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フラワーフェスティバル

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「じゃから、ここと、ここと、ここの道路は馬車が通れるようにしてメインストリートは歩行者専用。コンッ、次いでに馬車の通れる道路は移動手段として馬車を周回させたらどうじゃろ? 馬車が見えたら出発して、馬車が見えたら出発しての繰り返し。なんなら馬も人も一時間毎に休憩させたら良いじゃろ? コンッ、コンッ」
「なるほど……。それは良いかもされませ…………あの、クリスタリア様? 非常に申し上げにくいのですが……。お父さんたちが後ろで勢揃いしてます……」

 その言葉に地図から目線を上げて首が錆びてしまったのかと思うくらいに中々動かず、効果音はギギギ……と立て付けの悪い扉のような音を頭のなかで鳴らしながら後ろを振り返ると父上と、アールと、執事の3人が何とも言えない顔で立っているではありませんか。

「リーアちゃんっ♪ パパ、家の中を必死で探したんだけどなぁ~……。病人のリアちゃんはどうしてお外にいるんだろうね~……。すっごく不思議だねぇ~っ!」
「ひっ!」

 父上は好感度の高い王様スマイル。でも声はなんとも言えぬ冷たさ抜群の声質だった。その笑顔が怖い……。

「クーリス。クリスが部屋にいないって皆、心配して探し回ったんだよ~? クリスは風邪ひきさんなのに何でお外にいるのかなぁ?」
「ひえっ」

 アールは綺麗な顔をいかした優しい笑みを浮かべたまま、どこから出してるのか不思議になる地を這うようなひくーい、ひくーい声だった。
 なに、そのチグハグさ……。恐ろしいんじゃけど……。

「コンッ、コンッ……」

 ハッとして慌てて口を両手で押さえると視界の片隅に執事がいた。

「リア様。咳が止まってないのにお外に出るなんてダメでしょう? 教育し直しましょうか……。学園長ではなく、私が直々に指導してあげましょうね」
「いやぁ……」

 ニッコニッコと笑ってるけれども手に持ってる縄がすべてを台無しにしてる気がするんじゃよ……。妾、別の意味で寒気がする……。

「リア様、とりあえずおしりペンペンしましょうか……」
「お断りします……。ワラワ、イイコジャヨ? コレカラ、クスリノンデ、ネルンジャヨ……」
「「「飛びっきり苦いのを用意しようねぇ」」」

 …………飛びっきり苦いの……じゃと……?
 妾は父上にお姫様抱っこでもなく、お子様抱っこでもなく、ただの荷物のように担ぎ上げられた。

 地味にお腹に父上の肩からの攻撃がダメージを与える。
 そして解放されたのは妾の寝室。ベッドの上に到着するまで攻撃を受け続けた。

「ふえぇ……酔った~……。視界がグラグラして気持ち悪いのじゃ……。そしてお腹が痛い。父上の肩から攻撃を受けた~……」
「それに関してはリアちゃんが悪い子なのが悪い。どうして治ってないのに外でるの! ダメでしょ!」

 ベッドの上で正座をさせられ3人から延々とお叱りを受け、口撃が終わると妾の足は立てないほどに痺れていたのであった……。
 そう言えば母の日の三馬鹿もとい愚弟達は正座した膝に石の板を乗せられてたとか聞いたから……。

 うむ、乗せられなかっただけマシじゃな!

 しかもすれすれの所を母上の鞭が凄い勢いで床を叩きつけると言うオプション付き。

 うむ、鞭が無いから全然マシじゃな!!





 数日ほど厳重な監視体制のもと、アールの奥様方が見舞いにやって来た。

「ふふっ、リアちゃん。聞いたわよ? 脱け出したんですってね~……。旦那様が怒ってらしたわよ?」

 アンジェリア様が楽しげに笑っていた。

「ちなみに私達はお客兼監視員ですわよ?」

 セシリア様もクスクス笑いながらも監視員と名乗った。
 どうやらお客も兼ねてるところから妾が暇をもて余しているためにまた脱走すると思われているらしく、ならば脱走を阻止するために話し相手を与えよう。そう言うことらしい。

 確かに寝込んでからは話し相手と言えば看病なのか監視なのか……。
 父上にアール、執事がローテーションでやってくる。彼らが仕事の時はこれまたローテーションでメイドがタオルを取り替えに来る時に軽く話す程度で、最近は完全なる引きこもり状態である。

 暇潰しにと本を渡されたが何とも言えない恋愛やら不倫やら悲恋だのといった内容のお話ばかりで、それならば魔導書を読んでる方がマシだとそればかりを読んでいたのだが……。
 現状熱も平熱に戻り、咳だけが残ったためにいまだに外に出してもらえないのだった。

 過保護はんたーい! 過保護はんたーい! 妾にもっと自由を~っ!

 とりあえず心の中で反対運動をしてみる。









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