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おなかすいた
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おなかすいたなあ。
「お母さん、ごはん」と口の中で舌を転がしてみる。誰かに届くはずもないし、届いたところで何にもならない。そんなのわかってる。
わかっているから、寂しくて苦しくてたまらなかった。みんなに会いたいし、帰りたい。
どうしてこんな所にいるんだろう。どうしてジブンだけがあそこに取り残されたんだろう。
「どうかしたか、ミナライ。」
気づけば、船長がいた。いつもはうるさくしゃべりかけてくるくせに。
「おなかすいたの。」
「そうか…そうだろうな。」
わかったようなことを言う。じゃあ早くごはんを持ってきてくれたらいいのに。
「オマエを殺せばいいのか?」
「え?」
「ああ、違うのか?わかった、食料がいるんだな。釣りでもするか…?」
ヨロイが、がちゃがちゃとうるさく去っていく。
何を言ったんだ?殺す?ジブンを?どうして?
手を当てていなくても、心臓がどきどきしているのがわかる。怖い。
殺す気があるのか?なら、どうしてごはんを持って来ようとしてるんだ?
訳がわからない。モンスターはやっぱり、おかしい。
・ ・ ・
「ミナライはどうしてあのモンスターと一緒にいるの?」
モグモクがそんなことを聞いてきた。モグモクは雲のような見た目で、黄ばんでいてぶよぶよして、はずむように浮かんでいる。モンスターの中ではかわいい方かも。
「どれのこと?」
「ほらあの…船長を気取ってる奴。」
それはたぶん、ジブンをミナライと名付けたあのモンスターのことだろう。他にも「自分が一番」って偉そうにしてるモンスターはいるけど。
「ジブン、船長と出会ってすぐ船に乗っちゃって…もう逃げようがないというか。」
「どうして?島に逃げ込んで生きていけばいいじゃないか。」
「島の近くにはサカナがいないから生きていけないよ。」
「草でも泥でも食べたらいいじゃないか?」
「そんなの食べられないよ。」
「そうなの!?ニンゲンってずいぶん弱っちいんだね…!」
「え?ま、まあ…。」
船長をおかしいと思うのは他のモンスターも同じみたいだけど、そのほかが違いすぎる。性格とか、生活の仕方とか…。モンスターはそのことに気付いていないようで、悪気なくイヤなことを何度も言ってきた。
そんなだから、この船はほんとうに居心地が悪い。
船長とはじめて出会った日に、勢いで船に乗ったのが間違いだった。港町でずっとかくまって貰うのが正解だったんだ…。
でももう遅い。船に乗ってしまったからには逃げ場がない。海の波って、日によってどころか時間ごとで変わるから泳いで逃げるなんてもってのほかだ。
それに船が進む先は島ばかりだから、人に助けて貰うことができない。
船長のヤツ、最初に「ニンゲンがいるところにも行こう」なんて言ったくせに、次の日になったら「町に行くのは島を巡った後にしよう!」なんて言い出したものだからどうしようもなかった。
「話が違うよ!」って何度言っても「まあ良いじゃないか」で押し通された。ジブンの面倒だけは、前に言った通りちゃんと見てくれてはいる。
でも、他でもないアイツのせいで不気味な船長からもイヤミな船員からも逃げられないことに変わりない。
この船は牢屋みたいだ。
「じゃあ、ミナライって普段は何を食べてるの?」
「サカナとか肉とか、パン。」
「贅沢だねえ!」
「そうかもね…。」
ここのところサカナばっかりでイヤになってたところを、コイツ…。ほんと、こういうところだ。モンスターってのはヤな話だけは長引かせるんだから!
