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一章 スタートライン
それぞれの思惑
しおりを挟む時間は悪魔騒動が起こる約2時間前に遡る。
エルフィム付近の森にフードを被った2人組が潜伏していた。
1人は茶色。丁度エルフィムの時計塔と同じ色である。手には大きく細長いジュラルミンケースがある。
もう1人は赤色。赤と言っても鮮やかな赤ではなく、くすんだ赤だ。
「現在1150。今回の作戦は基本的には私の指揮下に入ってもらいます。いかに総統閣下のご婦人であろうともそう命令されておりますので。構いませんね、ブラウン夫人」
茶色いフードを被った男が口を開く。
「ええ。構わないわ。ただ貴方の指揮下は少し不服だわ、オスカル」
ブラウンと呼ばれた女が不機嫌そうに答える。
「総統閣下のご意思でございますので、そこは閣下自身にお聞き下さい」
「分かってるわよ。あと、夫人は止めて頂けます? そう呼ばれると年寄りだと感じてしまうのよ」
「これは失敬。しかし見た目は20代でも生きてる年は既に100を越えてます。もう年寄りかと」
「ううぅぅぅぅ」
オスカルの口撃にブラウンは涙目だ。
そんなブラウンを見てオスカルは苦笑いを浮かべた。
「そんなに泣かないで下さい。 第一、私も100年くらい生きてるはずなので」
「ううぅぅぅ・・・。ぐずっ、・・・もう大丈夫よ。で、今回の作戦内容は?」
ブラウンはすぐに泣きやみ、仕事モードに入る。
「今回のエルフィム襲撃兼雷閃の魔女討伐作戦、通称『鏡界の雫作戦』は雷閃の魔女、エリス・セクトルス討伐がメインです。ブラウン・・・・・・様が雷閃の魔女の相手をしている間に私が召喚した低位の悪魔で物資の破壊、簒奪を行います」
ブラウン様・・・ブラウン様・・・と呟くブラウン。
「1345。エルフィムの城壁から低位の悪魔を侵入させ、破壊活動と共にセクトルスの探索。その後発見次第戦闘を開始し、最終的には1455までに作戦を完遂するのが理想です。既に転移門の設置は終わってますので離脱もすぐに出来ます」
何か質問は? と、尋ねるオスカル。
「えっと、私の役目は分かったけどオスカルは何をするの?」
それを聞いたオスカルは不敵に笑う。
「私ですか? 私は悪魔の指揮をしながらブラウン様、いえ。カマエルの援護を致しますよ。更には魔法剣師の対策でバディンも来ております」
ブラウンはそれを聞くとほっとした表情をした。
「まさかの三柱勢揃いとはね。ありがとう、オスカル。いえベリアル」
~~~~~~~~~~~~~~~
(ふう。やっと行ってくれましたか。流石にレクトさん達がいると全力で戦えないので別の方に行って頂けるのは個人的には嬉しいです)
エリスは未だ空中で見下しているカマエルに挑発するような仕草をする。
「さて。カマエル、命乞いをするなら今のうちですよ。貴女は私の事を知っているはずなので手加減しないのは分かっていますよね」
カマエルはニタリと笑う。
「それはこっちのセリフだわ。貴女こそ死にたくなければ・・・・。ね?」
(まあ分かっていた事ですが。はあ。とりあえず・・・)
