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後編
しおりを挟む「死ぬ必要はないはずです。まだやりようはあるはずです。取り敢えず一度落ち着いて、話をしましょう」
その後私は彼に家でのことを話した。
初対面の人に対してそういうことを言うのはどうかとは思ったけれど、気づけば自然と話し始めていたのだった。
「それは、大変でしたね」
「いえ……悪いのは私です、馬鹿で無能なので」
「そんな風に言わないでください」
「あなたは何も知らないではないですか。実際私は馬鹿なのです、何もできない無力な人間で――」
言いかけて。
「洗脳されているだけです」
遮られる。
「そう思わされているのですよ、それは」
彼は真っ直ぐにこちらを見つめて述べた。
それからも色々彼と話し、私は、母のもとへは帰らないことを決めた。
父にだけこっそり連絡し家を離れる旨を伝えておいた。
行方不明かと心配させては問題だからだ。
その後私は支援グループのサポートを受けながら王都へ出て暮らし始めるのだった。
◆
あれから三年。
週に数日程度だが勤めていた職場にて社長の息子に見初められ結婚した。
私は今とても穏やかな環境で暮らせている。
特に好きなのは、昼下がりに自宅でのんびり庭を眺めること。
家事の合間に自然を見つめると心の奥を見つめているかのような充足感を得られるのだ。
金銭は必要ない。
だからこそ好きなだけでできるので、今の私にはぴったりな良い趣味だと思っている。
ちなみに母はというと、あの後自滅していったようだ。
私がいなくなってから母は父に当たり散らす対象を変えたようで、それによって夫婦仲は急激に悪化。父はしばらくは我慢していたもののやがて耐えられなくなり離婚を切り出す。その時になって慌てる母だがもはや手遅れ。夜な夜な罵声を浴びせたり最低な言葉で侮辱したりといった行為を繰り返していた以上もはや逃げることはできず、そのまま離婚となる。
その後母は孤独な人生を歩むこととなったようだ。
夫にも、娘にも、捨てられた彼女。
その手には何も残らなかった。
彼女はのんびり語り合う相手すらいない状態で生きていかなくてはならないこととなったのである。
だがそれも自業自得というものだ。
私をサンドバッグにし続けてきた罪は、これから、誰からも相手にされず一人ぼっちで生きていくという苦しみをもって償ってもらうこととしようか。
母を愛する者は誰一人いない。
それだけで十分だ。
◆終わり◆
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