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三十三人
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「不可能ではないと思う。ただ、簡単ではないことだけは確か」
魔族は人族とただ単に交流を断っただけではなかった。魔族は物理的に魔力の壁を創り出しその内に人族の存在を許さないようにしたのだ。壁を創り出した時点で人族とは敵対していたから壁によってどうにかなった人族もいなかった。
人族っていうのは相変わらずわがままなもので、持っている世界が狭いと感じちゃうと新たな土地を求めて動き出す。当時の人族なんか残っちゃいないから何があったかなんて知らないし、そこにある壁が何なのかわからない。壁の効果的に人族はその壁をどうにかできない。壁の核となるものは壁の向こう側だしね。行き詰まった人族が昔の資料を漁ってみるとまあ、何ということだろう!異世界から勇者を召喚する方法が載っているではないか。それに、異世界からならば人族とイコールでは無い。言うなれば人族の亜種だ。
「壁付近まで行って見る価値はあるだろうね。もしかしたらあっさり魔族なら通れてしまうかもしれない」
「!」
「近いところでも国を越えないとだから遠いけど」
「遠い……」
「うん」
「そっか……そんなに遠かったんだ」
「ユランは生まれたときはあっちにいたの?」
魔族と人族の交流が断たれているのにこちら側にいるってことは人族側に住んでいた魔族の子孫だろうか。
「そうだよ。他の三人もそう。城下で遊んでいたら急にこっちに飛ばされて、ニアに拾ってもらったんだ」
「飛ばされた……か」
「最初は言葉もわからなかったけど、真っ白なお姉さんがくれたペンダントをつけたら少しずつわかるようになってさ」
ユランが件のペンダントを見せてくれる。少し濁った白くて細長い石がついているシンプルなペンダントだった。うまく隠されているようだが、その石からなにか強い力を感じる。それでもなんの力か分析できないところを見るに、つくったものは相当な力を持っていると思われる。
「やべぇ、白いお姉さんなんかすごい」
「不思議な人だったよ。服とか髪とか白いけど、花の髪飾りだけは真っ赤だった。考えてみれば怪しいかも」
「てか、その人魔族の言語知ってたんだろ?」
「みたいだよ」
魔族の言語を知っていて、真っ白。ユラン達より年上に見えて、女。真っ赤な花の髪飾りか……。
「そういえば、ニアさんは君らの正体を知っているのか?」
味覚については特殊という判断だし、態度も変わらないし、でも、お客さんは呼んでいる。知っていたのならあまりにも迂闊だ。
「知らない。きっと、怖がっちゃうし」
「翼出しっぱでいいのか?」
「あ、っと」
俺が声をかけちゃったからしまうことを忘れてしまったのか。その後も話し込んでしまったし。
「エイチさん、そろそろ朝の準備しないとなので失礼するね。また話してくれると嬉しいな」
「ああ、引き止めてごめん」
窓の方を見ると日が昇ってあたりが明るくなっていたから長く話していたんだろう事が予測できる。しかし、魔族が突然こちら側に飛ばされてしまうなんて一体何があったんだろう。
「トーヤ先生ー、朝ですよー」
そろそろ先生起こさないとだよね。
「んー……んん……あと、ちょっとー……」
「トーヤ先生ー?」
「うむぅ……?……あ、さ?」
「はい、朝ですよ。ほら、起きて起きて!」
「ここは……あ、そうかそうだったな」
起きるまでに時間がかかる人だったとは思わなかった。起きたら起きたで意識の覚醒が速いのは良かったかな。これでそっちも時間がかかるとかだったら地球に送り返していたかも。だって、面倒くさい。
「今日は冒険者登録とか行きましょうか。その後は情報収集に」
「おー、了解」
朝ごはんを食べてから冒険者ギルドに行き、冒険者登録を済ます。よし、これで面倒くさい手続きが減った。
「さて、先生。お金の説明をしましょうか」
「……!」
「鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨の五つがありまして、それぞれ十円、百円、千円、一万円、百万円の価値があります。よく使われるのは銀貨までですかね。物価が高いわけじゃないので」
