弱小転移者の戦旅譚

ぶなしめじ

文字の大きさ
29 / 29
二章 孤独な少女の小さな願い

イルバの企み

しおりを挟む
 「・・・これはぁ~。ちょっと不味いかもぉ~」
 イルバは唐突の乱入者、ベルの存在を相当困惑しているようだ。先程の戦闘でイルバが強いのは分かっている。こういう魔法師は表に出ないのが普通のはずだから底が測りきれない。つまり、実力だけならベルと同等の力がある可能性があるという事だ。

 今のイルバの発言もベルを油断させるブラフであってもおかしくは無い。それに、イルバにはまだ〈貯蔵〉ストックした魔法が幾つもある。
 「今回はベルが不利だが・・・。大丈夫なのか?」
 ベルはそんな俺の心配を鼻で笑う。

 「なあ、にいちゃん? 魔法師序列第五位を舐めてないか? ま、今回は全力で相手してやるって決めてんだ。負けっこねえよ」
 ・・・確かに、ベルの全力戦闘はほとんど見た事が無かったからな。それで心配など無粋というものだな。

 「チビ助、よく見てろよ」
 「うん、・・・あと、チビ助じゃない」
 涙目で有彩が否定する姿をフッ、と薄く笑いながらベルは愛剣を引き抜く。

 「あまりぃ~。余裕ないかもぉ~。
 〈四重強化〉フィーア〈虚なる影烏〉クロウ・オブ・エンプティ
 再びイルバが黒烏を大量に生み出し、ベルへ弾丸並の速さで攻撃を仕掛ける。

 「〈付与・魔法破壊〉エンチャント・マジックブレイク
 ベルは剣に魔法破壊を付与する。これは俺の魔法弾と同じものだ。

 そしてベルは一瞬で黒烏を切り伏せ、消滅させる。そしてベルが常識外の速さで動いた後に発生する衝撃波とソニックブーム。・・・有彩が再び守ってくれたから生きてるけど普通なら死んでるからな? それにの部屋も吹き飛ぶぞ?

 ベルの愛剣『光り輝くものシリウス』は伸縮自在の素材だが、それだけではこの芸当は無理だ。この剣は他にも特性があり、「細ければ細いほどしなる」というものだ。つまり、糸のように細くすればその分糸のようにぐにゃぐにゃと曲がるという事だ。

 そして都合のいい事に、剣としての特性は残っているため、普通に切れるのだ。
 「あははぁ~。普通にやばいかもぉ~」
 「うっせっ」
 ベルが床を踏み込み、一直線でイルバへと向かう。たったの20m程。ベルなら一瞬だ。

 「んっ!」
 だが、その途中にベルの周囲で魔法陣が形成され、そこからうねうねと曲がりながら飛び出だす黒い槍。これが恐らく〈貯蔵〉ストックされた〈変形する影槍〉チェンジ・ザ・シャドウスピアだろう。

 ベルはそれを回避するために空中へと退避する。
 「おっけぇ~。っと!」
 そして再び魔法陣が形成される。恐らく先程大量に魔法を〈貯蔵〉ストックしていたのだろう。
 魔法陣から闇の波動がベルへと襲いかかる。

 「〈魔法盾〉マジックシールド
 だが、空中に〈魔法盾〉マジックシールドを生み出して一部を防ぎ、それを足場にして残りを難なく回避した。

 「いやぁ~。もう一つあるよぉ~」
 再びベルの周囲に魔法陣が形成され、黒烏が生み出される。
 「・・・」
 そしてそのままベルへ直撃する。いや、したと思った。

 「これで終わりかなぁ~」
 黒烏の生み出した爆風を見ながら呑気に呟くイルバ。完全に舐めきっている。
 「アレで終わるくらいなら『魔法剣士』なんて名乗ってねえよ」
 「っ!」

 イルバの背後にベルが現れる。これは恐らく〈短距離転移〉ショートテレポーテーションだ。他の転移魔法よりも最大移動距離は短いが、魔力消費が少ないのが特徴だ。
 「でりゃ!」