「〈電流結界〉、〈天雷の監獄〉、〈浮遊する雷撃機雷〉・・・それとっ!」
交渉が決裂した瞬間にエリスは獣人に使った魔法3種類を即座に使用。周囲には数十の機雷と雷の檻がカマエルを取り囲む。そして〈電流結界〉の「範囲内の固体有機物から魔法を放てる」という能力を発動させる。多種多様な壁や地面から〈龍雷の雨〉が放たれ、カマエルへ一直線。
これはエリスの初手初見殺し技の一つである。瞬時に相手の動きを縛り、行動の選択肢を狭め隙を作る。その隙を火力で消し飛ばす。並の魔法師ではこの一瞬で対応する事は出来ない。
しかし相手は三柱の一角。脳内の処理は人間の範疇では無い。
「〈魔法解除〉、〈反射〉・〈爆裂炎〉」
1つ目の魔法で雷の檻を解除し、〈反射〉の魔法効果でエリスが生成した〈浮遊する雷撃機雷〉と同じ数の炎弾が機雷を全て撃ち落とし、周囲へ爆風と電流を撒き散らす。そのまま飛行で追ってきた龍雷をするすると躱す。
爆風でエリスのワンピースのスカートがゆらゆら揺れる。
「ぐっ・・・、いいですね。では次はどうでしょう。〈六重強化〉・〈龍雷の雨〉、〈拡散する結晶体〉」
エリスは手を掲げると6つの魔法陣が現れ、そこから無数の雷龍が放たれる。
「ちっ、こんなもの・・・・・・」
カマエルは壁や地面から放たれ続けられる〈龍雷の雨〉を躱しながらエリスの放った魔法への対策の準備をする。が、無数の雷龍は真っ直ぐカマエルへと向かわず不規則な方向に転換する。そして急に雷龍が分裂、総数300近い細い雷が高速かつ全方位からカマエルを襲う。
「〈魔力盾っ〉ぐっ・・・。」
カマエルは魔法で防ごうとするが流石に300近い雷を防ぐ事は出来なかったらしく少しダメージを負う。そして更に追撃の〈龍雷の雨〉。
「あぁぁぁ! 〈朱の豪槍〉、〈八重強化〉・〈熱星〉」
電撃を食らいながらも仕返しとばかりに巨大な炎の槍と高熱の星80を放つ。
「〈電撃〉、〈拡大〉・〈強化〉・〈魔力盾〉」
エリスは〈電撃〉で〈朱の豪槍〉の中心を射抜き〈魔力盾〉で高熱の星を全て防ぐ。
〈朱の豪槍〉の中心を射抜いたと言ってもその余波がエリスの横を抜けていく。直撃とはいかなくても魔法の炎の温度は摂氏3000度近い。常人では既に焼け死ぬような熱さだ。既に周囲の建物は崩壊し、煉瓦製の家々はほとんど溶け出している。
(一応別で魔力障壁を張っていますからね。結構ギリギリですが)
既に着ていたワンピースのスカートのフリフリや袖の一部が焦げており、ギリギリ着ていられるような状態である。
「おや。これでは服が脱げてしまいます。着替えますか。・・・〈換装〉」
エリスが魔法を唱えると一瞬で着ている服ワンピースから先程鍛冶屋で買った黒のドレスへと、靴は革靴から黒いハイヒールへと変化する。このハイヒールはリッ素製で融点は摂氏3800度、ミスリルの融点は摂氏4700度なので相性はいい。
「んー。いいですね~。やはり素材もいいですが職人の腕を感じます」
エリスはこの上なくご機嫌だ。
一方カマエルは苦虫を噛み潰したような思いだった。
(事前情報と違うわ! 以前はただの脳筋、火力バカだったはずなのに!)