残念なことに、この船におけるイヤなことは船員や船長だけじゃない。ただ生活するだけでも大変だ。
味付けされた煮ザカナとか、ほくほくの焼きザカナとか…バリエーションがあれば我慢できるけど、ただの生魚を毎日はさすがに飽きてくる。
木造りの船じゃ火を起こせないから、サカナはぜんぶ生だ。
海水をそのまま料理に使うのは良くないから、煮ることもできない。
島に降りた時だけ、偶に料理らしい食事ができることはあるけど…村で食べてきたものに比べたら、子どもが思いつきで作ったヘンテコ料理みたいなものだった。
せめてお醤油がほしい。あとお箸も。
きれいな水が無くて手が洗えないから、ジブンの服でサカナの脂を拭くしかないのもイヤなところのひとつだ。
そうしてたら服がめちゃくちゃにクサくなって…服なんて着てきた分しかないから、脱いだらパンイチになっちゃう。恥ずかしいし寒いから無理だ。
でもクサいままにはできないから、力持ちの船員に海の水を汲んでもらって、服を着たまま水を被っている。お風呂代わりにもお洗濯にもなるけど、これがとにかく寒い。海の上は風が強いもの。
ぬれた服が体に張り付いて気持ち悪いし、手で絞っても、乾いたら塩が服にも体にも残ってぴりぴりする。
そもそも、船に乗るには合ってない格好をしてるって良くわかった。袖がない、膝まである服の下には短いズボンとクツだけだった。
クツも、もともとはいてた分しかないけど…船長とふたり旅のとき以来は困ってない。
クツがぬれると裸足で船を歩くことになってあぶないって、船長が仕事を別の船員にあてがってくれてるから。前は船長がいちいち抱きかかえて来たから、ウザったいし怖いしで大変だった。
「海に落ちたらいけない」って言われて、クツ飛ばしで遊べないのは未だにイヤだけど。
そういえば、髪にもしばらくクシを通していない。この前も、それを思い出して手ぐしを入れようとしたら手が入らなくてびっくりした。塩やら汗やらでギシギシしていた。ベトベトしてクサいし。
「ミナライ、なんか変なニオイしない?ミナライと話してるといつも思うんだ。不思議だね!」
「…不思議だねえ?」
コイツ、わざと言ってないか…?でもじっさい、歯もみがけてないからなあ。
船長が「昔は塩を歯に塗って凌いでいたそうだぞ!」なんて言うから、海の水で口をすすいでるけど…しょっぱくてマズくてかなわない。ちっちゃいゴミが入ってる時もあるから、あれイヤなんだよな。
そんなんだから、寝る時もイヤな感じがつきまとって眠れない。モンスターがいてもいなくても、船での生活はぜんぜん楽じゃない。
村に帰っても、もう船に乗りたいとは思わないな。村にいた頃は「おまえが船に乗るのは当分後だ」なんて言われてむくれてたけど、今なら喜んで船以外の手伝いをする。
でも、周りにモンスターがいないなら今よりは良い船旅になるかも?そうだな、村でならいい感じに過ごせるはずだ。
どうしてジブンはこんなところにいなきゃいけないんだろう。
「ミナライ!」
「うわお…僕はもう行くね。」
「うん、じゃあ。」
船長が来たものだから、キャノヤーが離れていく。明らかにのけものにされているのに、この船長はお構いなしだ。
「どうしたの?」
「見てくれ。こんなに魚が釣れたんだ!」
「そっか。すごいね。」
「ああ!」
船長は、サカナが釣れたらいちいち言いに来る。なんだかちっちゃい子みたいだ。
毎回ほめないといけないのは、ほんとうに面倒くさい。反応しなかったらしょげっちゃってもっと面倒だから、テキトーなことを言うけど…思ってもいないことを言うのもイヤだ。
嘘を吐いちゃった代わりに、お礼くらいは言った方が良いかな?でも相手はモンスターだしな。
「細かく切っておくが、喉に詰まると危ない。よく噛んで食べるんだぞ。」
「わかってるよ。」
こうやって毎日おんなじことを言うあたりは村の大人に似てる気がする。
「さて、俺は剣の手入れをする。何かあったら声をかけてくれ。」
「わかった。」
普段から声をかけようなんて思わないけど、こうして剣の手入れをしてるときは特にそうだ。この時ばかりは、「面倒くさいから」が理由じゃない。すごくカッコいいから、ただ見ていたい。
船長が剣を取りだして、布で拭いていく。
すごくキラキラした剣だ。青い柄も、刃に刻まれたかっこいい模様も、こんなうるさいヤツに見合わないくらいにきれい。
「船長を気取ってる」なんて言われてたけど、船長に似た剣を持っているモンスターは見たことがないから、コイツは元から偉いのかもしれない。
モンスターに会って少ししか経ってないからわからないか。剣って生で見るとぜんぶがぜんぶ、こんなにきらびやかなものなのかもしれないし。
偉くないとしても子どもみたいなところもあるから、変な感じだ。船を長らく修理してたって言うからには、ジブンよりずっと年上のはずなのに。
それに、ヨロイがこんなにキズついてるんだから、剣もボロついてなきゃ可笑しい…ってことはないか。コイツが戦いに負けてばかりだった可能性もある。
だからって、やっぱり変だ。人間と戦ってたはずなら、もう少し人間のことをわかってるはずだもの。
ジブンのお世話をする時は空回ってばっかりで、村での話をしても「それはどういうことだ?」って聞いてくるばかりだからびっくりする。
大人ならそれくらいわかってて当然なのに。ちょっとおバカなのかも?