 ベルはイルバの首を一閃。綺麗に切り飛ばす。
 「んっ?」
 ベルが切り飛ばした首の断面を見る。その首からは血が溢れ出るはずなのだが、イルバの場合、代わりに奇妙な黒いドロドロとした液体なのだ。

 「あははぁ~。やっちゃったぁ~」
 イルバは変わらず、ヘラヘラとしている。これは・・・
 「お前・・・人間じゃねえな。粘液種スライムだろ?」
 ベルがそう尋ねると切り飛ばされた頭全てが黒い液体となる。そして体も液体となり頭の液体の方へ同化していく。

 「せぇ~かぁ~い~。イルバはぁ~。黒水晶の粘液スモーキークォーツスライムだよぉ~」
 ぐちゃぐちゃと形を変えながら喋るイルバ。・・・何処に口があるのかとても気になる。

 粘液種スライムはRPGゲームでは序盤に出てくる雑魚モンスターだが、この世界では厄介極まりない存在だ。まず、物理攻撃が一切効かず、個体によっては毒や融解などの粘液で攻撃してくる。そして、再生能力もあるため、一撃で仕留める必要がある。

 「もう十分時間はぁ~。稼げたしぃ~そろそろ退却かなぁ~」
 「ま、待て!」
 と言っても、待ってくれないのが世の常。イルバは床のタイルの隙間を縫って消えて行った。

 「・・・粘液種スライムのイルバって確か魔王ディステル軍の幹部だよな? ディステルの国はもっと西のはず。なんでこんなとこにいるんだか」
 ・・・魔王ねぇ。本で読んだが、魔王は魔王因子を取り込んだ生物なんだとか。魔王因子もそこら辺にある訳では無く、遺跡に封印されてたり、機密の製造法で作られるんだとか。

 「さーて。依頼完了の知らせを出しに行こうぜ。ここの連中はみんな死んでるから、衛兵を呼ぶ必要ないな」
 ベルは何事も無かったかのように来た道を帰ろうとする。
 有彩は後で話してくれるのだろうか?

 「あ、そうだ。・・・チビ助、後で全部話してくれよ?」
 ・・・隠し事なんて、最初から無理そうだ。


~~~~~~~~~~~~~~~


 「・・・やはり、黒死の疫龍王ブラックペスト・ドラゴンロードでしたか」
 ベルが依頼完了の手続きをしている間、俺と有彩は昼食を摂るために飲食店を探していた。そうして図書館の前を通ると、偶然エリスと会ったので一旦宿へと戻り、シャワーを浴びてからエリスが調べてくれた飲食店へと向かった。

 何故シャワーを浴びていたかって? もちろんエリスと食事するからに決まってるだろ。その・・・、なんというか、マナーである。

 「やっぱりって事はエリスはもう分かってたんだな」
 「まあ、分かっていたのはアリサちゃんの体の中に滅界の七龍王セブンス・カタストロフィ・ドラゴンロードがいるという事だけですけどね」
 どうして知っていたのだろうか。

 そう口にする前にエリスが先回りして話してくれる。
 「最初に拾った時、アリサちゃんにはゼルヴィン卿の20倍の魔力を持っていると言いましたね。それと同じくらいの魔力持ちを私が知っているからです」

 ・・・爺さんの20倍がまだいるの?
 「その方はアイクレルト王国魔法師序列第二位『凍棘の魔女』、へスティア・エイリプトさん。彼女は氷晶の霜龍王メルクリアス・ドラゴンロードとの契約者で、私以上の使い手です。しかし、アリサちゃんの魔力は潜在的なものでまだ外には出ていません。それは私と同じ不完全な『魔女』という仮説が立てられます」

 ・・・何となく分かってきたな。
 「そして、先程そのエイリプトさんから〈念話〉メッセージで連絡が来ました。彼女もここに来るそうです。理由は、国王陛下に命じられたからだそうです」

 国王陛下ね。本で読んだがとても凄い方なんだとか。カリスマ、知略、美貌、強さ。その全てを欲しいままにするアイクレルト最強の魔法師らしい。
 「陛下に命じられてあの凍棘の魔女がここに来るんですよ? 今ある情報で考えればアリサちゃんが龍王を保有していると考えるのが妥当ですね」

 「なるほどな。でも、有彩は未だ不完全だから最低限エリスと同じ状態まで持ってきたい所だが・・・」
 「レクトさん、簡単に言ってくれますね~。私がどれだけ頑張ってリオと交渉した事か・・・」
 ・・・確かに。カップ麺作ってる間に一国を滅ぼせる相手と交渉とか・・・。考えたくねえ。

 「ま、そこはアリサちゃんの努力次第です。私達は応援する事しか出来ませんよ」
 「う、うん。頑張る・・・」
と、そこでエリスに〈念話〉メッセージが来る。相手はベルのようだ。

 「遅くなるの先に戻っていて欲しいそうです。お会計しましょうか」
 との事なので会計をして俺達はこの店を後にした。


