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三十四人目
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さて、こちらに来れなかったというもう一人の勇者様だかをお招きするために大々的に儀式を行うらしい。あれから更に情報を集めてみると、その勇者様のものと思われる誰も開くことのできない本を媒体に召喚を行うらしい。勇者様の特徴は他の勇者様と同じく黒髪に色素の薄い瞳。下の名前をエイチという。これはもう完璧に俺だよね。疑う要素が全くない。
「トーヤ先生はどうします?多分俺ものすごく目立つんですよ、あそこに召喚されて」
少し離れた丘の上から街の中央に設置された会場を指差す。会場の周りでは祭りみたいにで店がたくさんあって、人の塊ができている。
「は?」
「召喚が成功しなくてもあそこには行かないといけないんですよ。あと、あいつらに何か施されてないか見るっていうのもあるんですけどね?」
口約束なんていつ破られるかわかったもんじゃないだろう?約束が破られないように、若しくは無理に従わせる場合必要になるのは契約による強制だ。破ったら死んでしまうとかそんな感じの内容でクラスメイトをこの世界の人はできてしまう。
「その場で帰せれば良し、帰せなければ一時撤退です。どうします?」
「……だから、宿を出たんだな」
「そうですね。迷惑はかけられないし当然です」
ただの宿だったらここまでしないけれど、あそこにいるのは人族だけではない。こちらではイレギュラーな魔族が四人もいるのだ。
「ここで待っていますか?いくら慣れてきたとはいえ、その道の人とはやめたほうがいいです」
「確かにな……待たせてもらう」
「了解です。そろそろ始まるか」
中央の会場に神職の人間が円になって儀式を始める。近くには三十三勇者が勢揃いで、俺はピリピリとあそこに呼ばれているのがわかるが、召喚するまでには至っていない。いろいろ偽装するためにもわざわざ学生服まで引っ張り出してきたし、こちらの準備は万端だ。
「じゃあ、行ってきますね?」
……
………
…………
………
……
「……んん……?」
「ああ、ミヤヒラエイチ様よくぞおいでくださいました。どうか、我らをお助けください」
何がお助けくださいだ。
「えーっと……?ごめん、鎌倉くんどういうこと?わかる?」
「それはな……」
彼らにかけれられているのは生易しい術式では無かった。ただ一つ、最初にした約束を破れない。破ったなら己の大切な人が消えてしまう。
「僕らは魔境と呼ばれる大きな壁の向こう側にいる邪悪な魔王を倒すためにこの世界に呼ばれたんだ。それをこなすだけの力が僕らにはあると言うんだ。最初の召喚で君以外はこちらに来ることができたんだけど、君は来られなかった。けど、代わりにこの本がある。まだ希望はある。そのために今日ここで君を呼んだんだ」
「魔王、ねぇ……なんでお前らがそれをやらないとなの?現地人がやってもいいんじゃない?」
本当にそれ。
「それが駄目だったから僕らの出番なんだ。僕らには特別な力がある。君もこちらに来れたのだからその力があるはずだ。まずはこれをつけてほしい」
まるで首輪だ。
「それなに?」
「異世界人である僕らが自分のステータスを見るために必要な道具さ」
「へぇ……?」
なんにもなくったって異世界人も自分のステータスを見ることはできる。ステータスを見るために道具が必要なんて嘘。それに、その道具は己の自由を縛るもの、大切な人の存在を奪うものだ。何にも知らないからそうだと信じるしかないし、信じているのだからそれが当然の行為だと思っている。何が勇者様だ。底のいい奴隷のようなものじゃないか。
「それより先にその本を返してくれない?大切なものなんだ」
「ああ」
「ありがとう」
よかった、これ無くしたなんて知られたらもっとやばいもの持たされることになるのだ。
「……黙示録」
これですらやばいものなのに。そもそも何で俺にこれをもたせるかな……馬鹿じゃないかな。黙示録とか何与えてくれてるの。所持者しか開けないし見ることもできないけども……!誕生日に父さんにヒョイって渡されたときの俺の気持ちがわかるだろうか?大きな金塊を簡単に投げてよこされるなんてもんじゃない。それ以上である。
「じゃあ、これを……」
「俺嫌なんだけど」
「は……?なにを」
「聞こえなかった?俺、魔王だかを倒すの嫌なんだけど」
「君にはその力があるというのにか!」
こんな人だったっけ。もう少し穏やかな人だった気がする。
「力があっても何に使うか自由でしょ。魔王なんて知ったことじゃない。地球に帰りたくはないの?」
「目的を達するまでは帰れない」
「帰れる方法があっても?」
「約束をしたんだ」
「ふーん?……転送っと、弾かれちゃうか」
どうやら俺が準備もなく帰すことは難しいようだ。この世界の人族の執念深さがよくわかる。絶対に目的達成するまで帰さないなんて。
「ところでさ、花岡さんは?いないようだけど」
遠目から見るんじゃわからなかったけど、この場にいないクラスメイトは花岡千尋ただ一人。花岡の名前を聞くとクラスメイトの顔が歪んだ。
「……あいつは敵だ。俺たちに紛れて邪魔をしようとしていた。だから」
「……」
「手を伸ばして!」
会場に乱入者が現れる。真っ白な……もしかして。深くかぶったフードから真っ赤な髪飾りがちらりと見えた。
「っ!」
俺が伸ばした手を白い乱入者はぱっと掴んで風のような速さでこの場を去っていく。あの声には聞き覚えがあった。
「っ巻いたわね……」
「何があったの、花岡さん」
あの場にいなかった裏切り者とされている花岡のものだ。
「なっ……何を……」
『少し話をしよう、どうしてさらったのか。その姿についても。ねぇ、骨のお嬢さん』
魔族語で語りかける。俺がしている予想が正しいのなら花岡は同じく魔族語で返してくるはずだ。
『何を知っているの……?』
『あそこの丘に行こう。あそこならゆっくり話せる』
ほら、ね?
