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婚約破棄 ~愛してるはもう聞こえない~

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 終わりしよう、と告げられた。

 私と彼が出会ったきっかけは親同士が知り合いだったこと。けれどもいざ彼と会ってみて、とても魅力的な人だと思った。彼は話題が豊富で、尊敬できて、そんな彼の横にいたいと思うようになっていった。一方彼の方も厚化粧でない私に興味を持ってくれていたようで、いつしか心が近づいて。そうして婚約したのだ。

 婚約の日、彼は「愛してる」と言ってくれた。

 でもそれは今日終わりを迎えた。

 彼には彼の事情があるのだろう。

 それでも、せめて、理由くらい教えてほしくて。

 尋ねてみたけれど、彼は「それは言えない、君を傷つけることになるから。言わないのは君のため」の一点張りで、婚約破棄の理由については一切話してくれなかった。

 どうしてこうなってしまったのだろう。
 どこで間違えてしまったのだろう。

 後悔しても無駄と分かっていても、そんな思考がぐるぐるしてしまう。

 私は彼を愛していた。
 彼も私を愛しているはずだった……のに。

 いつから彼の心は変わってしまったのか、私には分からない。

 いつか二人で歩いた公園横の薔薇園。
 そこは今日も変わらず美しくて。

 けれども、愛してるはもう聞こえない。


◆終わり◆
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