それは無いか。ただのおバカだったら、船員からあんなに怖がられてるわけがない。確かに船長は不気味だとジブンも思うけど、それにしてはみんな怖がりすぎだから。
ジブンの前と船員の前では態度が違うんだろうか?そうだとしても、モンスターのアイツが人間の方に優しくするなんて意味がわからない。
船長のことは、未だによくわからない。いろんな船員に船長のことを聞かれるけど、ジブンが一番わかってないんじゃないか?
「ほらミナライ、海がよく見えるぞ!」
剣の手入れをしてたはずの船長に抱きあげられて、体を船の外に向けられる。海なんていつでも見られるのに、なんでこんなにはしゃぐんだろう?
このモンスターはどうして、ここまで海が好きなんだろう。なんで、旅に「ミナライ」を連れて行こうと思ったんだろう?
油と鉄でクサい、ヨロイのボディに寄りかかる。
船長のボディは、ところどころサビついてギシギシと音を立てていた。そういえば最近は、コイツが歩いてもカンカンって音がしない。あれは気のせいだったのかな。
さっきの予想も気のせいかも。コイツがほんとうに偉いんなら、こんなにキズついてボロボロなわけがないから。
偉くないにしろ、昔は仲間がいたって聞いた。そこではどう過ごしてたのかな。ジブンと初めて会ったとき、船長は一匹でいたけど。一匹で船を直してて…その時からヨロイはボロボロだったんだろうか。
全てが不思議で不気味でたまらない。人間のジブンを受け入れて、ヨロイはボロボロなのにとてもきれいな剣を持っていて、モンスターから怖がられて…。
考えてばかりだとたまらなくなって、考え事の原因である船長のヨロイを小突いてみる。コゲなのかサビなのかわからない、黒いつぶつぶが手については落ちていった。
これはほんとうに鉄の臭いなんだろうか?
「船長、血の臭いがする。」
「うん?魚を切ったからな、仕方ないさ!」
ジブンでもかなり変なことを聞いたつもりだったけど、すぐに返事をしてきた。まるで、あらかじめ用意してあったみたい。
それは何回も聞かれたことがあるから?つまり、他のモンスターとは違う、可笑しなことだから?
なにかを隠しているのか?船長はジブンを助けたんだろうか、ハメたんだろうか。ハメるとしても、なんのために?
__ぐううぅぅ。
うう、おなかが鳴っちゃった。
「やれやれ、腹が減っては海も見れんな。早く食べてくるといい。」
「そうする。」
船長の肩から下りて、生魚を口に入れる。うん、おいしくない。
ちゃんとしたごはんがほしい。村のみんながいる所に行けば、何にも悩むことなんてなくなるのに。でも村に帰れるかわからないから、悩み続けることになってしまう。
疲れちゃうな。ここにいるとほんとうにおなかがすくんだもん。
帰れない可能性の方が高いなら、「帰れたらいいのに」なんて願い続けるのは良くないのかもしれない。
そんなの知らない。帰れたら、モンスターと会ったことなんてなかったことにしてやる。モンスターのことなんか、考えたってしょうがないんだから。
そう、考えなくていい。だったら、変におなかがすくこともない。
このサカナに毒があったら?