「トーヤ先生はどうします?多分俺ものすごく目立つんですよ、あそこに召喚されて」
少し離れた丘の上から街の中央に設置された会場を指差す。会場の周りでは祭りみたいにで店がたくさんあって、人の塊ができている。
「は?」
「召喚が成功しなくてもあそこには行かないといけないんですよ。あと、あいつらに何か施されてないか見るっていうのもあるんですけどね?」
口約束なんていつ破られるかわかったもんじゃないだろう?約束が破られないように、若しくは無理に従わせる場合必要になるのは契約による強制だ。破ったら死んでしまうとかそんな感じの内容でクラスメイトをこの世界の人はできてしまう。
「その場で帰せれば良し、帰せなければ一時撤退です。どうします?」
「……だから、宿を出たんだな」
「そうですね。迷惑はかけられないし当然です」
ただの宿だったらここまでしないけれど、あそこにいるのは人族だけではない。こちらではイレギュラーな魔族が四人もいるのだ。
「ここで待っていますか?いくら慣れてきたとはいえ、その道の人とはやめたほうがいいです」
「確かにな……待たせてもらう」
「了解です。そろそろ始まるか」
中央の会場に神職の人間が円になって儀式を始める。近くには三十三勇者が勢揃いで、俺はピリピリとあそこに呼ばれているのがわかるが、召喚するまでには至っていない。いろいろ偽装するためにもわざわざ学生服まで引っ張り出してきたし、こちらの準備は万端だ。
「じゃあ、行ってきますね?」
……
………
…………
………
……
「……んん……?」
「ああ、ミヤヒラエイチ様よくぞおいでくださいました。どうか、我らをお助けください」
何がお助けくださいだ。
「えーっと……?ごめん、鎌倉くんどういうこと?わかる?」
「それはな……」
彼らにかけれられているのは生易しい術式では無かった。ただ一つ、最初にした約束を破れない。破ったなら己の大切な人が消えてしまう。
「僕らは魔境と呼ばれる大きな壁の向こう側にいる邪悪な魔王を倒すためにこの世界に呼ばれたんだ。それをこなすだけの力が僕らにはあると言うんだ。最初の召喚で君以外はこちらに来ることができたんだけど、君は来られなかった。けど、代わりにこの本がある。まだ希望はある。そのために今日ここで君を呼んだんだ」
「魔王、ねぇ……なんでお前らがそれをやらないとなの?現地人がやってもいいんじゃない?」
本当にそれ。
「それが駄目だったから僕らの出番なんだ。僕らには特別な力がある。君もこちらに来れたのだからその力があるはずだ。まずはこれをつけてほしい」
まるで首輪だ。
「それなに?」
「異世界人である僕らが自分のステータスを見るために必要な道具さ」
「へぇ……?」
なんにもなくったって異世界人も自分のステータスを見ることはできる。ステータスを見るために道具が必要なんて嘘。それに、その道具は己の自由を縛るもの、大切な人の存在を奪うものだ。何にも知らないからそうだと信じるしかないし、信じているのだからそれが当然の行為だと思っている。何が勇者様だ。底のいい奴隷のようなものじゃないか。
「それより先にその本を返してくれない?大切なものなんだ」
「ああ」
「ありがとう」
よかった、これ無くしたなんて知られたらもっとやばいもの持たされることになるのだ。
「……黙示録」
これですらやばいものなのに。そもそも何で俺にこれをもたせるかな……馬鹿じゃないかな。黙示録とか何与えてくれてるの。所持者しか開けないし見ることもできないけども……!誕生日に父さんにヒョイって渡されたときの俺の気持ちがわかるだろうか?大きな金塊を簡単に投げてよこされるなんてもんじゃない。それ以上である。
「じゃあ、これを……」
「俺嫌なんだけど」
「は……?なにを」
「聞こえなかった?俺、魔王だかを倒すの嫌なんだけど」
「君にはその力があるというのにか!」
こんな人だったっけ。もう少し穏やかな人だった気がする。
「力があっても何に使うか自由でしょ。魔王なんて知ったことじゃない。地球に帰りたくはないの?」
「目的を達するまでは帰れない」
「帰れる方法があっても?」
「約束をしたんだ」
「ふーん?……転送っと、弾かれちゃうか」
どうやら俺が準備もなく帰すことは難しいようだ。この世界の人族の執念深さがよくわかる。絶対に目的達成するまで帰さないなんて。
「ところでさ、花岡さんは?いないようだけど」
遠目から見るんじゃわからなかったけど、この場にいないクラスメイトは花岡千尋ただ一人。花岡の名前を聞くとクラスメイトの顔が歪んだ。
「……あいつは敵だ。俺たちに紛れて邪魔をしようとしていた。だから」
「……」
「手を伸ばして!」
会場に乱入者が現れる。真っ白な……もしかして。深くかぶったフードから真っ赤な髪飾りがちらりと見えた。
「っ!」
俺が伸ばした手を白い乱入者はぱっと掴んで風のような速さでこの場を去っていく。あの声には聞き覚えがあった。
「っ巻いたわね……」
「何があったの、花岡さん」
あの場にいなかった裏切り者とされている花岡のものだ。
「なっ……何を……」
『少し話をしよう、どうしてさらったのか。その姿についても。ねぇ、骨のお嬢さん』
魔族語で語りかける。俺がしている予想が正しいのなら花岡は同じく魔族語で返してくるはずだ。
『何を知っているの……?』
『あそこの丘に行こう。あそこならゆっくり話せる』
ほら、ね?
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