小学生魔女アリス

向浜小道

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第7話 二人を繋いだ特別なマフィン(1)

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「じゃあ、出発するよ。アリス、雪さん、シートベルトは閉めたかい?」
「うん!」「はい」
 魔法の練習をした日から一週間、わたしたちは陽菜ちゃんが通ってる(かもしれない)お料理教室へ向かった。

 車から見る景色って、なんだか不思議。
 車が走る道、初めて来た。普段歩いて通る道より広々してて、なんかかっこいい!
 上に付いてる窓を見上げると、青空の中を雲がすごい勢いで通り過ぎてる。ほうきで空を飛んでるときの景色みたいで、なつかしい。
 ちょっと首が痛くなってきたから顔を前に戻すと……。道路の両脇には木が何本も立っていて、緑のアーチを作っていた。綺麗……。これ、〈街路樹〉っていうんだって。魔法界では、こんなに整った景色見たことない。
 すると突然、一つの木からカラスが三匹飛び出した。そして三匹のカラスは歩いてる人を追いかけて、カラスに驚いたその人は慌てて走って行った。それでもカラスたちはどこまでもその人を追いかけていく。なんであんな意地悪するのかしら。あの人、何も悪いことしてないのに。
 カラスたちとあの人の姿が見えなくなったとき、パパがいつも付けてる指輪型の連絡道具が緑色にピカピカ光り出した。水晶玉と違って、声でしかやりとりできないけど、荷物にならなくて便利なの。
「はい、こちらルイス。……え、なんだって!? それはまずいな……。うん……ああ、分かってる。ありがとう」
 緑の光が消えた。
「どうしたの?」「何か……あったんですか?」
 わたしと雪ちゃんが同時に問いかける。
「いいや。君たちは何も心配することはないからね、大丈夫」
「ならいいけど……」
 さっきの驚き方、声色からして、大丈夫じゃないことが起こってるのは確かだと思う。でも、心配ないって言ってくれてるし、わたしたちは陽菜ちゃんの記憶を取り戻すことに集中しないと。

 助手席の窓ごしに景色を見続けていると――。あれ、なんか、気分が……。今日は大事な日なのに、それは困るわ! さっきまで元気だったのに……。
「アリス、大丈夫かい?」
「うん、なんとか……」
「おそらく、車酔いだろうね」
 〈車酔い〉……《ほうき酔い》みたいなものかしら? わたしはほうきに酔ったことはないけど、飛行魔法の授業中に具合が悪くなった子がいたわ。頭が痛くて、みぞおちの辺りが変な感じ。あの子もこんな感じだったのかな……。
「背もたれを倒そうか。右の方にあるレバーを引いて。……そう、そこ。そしたら、後ろに体重をかけるんだ」
 ぐぐぐいっと背中を背もたれに押し当てたつもりだったけど、うまく倒れない。結局、わたしのななめ後ろに座ってる雪ちゃんが手伝ってくれた。
「高速道路にパーキングエリアがあるはずだから、そこで休憩しよう。それまで少し我慢して」
 ハンドルを回しながらパパが言った。

 〈高速道路〉を走って、少し経つと〈パーキングエリア〉に着いた。本当は高速道路からの景色も見たかったけど、気持ち悪くてそれどころじゃなかった。車が動きを止めると、少しマシになったけど。
「アリス、起き上がれるかい?」
「うん……」
「じゃあ、少し車から出て、外の空気を吸おうか。少しは気分が楽になると思うよ」
 車を降りると、〈駐車場〉には車がいっぱい止まっていた。駐車場のすぐ向こうには山があって……わたしたち、こんな高いところまで来たのね!
 大きく息を吸って吐くのを何回か繰り返したら、気持ち悪いのがすっかりなくなった。
「アリス、気分はどうだい?」
「うん、もう平気!」
 車に戻ったわたしたちは、再びお料理教室に向けて走り出した。

「――アリス、雪さん、着いたよ」
 え……早っ!
 眠い目をこすりながら、身体を起こす。あの後、すっかり寝ちゃってたみたい。
「お料理教室は、一時からだったよね。まだあと三十分ぐらいあるから、車の中で少しゆっくりしてから行っておいで」
「うん」「はい、ありがとうございます」
 自分のことだけで精一杯だったけど、雪ちゃんは具合悪くなったりしてないかな……?
「雪ちゃんは、車酔いは平気?」
「ええ、わたしは慣れてるから」
 良かった……。
「それにしても、無事に着いて良かった……。雪さん、運転に集中しててあんまり話ができなくてごめんよ。――雪さんは、今もお家で料理はするのかい?」
「最近は塾で忙しくて、休日に親が作るのを手伝うくらいしか……」
 自信がなさそうに雪ちゃんは呟く。
「いや、それでも十分素晴らしいよ。親御さんも、きっと助かってるよ」
「そうよ、十分すごいわよ! わたしなんて、塾にも行ってないのに何一つお手伝いできてないもの」
 話しているうちに、あっという間に三十分が過ぎて――。
「用事を済ませたら、また迎えにくるよ。夕方の四時ぐらいには戻るから、待っててね」
 用事って、来る途中に指輪越しに話してたことと関係があるのかしら? 何事もないといいけど、やっぱりちょっと心配だわ……。

 わたしたちの目の前には、茶色いレンガづくりのお家が建っている。この中に、お料理教室があるのね。なんだか、アン伯母さん(ママのお姉さん)のお家に似てる……。
「雪ちゃん、わたしがこうやって合図をしたら――」
 雪ちゃんの瞳に向けて、ウインクをしてみせる。
「『せ~の』で『美味しくな~れ』ね!」
「……分かったわ」
 雪ちゃんの声がかすかに震えた。
「もしかして、ドキドキしてる?」
「ええ、だって、あんな別れ方をしたから……」
 そうよね、大好きだったお友達が魔法の力で自分のことを忘れて――これからその子に会いに行くんだもの。怖くなって当然よ。
「でも、ここで諦めるのは嫌」
 雪ちゃんの瞳は、お料理教室の扉にまっすぐ向いていた。
「大丈夫! 一緒にやれば、絶対にうまくいくわ。――そろそろ始まる時間じゃない? 行こう」
 わたしたちは、木でできた深い茶色の扉を開けた。
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