ふと、そんなことを思いついた。モンスターが渡したサカナだ、あり得るかもしれない。
これを食べて死んじゃうなら、怖いことなんだろうか。それとも、こんなに悩むこともなくなるなら安心した気持ちになれるんだろうか。
どっちでもいいや。毒で苦しんだらそんなの考える余裕もないだろうし。それに毒薬なんてこの船には無い。
変に怖がっても考えをこじらせるだけだ。さっさと食べちゃおう。
「お母さん、ごはん」と口の中で舌を転がしてみる。誰かに届くはずもないし、届いたところで何にもならない。そんなのわかってる。
わかっているから、寂しくて苦しくてたまらなかった。みんなに会いたいし、帰りたい。
どうしてこんな所にいるんだろう。どうしてジブンだけがあそこに取り残されたんだろう。
「どうかしたか、ミナライ。」
気づけば、船長がいた。いつもはうるさくしゃべりかけてくるくせに。
「おなかすいたの。」
「そうか…そうだろうな。」
わかったようなことを言う。じゃあ早くごはんを持ってきてくれたらいいのに。
「オマエを殺せばいいのか?」
「え?」
「ああ、違うのか?わかった、食料がいるんだな。釣りでもするか…?」
ヨロイが、がちゃがちゃとうるさく去っていく。
何を言ったんだ?殺す?ジブンを?どうして?
手を当てていなくても、心臓がどきどきしているのがわかる。怖い。
殺す気があるのか?なら、どうしてごはんを持って来ようとしてるんだ?
訳がわからない。モンスターはやっぱり、おかしい。
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「ミナライはどうしてあのモンスターと一緒にいるの?」
モグモクがそんなことを聞いてきた。モグモクは雲のような見た目で、黄ばんでいてぶよぶよして、はずむように浮かんでいる。モンスターの中ではかわいい方かも。
「どれのこと?」
「ほらあの…船長を気取ってる奴。」
それはたぶん、ジブンをミナライと名付けたあのモンスターのことだろう。他にも「自分が一番」って偉そうにしてるモンスターはいるけど。
「ジブン、船長と出会ってすぐ船に乗っちゃって…もう逃げようがないというか。」
「どうして?島に逃げ込んで生きていけばいいじゃないか。」
「島の近くにはサカナがいないから生きていけないよ。」
「草でも泥でも食べたらいいじゃないか?」
「そんなの食べられないよ。」
「そうなの!?ニンゲンってずいぶん弱っちいんだね…!」
「え?ま、まあ…。」
船長をおかしいと思うのは他のモンスターも同じみたいだけど、そのほかが違いすぎる。性格とか、生活の仕方とか…。モンスターはそのことに気付いていないようで、悪気なくイヤなことを何度も言ってきた。
そんなだから、この船はほんとうに居心地が悪い。
船長とはじめて出会った日に、勢いで船に乗ったのが間違いだった。港町でずっとかくまって貰うのが正解だったんだ…。
でももう遅い。船に乗ってしまったからには逃げ場がない。海の波って、日によってどころか時間ごとで変わるから泳いで逃げるなんてもってのほかだ。
それに船が進む先は島ばかりだから、人に助けて貰うことができない。
船長のヤツ、最初に「ニンゲンがいるところにも行こう」なんて言ったくせに、次の日になったら「町に行くのは島を巡った後にしよう!」なんて言い出したものだからどうしようもなかった。
「話が違うよ!」って何度言っても「まあ良いじゃないか」で押し通された。ジブンの面倒だけは、前に言った通りちゃんと見てくれてはいる。
でも、他でもないアイツのせいで不気味な船長からもイヤミな船員からも逃げられないことに変わりない。
この船は牢屋みたいだ。
「じゃあ、ミナライって普段は何を食べてるの?」
「サカナとか肉とか、パン。」
「贅沢だねえ!」
「そうかもね…。」
ここのところサカナばっかりでイヤになってたところを、コイツ…。ほんと、こういうところだ。モンスターってのはヤな話だけは長引かせるんだから!
