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18.空腹と狼
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さて、この状況をどうしようかーー。
獣姿のアレクさん(仮)は俺的には「キャー素敵!モフらせてぇ!」と興奮必須の上めちゃめちゃ眼福なんだけど、会話ができないのはつらい。いろいろと聞きたいことがあったのに、未だに謎は謎のままだ。
あの後一体どうなったんだろう――。
チャラ神は「現場は悲惨な光景だった」と言っていたけど、何がどう悲惨だったんだ?
それと、俺が大ケガしたことでアレクさんが護衛役の責任を取らされたりしていないと良いんだけど。担当替えとかになったらどうしよう…。
ぐぅきゅるるるるる
腹減った……。
こんな状況なのに俺のお腹は「そんなこと知ったこっちゃねー!」とばかりに空腹を主張している。
もう少し空気を読んで欲しいけど、思っていた以上に限界だったみたいだ。
ぐぅきゅるるるるるるる
当然俺なんかより耳のいい獣人のアレクさん(仮)は、今現在俺の目の前でオロオロしてる。え、かわいい。
獣の姿でアレコレしろって頼むのも無理な話だよね。もちろんそんなこと頼もうとは俺も思ってないんだけど。
空腹過ぎてお腹の音が鳴り止まずベッドから降りれない俺と、獣姿で部屋の中を落ち着きなく歩き回るアレクさん(仮)。パニくってる姿もかわいいな、じゃなくって。
うん、ちょっと落ち着こう。アレクさん(仮)もそこにお座りしてください。
「困ったなぁ……」
なんか、いろいろと締まらないよなぁ…。現実は世知辛いね…。腹減ったよ。
「くぅ~ん…」
いかんいかん。腹減ったぐらいなんだ。
アレクさん(仮)にこんな顔をさせたかったわけじゃないんだ。
アオォォーン!オォォーン!オォォーン!
天井を見上げて突然アレクさん(仮)が遠吠えをはじめた。たまにテレビの映像や動物園なんかで聞いたことはあったけど、生で聞くとほんと大迫力だね。
一体誰を呼んでいるんだろう。
トントンと階段を登る音がして廊下を歩く足音が近付いて来ると、ピタリと俺の部屋の前で足音は止み、寝室のドアが開かれた。
「そう急かすな。近所迷惑だろうが」
そうぼやきながら現われたのは、陽気な猛獣面を想像していた俺の予想とは大きく外れ、面差しや色見がアレクさんにそっくりな渋いナイスミドルだった。と言っても、獣人の年って外見だけじゃよく分からないからなんとなくだけど。
「アラタ君、初めまして。俺はコイツの上司でルーヴってもんだ。よろしくな」
「は、初めましてルーヴさん、新です。よろしくお願いします」
ルーヴさんはなぜか部屋の中には入らず、ドアを開けたまま廊下に立っている。
「『なぜ部屋に入らないんだ?』って顔をしているね」
「は、はい!?」
この人俺の心の声が読めるのか!?と焦ったけど、全部顔に出てたらしい。いやー恥ずかしい。
「「入らない」んじゃなくて「入れない」んだよ。このドアから一歩でも入ればアレクに攻撃されてしまうからね」
「こ、攻撃?!アレクさんがですか?!」
「口で説明するよりも見てもらった方が早い」
そう言って部屋に一歩踏み込んだ瞬間、アレクさんが歯を剥き出しにしてルーヴさんに対して威嚇するように唸り声をあげた。
「ほらね。見ての通りさ。これはもう本能だからしょうがないんだよ」
「本能ですか?」
「アレクは今獣化したまま戻れない状態なんだ。獣化状態の時は本能のタガが外れやすいから、変に刺激しないに越したことはない」
「そう…なんですね。それで、アレクさんは元に戻れるんですよね?」
「うーん。一応まだアラタ君を襲わないだけの理性はあるようだけど」
「え、俺を襲う…?アレクさんがですか?」
「……自覚なしか」
ぐぅきゅるるるるるるる
おっと、今ですか?!お腹の虫さんもう少し空気読んで?!
「ぷっ、あっははははは!! そうか、そうか、ずっと食ってないからお腹減ったよな。それで俺がアレクに呼ばれたのか。いや、すまん。笑って悪かった。すぐに用意してくるから、待っててくれ」
ルーヴさんは盛大に笑った後で謝ってくれたけど、俺はめちゃめちゃ落ち込んだ。穴掘って埋まりたい。
ベッドの上で一人ジタバタしている俺に寄ってきたアレクさんが、ペロペロと頬を舐めて慰めてくれる。ちょっと舌のザラザラが痛いけど、その気遣いが嬉しい。
げんきんなもんで、すぐににっこにっこご機嫌になった俺は、目の前にある狼の首筋に思いっきり抱きついた。
この大きな狼もアレクさんだと確信できた今、全然怖くない。むしろ全身撫で回してくっつきたいぐらいだ。はぁーん幸せ。
「おーい………ジャマして悪ぃが、飯の準備ができたからそっちに持っていくぞ」
スリスリ、クンクンとアレクさんの毛皮に埋もれて完全にトリップしていた俺に、いつ戻って来たのか扉の向こうに立っているルーヴさんはちょっと引き気味だった。
「はっ……?!あ、う、あ、すすすすみません?!ありがとうございます?!ごちそうさまです?!」
「いや、まだ何にも食べてないだろう?きみ、面白い子だなアラタくん」
「ぅっ、あ、う…!」
さらに墓穴を掘った俺。口を開くとまた変なことを口走りそうだから、自分の手で口を塞いだ。
それを見てまたルーヴさんに「面白い」と笑われたのには納得がいかない。
獣姿のアレクさん(仮)は俺的には「キャー素敵!モフらせてぇ!」と興奮必須の上めちゃめちゃ眼福なんだけど、会話ができないのはつらい。いろいろと聞きたいことがあったのに、未だに謎は謎のままだ。
あの後一体どうなったんだろう――。
チャラ神は「現場は悲惨な光景だった」と言っていたけど、何がどう悲惨だったんだ?
