クラス転移にハブられた

華乃アオ

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いい度胸してやがる

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 俺が提出物を出す係で、その上先生に呼び出されていたから教室にいないのは仕方のないことだった。そりゃそうだ。仕事はやらねばならないし、呼び出しには特に用事がなければ応じるだろう?そのせいで、幸か不幸かクラスの面々が俺を除いて机ごと消失するということが起きたんだけどな。
 さて、ここでどうするか。俺の机には大事なものが入っているわけなんだけど、どこかに机はクラスメイトと共に言ってしまった。時空の彼方に彷徨っているのならまだ安心だけど、もし、異世界転移からの勇者ルートだと、すごく不安。あれ、異世界の人に見られたら平和な生活が終わる。そんなわけで俺が取るべき行動は……

「よし、行くか」

 クラス転移でハブるなんて駄目だと思う。仲間はずれだめ、絶対。

「どこにかな?」
「あ、先生。教室が空っぽになってたんですけど」

 一歩踏み出そうとしたその時、後ろからポンッと肩に手を置かれて振り向くと先生がいた。俺らの担任である。

「は?」
「ほら」
「まじで?」
「まじで」
「ホコリ一つない」

 先生からしたらあまりにも非現実的で、逆に冷静になってるみたい。そうだよね。驚きが一周回って来ちゃったわけだ。

「これ、どうしましょうかね。先生」
「警察……?いや、まずは校長先生……?」
「あれ……?」

 先生がとにかく職員室に報告をとこの場を去っていったあと、ふとクラス札を見上げてみると文字が消えかけていた。長年使ってきたクラス札で、ところどころ掠れている部分は昔からあったけど、水を真夏にコンクリートに撒いてその水が見えなくなるみたいにスーっと消えていくのはちょっとばかりおかしいんじゃないだろうか。そして、クラス札の変化は隣のクラス札にも現れ始めた。

「三組が二組、ねぇ……」

 俺のクラスは二組である。しかし、隣の三組が現在進行形で二組になろうとしている。どうやら、このクラスはなかったことになるようだ。もしかしたら、二組にいた生徒のこともなかったことになるのかもしれない。その場合、俺と先生はどうなるのだろう。いなくなっていない二組は他に組み込まれるのか、このクラスと同じくなかったことになるのか。

「……」

 どうしてくれようか。ホコリ一つ残さないくせに、床に痕跡は残してくれている。だから、跡を追いかけることは不可能ではない。

「……っち」

 せっかくの平穏な生活が崩れるとは思わなかった。現実的な壊れ方だったらまだ認めようがあったけど、こんな壊れ方原因を殴りに行くしかないよな。うん。

「宮平!」
「先生……どうされ…」
「二組がなかったことになってる。俺はどこの担任にもついていないことになっていた。宮平も、ここにいないことになっていた」
「家族はどうなんでしょうかね?家族もいなかったことになっているのか、あいつらだけいなかったことになっているのか」
「だよな……。宮平、一緒に行動しよう。もしもが怖い」

 今はこれで済んでいるけど、いつ先生がいなかったことになるか、俺がいなかったことになるかわかったもんじゃない。

「そうですね」
「住所を取ってきたらすぐに確認に行こう」
「……了解です」

 俺も先生がいなかったことになったらと思うと離れていたくない。少なくともどうしてこうなっているのかが確認できるまでは。
 先生が住所を取ってきてクラスメイトの家を順番に回っていく。一軒一軒、次はなんて希望を持ちながら、誰か忘れないでいてくれることを願っても現実は残酷だった。誰も覚えていない。家族はいたけど、あいつらはその中にいない。

「最後は宮平の家だな」
「あ、俺で最後か……家には誰もいないと思いますけど」
「え?」
「家出中なんです。ちなみに父親公認なんで父親だけは行き先知ってますけど」
「えーと……?」
「ま、ここです。どうぞ」

 別に家が嫌で家出したわけじゃない。ちょーっと過激なブラコン共がいて対応に疲れたから期限付きで家出をした。あいつらのことは嫌いじゃないし可愛い弟と妹だ。母さんの遺伝子が強く出てしまったみたいで、父さんとよく愚痴り合いをしている。してくれることが嬉しくないわけではなくて、少しばかりやり過ぎてるかなってことが多すぎるのだ。結局は許してしまう俺と父さんは末期だ。

「兄様!お久しぶりです!」

 あれ?なんか見覚えのある弟がいる。

「え、なんでいんの?」
「殴り込みに行くと聞いて!」

 まだ言ってない。

「宮平……?この子は?」
「弟です。不法侵入?」
「カギは借りてきましたので、不法侵入じゃないです。というか、父様に言われてきました」
「父さんが。そっかぁ……え、原因大丈夫かな。フルボッコだどん」

 父さんがお怒りってことは、母さんとブラコンたちはそれ以上ってことで……あー怖い怖い。したくもない心配しちゃうんだけど。うわー……。

「ですけど、僕とアイツ、母様は今手が離せなくて父様もこれ以上を防ぐためにかかりっきりで兄様しか自由に動けないんですよ」
「じゃあ、俺が行動しても先生は大丈夫なの?」
「はい。父様ですから、大丈夫です」
「よかった」

 これなら安心して行動できる。

「えっと、宮平?話を聞くに、この状態が何なのか、原因が何なのかわかってるっぽいけど……どうにか出来るのか?」
「可能です。信じがたいことでしょうけど、二組は俺と先生を除いて異世界にクラス転移したようです。原因は調べ中ですが検討はついています。原因がわかればフルボッコでいけるはずです」
「ラノベの?」
「よくあるラノベのです」
「宮平はフルボッコできるのか?」
「はい。これでも神様の端くれなのでいけますよ」

 じゃなけりゃきっと知らずのまま消えてただろうね。俺も先生も。

「か、神様……?」
「まぁ、少し不思議な力が使える子だと思ってください。日本の神様みたいに凄いわけでもないですし」
「え、は、わかった……?うん」
「兄様、すぐ行かれますか?」
「うん。……先生、聞きますけど一緒に行きますか?ここで待っていてもこれ以上どうにかはならないですけど、一応」

 これから俺は自力で転移する。それくらいは簡単にできる。出来ることなら先生にはここで待っていてほしいけれど、一人でできることなんて限られていてどうにもならないことがあるかもしれないし、先生なら行くというかもと思ったから。先生が一緒に行っても大丈夫だろうことは今までの日々で知っているから。

「俺が行ってもいいのか?宮平の負担にならないか?」
「大丈夫です。じゃあ最後にもう一度」

 生徒のためにここまでできるとはね。

「行きますか?」
「行く」
「わかりました。準備するんで少し待ってくださいねー……っと、こんな感じかな。先生、行きましょうか」
「ああ」
「父さんによろしくね」
「わかりました。何かあれば呼んでくださいね」

 



「転移!」

 唱えると共にあたりが白くなった。
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