以前のエリスは火力特化の魔法編成だったはずなのに、実際戦うと障壁や浮遊する雷撃機雷、電流結界等手数が増えている。
「何故貴女の情報が違うのかしら?」
「悪魔如きに教える必要がありますか?」
エリスは笑顔でキツイことを言う。
「まあ一言言うならですが、その情報は二年前の情報ですので信用するだけ無駄ですよ」
(私の魔法編成だと格上相手は不利でしたので。こういった小さな小細工を含ませる事で想定外の一手へと変化させる事が出来ますし)
まあとりあえず今はなんでもいいですが、と呟くエリス。
「ほとんど地形が変わってしまいましたので掛け直しますか。〈魔法解除〉と〈電流結界〉、〈浮遊する雷撃機雷〉」
改めて魔法を掛け直す。
(ここまで来るとアムネルが来ている可能性は無さそうですね。まあそれは後でじっくり探していけばいいのですが・・・・・・。それでは)
気持ちを切り替えるエリス。
「第二ラウンドです。さあ、いきますよ」
~~~~~~~~~~~~~~~
身体強化の魔法を使っているからやっと見えているが、明らかに速すぎるな。
と、俺は現在進行形で悪魔を斬り伏せているベルを見ながら思った。
「この魔法で強化出来るのは五感、筋力、あと脳内の情報処理だったな」
今俺は通常の5倍の速さを手に入れているのだろう。速さだけならばベルと同じくらいのはずだ。しかしベルと俺では技量が違う。
「・・・っ!」
敵が攻撃する前に正確に急所を斬り、剣を振り下ろした時にその方向へ発生するエネルギーすら巧みにコントロールし、流水の様な動きで最短ルートをなぞり敵へと向かう。
全く隙のない完成された剣技だ。
既に俺が見ている間でも2000は斬っているだろう。
「西門側の時計塔からエリスの戦闘地帯の距離は直線距離で7kmくらいか? なあベル、狙撃関係の魔法は最長何キロ届くんだ?」
アディルは丁度悪魔を斬り終えた所のベルに尋ねる。
「ん? 狙撃系? 組合で聞いたのだと最長でも4kmだったかなー。でも狙撃系は人気が無いから多分無いと思うぞ」
狙撃か。でもやはり高台は時計塔しか無いから警戒の必要性は薄い。
だが俺達の様な別世界の技や武器があるかも知れないな。
そんな事を考えているとアディルは何かブツブツと言ってから1枚の紙を取り出した。
「さて、メンテも終わったし、本領発揮だぜ。〈五重強化〉・〈転移門〉」
アディルが呪文を唱えると煉瓦の地面に5つの穴の様なものが開く。中に見えるのはアディルの鍛冶屋の天井だ。そして飛び出てくるのはソフトボール並の大きさをしている5つの球体。この世界で見たような中世の物とはかけ離れている黒い金属製のフォルムにカメラのようなレンズが幾つも付いている。
そんな物がアディルの周りを浮遊している。
「なんだそれ?」
これに興味が無い訳が無い。こんな物は前の世界でも作る事は出来ないだろう。
「あ? ああ。〈浮遊する黒曜石〉だ。ペテルにメンテをやってもらってたんだよ。こんなもん見た事ねーからな。〈脳波同調〉で各機体に司令を飛ばして〈視覚共有〉を使って上空からの偵察や内蔵された魔法貯蔵庫があるから攻撃、防御の魔法を使えるってやつさ。周囲の敵も減ってきたしこれを使うのもアリかなーと」
優秀だなー。錬金術師ってなんでもありじゃん。
「よく作れたなそれ。もうホントの機械だろ」
「小型の貯蔵庫を作るのが手間だったかな。あとはメガネ業者に頼んで作って貰って金属加工はいつも通りな。使用金属はタングステン。前の世界で1番硬い金属だな。むこうじゃ加工は不可能とか言われてたけどこっちじゃ錬成すれば簡単に形が変わるからな」
アディルが照れくさそうに言う。表情を見ると結構凝って作ったのがよく分かる。
「さてじゃあ2つほど残して残りは飛ばそ」
〈浮遊する黒曜石〉は勢い良く空に飛んでいく。
「・・・ほうほう。なになに~。お、なんか結構減ってるんじゃね?第七番街の連中結構やるやん。近づいてみよっと」
「おいおい。アディ兄!声だけなんて生殺しだぞ!?」
ベル、表現表現。なんかえっち。
「すまねぇ。〈魔法画面〉」
呪文を唱えると空中に空からの画面が浮かぶ。
その画面の一つに指揮をしている金髪の女性に目を引かれた。
「あれがアリスティア伯爵か。結構綺麗だな」
「おっ? エリスの嬢ちゃんとどっちが好み?」
煽るな煽るな。
「俺はエリスかな。まあ兄ちゃんの好みは知らんけどな」
まあ俺はエリスの方が好きかな。親しみやすいし。
「にしてもアリスティア伯爵の動き、時間を稼ぐような立ち回りと戦略だな」
たしかに相手の戦力を削りながら自分達の消耗を抑えるような戦い方だな。
さてそろそろいいだろう。
「アディル、モニターを解除してくれ。次に行くぞ」
こうして俺達は休憩を挟み、次の悪魔狩りへと乗り出して行った。
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