残念なことに、この船におけるイヤなことは船員や船長だけじゃない。ただ生活するだけでも大変だ。
味付けされた煮ザカナとか、ほくほくの焼きザカナとか…バリエーションがあれば我慢できるけど、ただの生魚を毎日はさすがに飽きてくる。
木造りの船じゃ火を起こせないから、サカナはぜんぶ生だ。
海水をそのまま料理に使うのは良くないから、煮ることもできない。
島に降りた時だけ、偶に料理らしい食事ができることはあるけど…村で食べてきたものに比べたら、子どもが思いつきで作ったヘンテコ料理みたいなものだった。
せめてお醤油がほしい。あとお箸も。
きれいな水が無くて手が洗えないから、ジブンの服でサカナの脂を拭くしかないのもイヤなところのひとつだ。
そうしてたら服がめちゃくちゃにクサくなって…服なんて着てきた分しかないから、脱いだらパンイチになっちゃう。恥ずかしいし寒いから無理だ。
でもクサいままにはできないから、力持ちの船員に海の水を汲んでもらって、服を着たまま水を被っている。お風呂代わりにもお洗濯にもなるけど、これがとにかく寒い。海の上は風が強いもの。
ぬれた服が体に張り付いて気持ち悪いし、手で絞っても、乾いたら塩が服にも体にも残ってぴりぴりする。
そもそも、船に乗るには合ってない格好をしてるって良くわかった。袖がない、膝まである服の下には短いズボンとクツだけだった。
クツも、もともとはいてた分しかないけど…船長とふたり旅のとき以来は困ってない。
クツがぬれると裸足で船を歩くことになってあぶないって、船長が仕事を別の船員にあてがってくれてるから。前は船長がいちいち抱きかかえて来たから、ウザったいし怖いしで大変だった。
「海に落ちたらいけない」って言われて、クツ飛ばしで遊べないのは未だにイヤだけど。
そういえば、髪にもしばらくクシを通していない。この前も、それを思い出して手ぐしを入れようとしたら手が入らなくてびっくりした。塩やら汗やらでギシギシしていた。ベトベトしてクサいし。
「ミナライ、なんか変なニオイしない?ミナライと話してるといつも思うんだ。不思議だね!」
「…不思議だねえ?」
コイツ、わざと言ってないか…?でもじっさい、歯もみがけてないからなあ。
船長が「昔は塩を歯に塗って凌いでいたそうだぞ!」なんて言うから、海の水で口をすすいでるけど…しょっぱくてマズくてかなわない。ちっちゃいゴミが入ってる時もあるから、あれイヤなんだよな。
そんなんだから、寝る時もイヤな感じがつきまとって眠れない。モンスターがいてもいなくても、船での生活はぜんぜん楽じゃない。
村に帰っても、もう船に乗りたいとは思わないな。村にいた頃は「おまえが船に乗るのは当分後だ」なんて言われてむくれてたけど、今なら喜んで船以外の手伝いをする。
でも、周りにモンスターがいないなら今よりは良い船旅になるかも?そうだな、村でならいい感じに過ごせるはずだ。
どうしてジブンはこんなところにいなきゃいけないんだろう。
「ミナライ!」
「うわお…僕はもう行くね。」
「うん、じゃあ。」
船長が来たものだから、キャノヤーが離れていく。明らかにのけものにされているのに、この船長はお構いなしだ。
「どうしたの?」
「見てくれ。こんなに魚が釣れたんだ!」
「そっか。すごいね。」
「ああ!」
船長は、サカナが釣れたらいちいち言いに来る。なんだかちっちゃい子みたいだ。
毎回ほめないといけないのは、ほんとうに面倒くさい。反応しなかったらしょげっちゃってもっと面倒だから、テキトーなことを言うけど…思ってもいないことを言うのもイヤだ。
嘘を吐いちゃった代わりに、お礼くらいは言った方が良いかな?でも相手はモンスターだしな。
「細かく切っておくが、喉に詰まると危ない。よく噛んで食べるんだぞ。」
「わかってるよ。」
こうやって毎日おんなじことを言うあたりは村の大人に似てる気がする。
「さて、俺は剣の手入れをする。何かあったら声をかけてくれ。」
「わかった。」
普段から声をかけようなんて思わないけど、こうして剣の手入れをしてるときは特にそうだ。この時ばかりは、「面倒くさいから」が理由じゃない。すごくカッコいいから、ただ見ていたい。
船長が剣を取りだして、布で拭いていく。
すごくキラキラした剣だ。青い柄も、刃に刻まれたかっこいい模様も、こんなうるさいヤツに見合わないくらいにきれい。
「船長を気取ってる」なんて言われてたけど、船長に似た剣を持っているモンスターは見たことがないから、コイツは元から偉いのかもしれない。
モンスターに会って少ししか経ってないからわからないか。剣って生で見るとぜんぶがぜんぶ、こんなにきらびやかなものなのかもしれないし。
偉くないとしても子どもみたいなところもあるから、変な感じだ。船を長らく修理してたって言うからには、ジブンよりずっと年上のはずなのに。
それに、ヨロイがこんなにキズついてるんだから、剣もボロついてなきゃ可笑しい…ってことはないか。コイツが戦いに負けてばかりだった可能性もある。
だからって、やっぱり変だ。人間と戦ってたはずなら、もう少し人間のことをわかってるはずだもの。
ジブンのお世話をする時は空回ってばっかりで、村での話をしても「それはどういうことだ?」って聞いてくるばかりだからびっくりする。
大人ならそれくらいわかってて当然なのに。ちょっとおバカなのかも?
