言う残念な結果である。

「あの、父上? 妾はなんでここに?」

 現在、全体がよく見渡せる一等地のテラスで大きなパラソルの下でマントでグルグル巻きの末、芋虫のような姿で父上の膝の上に座っていた。

「おはよう。いやぁ、リアちゃんも一度しか会ってないし、弟たちの勇姿を目に焼き付けたら良いと思ってね?」

 夜更かしをしていたのでお昼の時間も眠っていた妾は正直、ご飯を食べ損ねてお腹が空いていた。

 素直にそう言うと父上は取っておいてくれたのかパンでハムなどを挟んだ物を口に運んで食べさせると言う王族、貴族がそれで良いのか? と言うマナー度外視をした。

 まぁ、妾も別に気にしないし、モグモグと静かに食べながら観戦をしていたのだがーー。

「勇姿? あれが? あから様に相手に手加減してもらって『俺は強い!』とか勘違いしてる様にしか見えないアレが? 勇姿?」
「おぉ、リアちゃんは容赦なく毒舌だね」

 現在、テラスの下で行われている広場では魔法騎士学科のトーナメントが……。
 現在の試合の説明をすると呆れ顔の生徒と強制入学させられた弟のジェファードの戦いが繰り返されている。
 そこまでは良い。身内だし頑張れと応援したい。

 だがしかし、現在試合中。それは良い。ただ、繰り広げられている魔法の横行に妾も父上も唖然とするしかない。
 魔法……。「火の玉ボールドゥフゥ」とか「水の槍ランスドゥラロォ」とよく聞こえる。
 初歩魔法でよく相手を倒そうと思えるものだ。


 しかも自信満々に……。ドヤ顔で……。


「いやぁ、こっちが恥ずかしくなるよね……」
「でも父上? よくよく考えたら妾は父上から魔力特化と母上の武力を頂いて、ジェイルは父上から武力、母上の魔力。そうなると残りは何が残るのじゃ? ろくでもないと思うんじゃけど」
「あー、マリーの天然と、沸点低いのと、あとは……俺の面倒くさがり?」

 まぁ、妾とジェイルは両親から全てを貰ったわけではなく、長女と長男と言う立ち位置から努力を重ねた結果だとは思うのだが……。

「妾、アールと出会わなかったらあんな状態なのかもしれぬなぁ……」

 うわぁ、考えただけで死ねる。
 当事者なら恥ずかしいとは全く思わないのだろうけれど、恥ずかしくて死ねる。

「え、リアちゃん。それってつまりは俺とマリーの育てかたが悪いってこと? そう言いたいの?」
「いやいや、ただジェイルがアメジール領に来たときはなかなか最悪じゃったのでな? 自分の身の回りのことは一人では何も出来ずに少ない使用人の手を使って着替えとかな。それ以外にも飲み物を飲むのに呼び出し、お風呂も介助が必要だったか……。とりあえず、一人で出来るように訓練するのに少し厳しめの侍従をつけて一年で身の回りのことは一人で出来るようになったかな。まぁ、その侍従に妾は一年間ほど毎日のように愚痴られたが……。貴族としては正解なのかもしれないが、そんなに使用人を使われては困るでの? それで一人でそれなりに出来るようになったのでアールの学校に二年くらい通わせたのじゃよ。最初の半年を魔導科に、残りの半年を剣術の傭兵科に。そして最後の一年を商人の経営科に通わした。最初はなかなか生意気な王子じゃったがの? 一週間で現実を見せられたのか大人しくなって、それからは友達ができたのか楽しそうに通い始めたぞ?」

 しみじみと言うと、父上からなんとも言えないどんよりとした空気が漂ってきた。

「育てかたが悪いってことなんだね?」
「うーん? そういう訳じゃ……。ただのぉ? あんな風に王子が相手だから仕方なく負けてやると言う優しい者がうちの領にはいないのでな。ジェイルは通い始めはなかなかボロボロで帰ってきてたぞ? もちろん怪我も綺麗に体力もちゃんと回復してやったがな……。でも、さすがにアレらはうちの領では無理じゃ。なんていうか、死刑、死刑騒いで姉の妾も一緒くたにされて印象悪くされそうじゃしの」

 そんな話をすると父上は急に魔法を使った。
 攻撃魔法ではないが、広範囲の拡声魔法を……。
 使用した本人は普通に話すが範囲内の人全てに声が届くため、便利。
 でも、デメリットは声が近くにいるほど大きく聞こえるので耳が痛くなる。

「ひぎゃぁぁぁっ!! ちーちーうーえーーーーっ!! やるならやるって前以て言って欲しいのじゃ! しかも耳塞いで欲しかった!」

 妾、マントでグルグル巻きの芋虫状態じゃから耳を塞げなかった。
 マントごときの薄さでは爆音を遮れずに、頭痛と耳鳴りで涙をボロボロこぼしていると父上が慌てて抱っこし直して背中をポンポンしながらあやされた。
 側にいた貴族達はそれを微笑ましく見ていて、何だか恥ずかしい。
 いや、先程のパンを食べさせられていたのも見られていたから妾、もう恥ずかしくて穴を掘って埋まってからどこかに転移したい。

 もう、お家に帰って良くないかの……。
 王族としての仕事だと言うならもう、努めたと思うんじゃよ……。

 そんな妾の第一王女のレベルは2にレベルアップしていた。












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