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前編
しおりを挟む「君のこと、好きじゃないんだ」
あれは寒い冬のことだった。
「だから、婚約は破棄するよ」
当時婚約していた彼オーゲンハイムはその白い瞳に冷たい色を浮かべて淡々とそう述べた。
「え……」
「もともとべつに好きだったわけじゃない。何となく君とって話になっただけで。でも一緒にいたら少しは好きになれるかもと期待はしていたんだ」
「そう、ですか」
「けど無理だった」
「まぁ……それは、そうですよね」
「だからもうおしまいにすることにしたんだ。僕にはもうそれしかないんだ、他の選択肢なんて考えられなくなってしまった」
オーゲンハイムの瞳には刃のような鋭さが宿っている。
真っ直ぐ見るだけで心を裂かれてしまいそう。
「じゃあね、さようなら」
彼は最後それだけ言って、そそくさと去っていってしまった。
その場にぽつんと取り残される私。
まだ理解が追いついておらず涙も出ない、でも胸は痛い。
――そんな時。
「あ、あの!」
背後から声がして。
「見てしまっていて……すみません。でも、お伝えしたいことがあって、それで……少し声をかけさせていただきました」
振り返ればそこには可愛らしい雰囲気の青年が立っていた。
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