それは無いか。ただのおバカだったら、船員からあんなに怖がられてるわけがない。確かに船長は不気味だとジブンも思うけど、それにしてはみんな怖がりすぎだから。
ジブンの前と船員の前では態度が違うんだろうか?そうだとしても、モンスターのアイツが人間の方に優しくするなんて意味がわからない。
船長のことは、未だによくわからない。いろんな船員に船長のことを聞かれるけど、ジブンが一番わかってないんじゃないか?
「ほらミナライ、海がよく見えるぞ!」
剣の手入れをしてたはずの船長に抱きあげられて、体を船の外に向けられる。海なんていつでも見られるのに、なんでこんなにはしゃぐんだろう?
このモンスターはどうして、ここまで海が好きなんだろう。なんで、旅に「ミナライ」を連れて行こうと思ったんだろう?
油と鉄でクサい、ヨロイのボディに寄りかかる。
船長のボディは、ところどころサビついてギシギシと音を立てていた。そういえば最近は、コイツが歩いてもカンカンって音がしない。あれは気のせいだったのかな。
さっきの予想も気のせいかも。コイツがほんとうに偉いんなら、こんなにキズついてボロボロなわけがないから。
偉くないにしろ、昔は仲間がいたって聞いた。そこではどう過ごしてたのかな。ジブンと初めて会ったとき、船長は一匹でいたけど。一匹で船を直してて…その時からヨロイはボロボロだったんだろうか。
全てが不思議で不気味でたまらない。人間のジブンを受け入れて、ヨロイはボロボロなのにとてもきれいな剣を持っていて、モンスターから怖がられて…。
考えてばかりだとたまらなくなって、考え事の原因である船長のヨロイを小突いてみる。コゲなのかサビなのかわからない、黒いつぶつぶが手については落ちていった。
これはほんとうに鉄の臭いなんだろうか?
「船長、血の臭いがする。」
「うん?魚を切ったからな、仕方ないさ!」
ジブンでもかなり変なことを聞いたつもりだったけど、すぐに返事をしてきた。まるで、あらかじめ用意してあったみたい。
それは何回も聞かれたことがあるから?つまり、他のモンスターとは違う、可笑しなことだから?
なにかを隠しているのか?船長はジブンを助けたんだろうか、ハメたんだろうか。ハメるとしても、なんのために?
__ぐううぅぅ。
うう、おなかが鳴っちゃった。
「やれやれ、腹が減っては海も見れんな。早く食べてくるといい。」
「そうする。」
船長の肩から下りて、生魚を口に入れる。うん、おいしくない。
ちゃんとしたごはんがほしい。村のみんながいる所に行けば、何にも悩むことなんてなくなるのに。でも村に帰れるかわからないから、悩み続けることになってしまう。
疲れちゃうな。ここにいるとほんとうにおなかがすくんだもん。
帰れない可能性の方が高いなら、「帰れたらいいのに」なんて願い続けるのは良くないのかもしれない。
そんなの知らない。帰れたら、モンスターと会ったことなんてなかったことにしてやる。モンスターのことなんか、考えたってしょうがないんだから。
そう、考えなくていい。だったら、変におなかがすくこともない。
このサカナに毒があったら?
ふと、そんなことを思いついた。モンスターが渡したサカナだ、あり得るかもしれない。
これを食べて死んじゃうなら、怖いことなんだろうか。それとも、こんなに悩むこともなくなるなら安心した気持ちになれるんだろうか。
どっちでもいいや。毒で苦しんだらそんなの考える余裕もないだろうし。それに毒薬なんてこの船には無い。
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希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
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