完璧過ぎる女性が好かれないというのは事実のようですね

前編

　イレイナは資産家の娘。品のある整った容姿の持ち主で誰からも好かれて育ってきた。性格も悪くない。時に嫉妬から嫌がらせをされることはあったが、それもはねのけ、強く可憐に生きてきたのだ。

　だが、彼女は今、災難に見舞われている。

　半年ほど前にイグニスという青年と結婚し同居を開始した。しかし、同居する場所がイグニスの実家であったということもあり、そこには彼の家族もいた。それがすべての災難のもと。というのも、イグニスの母親と妹はイレイナをよく思っていなかったのである。

　同居し始めてすぐ、イレイナは二人からいじめられるようになった。

　最初に嫌がらせをしてきたのはイグニスの母親。

　彼女は親が不仲なうえ貧しい家に生まれ、今の夫と結婚するまで苦しんで生きてきた。お金持ちの息子であった今の夫と出会ってからは裕福に暮らせるようになったが、過去のトラウマは消えていない。

　そのため、裕福な家庭で育ったイレイナに対して、憎しみを抱いていた。

「イレイナさん、貴女って、本当にぼんやりなさっているのねぇ」

　イグニスの母親はことあるごとにイレイナに絡む。
　用がなくても、わざわざイレイナに寄っていっては、余計な言葉をかける。

「これだから裕福な家庭で育った方はいやなのよねぇ。まともに掃除もできないんだもの」

　イレイナが完璧でなかったとしたら、意地悪も少しはましだったかもしれない。

　しかしイレイナは完璧に近かった。

　彼女は恵まれた生まれゆえに余裕を持っている。他者の悪意もほどよく上手に受け流す、そういうすべを身につけている。

　その事実がイグニスの母親のコンプレックスを余計に刺激してしまって。

　イレイナはイグニスの母親にとことん嫌われてしまった。