「へぇ……」
「ということで、お買い物に行ってきてください。ニアさんからのミッションです」
そう、実は朝ごはんを食べたときにニアに他にあの子達が美味しく食べられそうなものはないかと聞かれて、早朝に判明したユランが翼族ということから、翼族が好んでいるお菓子を作ることになり足りない材料を買うことになったのだ。実践にはちょうどよく、ニアからお使いを承ったのだ。
「ニアさん行きつけの場所も乗っているので頑張ってきてくださいね」
「え、あ、わかった。じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃーい」
トーヤ先生、度胸はあるよね。
ま、こっちはこっちで探すとしますかねー。白いお姉さんについては一年前のことだというので期待はしないけど、勇者については期待しておこう。そもそも、あたりをつけてここに転移してきたんだから、全くないということはないだろう。
「あの、勇者についてお聞きしたいことがあるんですが」
若い男を捕まえて聞いてみる。
「ああ、三十三勇者様のこと?君知らないの?」
「ええ、遠くから来たものでして。その、三十三勇者様というのは、どういった方々なんですか?」
「カケルをリーダーとした魔境派遣部隊さ。異世界から来た精鋭揃いなんだと」
「へぇ……魔境というとあの、ですか。しかも、異世界からなんて」
「ああ!本当は三十四勇者様らしいんだが、お一人は上手くこっちに来られなかったって話でよ、今度こっちに来られるように儀式を行うらしいぜ」
「そうなんですね……!」
「すごいよな」
「はい。その儀式が楽しみでなりませんよ。ありがとうございました」
二組のムードメーカーの名前は鎌倉駆。名前が一致しているから当人である可能性が高い。次に三十三勇者だけど、二組は三十五人。俺を除いて三十四人。明らかになんかあったよな。今度行う儀式で呼ぼうとしているのが十中八九俺だから、誰かがいなくなっている。……殺されたとかじゃなければいいけど。それにしても、儀式が楽しみでならない。原因の顔を殴れるかもしれないし、うまく行けばクラスメイトを地球に戻せるかもしれない。何事も早いに越したことはないだろう。
魔族は人族とただ単に交流を断っただけではなかった。魔族は物理的に魔力の壁を創り出しその内に人族の存在を許さないようにしたのだ。壁を創り出した時点で人族とは敵対していたから壁によってどうにかなった人族もいなかった。
人族っていうのは相変わらずわがままなもので、持っている世界が狭いと感じちゃうと新たな土地を求めて動き出す。当時の人族なんか残っちゃいないから何があったかなんて知らないし、そこにある壁が何なのかわからない。壁の効果的に人族はその壁をどうにかできない。壁の核となるものは壁の向こう側だしね。行き詰まった人族が昔の資料を漁ってみるとまあ、何ということだろう!異世界から勇者を召喚する方法が載っているではないか。それに、異世界からならば人族とイコールでは無い。言うなれば人族の亜種だ。
「壁付近まで行って見る価値はあるだろうね。もしかしたらあっさり魔族なら通れてしまうかもしれない」
「!」
「近いところでも国を越えないとだから遠いけど」
「遠い……」
「うん」
「そっか……そんなに遠かったんだ」
「ユランは生まれたときはあっちにいたの?」
魔族と人族の交流が断たれているのにこちら側にいるってことは人族側に住んでいた魔族の子孫だろうか。
「そうだよ。他の三人もそう。城下で遊んでいたら急にこっちに飛ばされて、ニアに拾ってもらったんだ」
「飛ばされた……か」
「最初は言葉もわからなかったけど、真っ白なお姉さんがくれたペンダントをつけたら少しずつわかるようになってさ」
ユランが件のペンダントを見せてくれる。少し濁った白くて細長い石がついているシンプルなペンダントだった。うまく隠されているようだが、その石からなにか強い力を感じる。それでもなんの力か分析できないところを見るに、つくったものは相当な力を持っていると思われる。
「やべぇ、白いお姉さんなんかすごい」
「不思議な人だったよ。服とか髪とか白いけど、花の髪飾りだけは真っ赤だった。考えてみれば怪しいかも」
「てか、その人魔族の言語知ってたんだろ?」