~~~~~~~~~~~~~~~


 俺達はベル、アディルと合流した後に全員で商店街を周り、食べ歩きをした。そこで先程以上に有彩の顔色が良くなかったが、CCS23という薬が切れかかっているというのはイルバが言っていたのでそのせいなのだろう。

 こうして俺達は宿へと戻ってくる。いつもながら俺はアディルとの相部屋だ。・・・実はエリスとが良かったのだが、アディルを1人にするのも何だしベルと有彩が相部屋なのでこれが妥当だろうと納得した。
 「それで? 昨日から店に入り浸っている理由を聞かせてくれ」

 俺は思っていた事をアディルに直接訪ねた。
 正直、この部屋は落ち着けない。箱根の旅館の様な木造で綺麗なこの部屋は俺の身の丈に会っていない様な気がするのだ。

 「おっ! そうだったぜ。〈転移門〉ゲート
 アディルが〈転移門〉ゲートの中から取り出したのは俺のノートPCだ。
 「コイツをこの世界で使えるようにしといたぜ! つっても自動魔力供給機を繋いで、中に〈精霊の声〉エレメンタル・エコーと同じような効果のソフトを入れただけだがな。だからこれからはPCでSTNが使えるってこった」

 おお! よく分からないけど俺もSTNが使えるって事か!
 「マジ助かるよ! ありがとう」
 「へっ! これくらい朝飯前だぜ」
 ・・・一日かかっている時点で朝飯前では無いけどな

 「早速、やってみますか!」


~~~~~~~~~~~~~~~


 夜の一時頃。ベルは異変を感じてベッドから起き上がる。 もちろん、ベルに異変があった訳では無い。ただ、この部屋の空気が少しひんやりとしており、さらに風が吹きつける様な空気の流れも感じられたからだ。
 「って事は!」
 ベルがこの部屋を慌てて見渡す。


 そこには隣のベッドには有彩の姿は無く、開けられた窓から入り込む風で虚しく揺らめくカーテンだけがあった。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

{完結保証}規格外の最強皇子、自由に生きて無双する〜どこへ行っても、後世まで語られる偉業を残していく、常識外れの皇子〜

Saioonji
ファンタジー
母に殴られ、命を奪われた――そのはずだった。 だが目を覚ました先は、白く豪奢な王城の一室。 赤子の身体、仕えるメイド、そして“皇子”という立場。 前世では愛されず、名前すら価値を持たなかった少年が、 今度は世界の中心に生まれ落ちてしまった。 記憶を失ったふりをしながら、 静かに、冷静に、この世界を観察する皇子。 しかし彼の中には、すでに常識外れの思考と力が芽生えていた。 ――これは復讐でも、救済でもない。 自由を求めただけの少年が、 やがて国を、歴史を、価値観そのものを揺るがしていく物語。 最強であることすら、彼にとってはただの前提条件だった。 重複投稿作品です 小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

処理中です...