それと、俺が大ケガしたことでアレクさんが護衛役の責任を取らされたりしていないと良いんだけど。担当替えとかになったらどうしよう…。
ぐぅきゅるるるるる
腹減った……。
こんな状況なのに俺のお腹は「そんなこと知ったこっちゃねー!」とばかりに空腹を主張している。
もう少し空気を読んで欲しいけど、思っていた以上に限界だったみたいだ。
ぐぅきゅるるるるるるる
当然俺なんかより耳のいい獣人のアレクさん(仮)は、今現在俺の目の前でオロオロしてる。え、かわいい。
獣の姿でアレコレしろって頼むのも無理な話だよね。もちろんそんなこと頼もうとは俺も思ってないんだけど。
空腹過ぎてお腹の音が鳴り止まずベッドから降りれない俺と、獣姿で部屋の中を落ち着きなく歩き回るアレクさん(仮)。パニくってる姿もかわいいな、じゃなくって。
うん、ちょっと落ち着こう。アレクさん(仮)もそこにお座りしてください。
「困ったなぁ……」
なんか、いろいろと締まらないよなぁ…。現実は世知辛いね…。腹減ったよ。
「くぅ~ん…」
いかんいかん。腹減ったぐらいなんだ。
アレクさん(仮)にこんな顔をさせたかったわけじゃないんだ。
アオォォーン!オォォーン!オォォーン!
天井を見上げて突然アレクさん(仮)が遠吠えをはじめた。たまにテレビの映像や動物園なんかで聞いたことはあったけど、生で聞くとほんと大迫力だね。
一体誰を呼んでいるんだろう。
トントンと階段を登る音がして廊下を歩く足音が近付いて来ると、ピタリと俺の部屋の前で足音は止み、寝室のドアが開かれた。
「そう急かすな。近所迷惑だろうが」
そうぼやきながら現われたのは、陽気な猛獣面を想像していた俺の予想とは大きく外れ、面差しや色見がアレクさんにそっくりな渋いナイスミドルだった。と言っても、獣人の年って外見だけじゃよく分からないからなんとなくだけど。
「アラタ君、初めまして。俺はコイツの上司でルーヴってもんだ。よろしくな」
「は、初めましてルーヴさん、新です。よろしくお願いします」
ルーヴさんはなぜか部屋の中には入らず、ドアを開けたまま廊下に立っている。
「『なぜ部屋に入らないんだ?』って顔をしているね」
「は、はい!?」
この人俺の心の声が読めるのか!?と焦ったけど、全部顔に出てたらしい。いやー恥ずかしい。
「「入らない」んじゃなくて「入れない」んだよ。このドアから一歩でも入ればアレクに攻撃されてしまうからね」
「こ、攻撃?!アレクさんがですか?!」
「口で説明するよりも見てもらった方が早い」
そう言って部屋に一歩踏み込んだ瞬間、アレクさんが歯を剥き出しにしてルーヴさんに対して威嚇するように唸り声をあげた。
「ほらね。見ての通りさ。これはもう本能だからしょうがないんだよ」
「本能ですか?」
「アレクは今獣化したまま戻れない状態なんだ。獣化状態の時は本能のタガが外れやすいから、変に刺激しないに越したことはない」
「そう…なんですね。それで、アレクさんは元に戻れるんですよね?」
「うーん。一応まだアラタ君を襲わないだけの理性はあるようだけど」
「え、俺を襲う…?アレクさんがですか?」
「……自覚なしか」
ぐぅきゅるるるるるるる
おっと、今ですか?!お腹の虫さんもう少し空気読んで?!
「ぷっ、あっははははは!! そうか、そうか、ずっと食ってないからお腹減ったよな。それで俺がアレクに呼ばれたのか。いや、すまん。笑って悪かった。すぐに用意してくるから、待っててくれ」
ルーヴさんは盛大に笑った後で謝ってくれたけど、俺はめちゃめちゃ落ち込んだ。穴掘って埋まりたい。
ベッドの上で一人ジタバタしている俺に寄ってきたアレクさんが、ペロペロと頬を舐めて慰めてくれる。ちょっと舌のザラザラが痛いけど、その気遣いが嬉しい。
げんきんなもんで、すぐににっこにっこご機嫌になった俺は、目の前にある狼の首筋に思いっきり抱きついた。
この大きな狼もアレクさんだと確信できた今、全然怖くない。むしろ全身撫で回してくっつきたいぐらいだ。はぁーん幸せ。
「おーい………ジャマして悪ぃが、飯の準備ができたからそっちに持っていくぞ」
スリスリ、クンクンとアレクさんの毛皮に埋もれて完全にトリップしていた俺に、いつ戻って来たのか扉の向こうに立っているルーヴさんはちょっと引き気味だった。
「はっ……?!あ、う、あ、すすすすみません?!ありがとうございます?!ごちそうさまです?!」
「いや、まだ何にも食べてないだろう?きみ、面白い子だなアラタくん」
「ぅっ、あ、う…!」
さらに墓穴を掘った俺。口を開くとまた変なことを口走りそうだから、自分の手で口を塞いだ。
それを見てまたルーヴさんに「面白い」と笑われたのには納得がいかない。
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