「みたいだよ」
魔族の言語を知っていて、真っ白。ユラン達より年上に見えて、女。真っ赤な花の髪飾りか……。
「そういえば、ニアさんは君らの正体を知っているのか?」
味覚については特殊という判断だし、態度も変わらないし、でも、お客さんは呼んでいる。知っていたのならあまりにも迂闊だ。
「知らない。きっと、怖がっちゃうし」
「翼出しっぱでいいのか?」
「あ、っと」
俺が声をかけちゃったからしまうことを忘れてしまったのか。その後も話し込んでしまったし。
「エイチさん、そろそろ朝の準備しないとなので失礼するね。また話してくれると嬉しいな」
「ああ、引き止めてごめん」
窓の方を見ると日が昇ってあたりが明るくなっていたから長く話していたんだろう事が予測できる。しかし、魔族が突然こちら側に飛ばされてしまうなんて一体何があったんだろう。
「トーヤ先生ー、朝ですよー」
そろそろ先生起こさないとだよね。
「んー……んん……あと、ちょっとー……」
「トーヤ先生ー?」
「うむぅ……?……あ、さ?」
「はい、朝ですよ。ほら、起きて起きて!」
「ここは……あ、そうかそうだったな」
起きるまでに時間がかかる人だったとは思わなかった。起きたら起きたで意識の覚醒が速いのは良かったかな。これでそっちも時間がかかるとかだったら地球に送り返していたかも。だって、面倒くさい。
「今日は冒険者登録とか行きましょうか。その後は情報収集に」
「おー、了解」
朝ごはんを食べてから冒険者ギルドに行き、冒険者登録を済ます。よし、これで面倒くさい手続きが減った。
「さて、先生。お金の説明をしましょうか」
「……!」
「鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨の五つがありまして、それぞれ十円、百円、千円、一万円、百万円の価値があります。よく使われるのは銀貨までですかね。物価が高いわけじゃないので」
「へぇ……」
「ということで、お買い物に行ってきてください。ニアさんからのミッションです」
そう、実は朝ごはんを食べたときにニアに他にあの子達が美味しく食べられそうなものはないかと聞かれて、早朝に判明したユランが翼族ということから、翼族が好んでいるお菓子を作ることになり足りない材料を買うことになったのだ。実践にはちょうどよく、ニアからお使いを承ったのだ。
「ニアさん行きつけの場所も乗っているので頑張ってきてくださいね」
「え、あ、わかった。じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃーい」
トーヤ先生、度胸はあるよね。
ま、こっちはこっちで探すとしますかねー。白いお姉さんについては一年前のことだというので期待はしないけど、勇者については期待しておこう。そもそも、あたりをつけてここに転移してきたんだから、全くないということはないだろう。
「あの、勇者についてお聞きしたいことがあるんですが」
若い男を捕まえて聞いてみる。
「ああ、三十三勇者様のこと?君知らないの?」
「ええ、遠くから来たものでして。その、三十三勇者様というのは、どういった方々なんですか?」
「カケルをリーダーとした魔境派遣部隊さ。異世界から来た精鋭揃いなんだと」
「へぇ……魔境というとあの、ですか。しかも、異世界からなんて」
「ああ!本当は三十四勇者様らしいんだが、お一人は上手くこっちに来られなかったって話でよ、今度こっちに来られるように儀式を行うらしいぜ」
「そうなんですね……!」
「すごいよな」
「はい。その儀式が楽しみでなりませんよ。ありがとうございました」
二組のムードメーカーの名前は鎌倉駆。名前が一致しているから当人である可能性が高い。次に三十三勇者だけど、二組は三十五人。俺を除いて三十四人。明らかになんかあったよな。今度行う儀式で呼ぼうとしているのが十中八九俺だから、誰かがいなくなっている。……殺されたとかじゃなければいいけど。それにしても、儀式が楽しみでならない。原因の顔を殴れるかもしれないし、うまく行けばクラスメイトを地球に戻せるかもしれない。何事も早いに越したことはないだろう。
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