婚約破棄され、ハエトリグモとなる。~この生涯に悔いはありません~

四季

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婚約破棄され、ハエトリグモとなる。~この生涯に悔いはありません~

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「お前との婚約は破棄とする!!」

 婚約者アードリッチから告げられた瞬間、私はハエトリグモになった。

 何が起きたのか?
 それは私にも分からない、理解できない。

 ――刹那。

「かわいいいいいいいい!!」

 アードリッチが目をハートにして急に近づいてくる。抱き締めようと手を伸ばしてきて。目は輝き、頬は赤く染まり、メロメロになっているかのような表情で近づいてくる。

 だが今は気持ち悪いばかりだ。

 ――プッ。

 私はアードリッチに向けて糞を飛ばし、顔に命中させる。

 そしてぴょんぴょんと跳んで逃げた。

 心ない人に、一方的に婚約破棄を告げてくるような人に、ハエトリグモになったからと近づいてこられても不快なだけだ。

 私はもう、彼とは一緒に過ごさない。

 いいじゃないか。
 どうせ向こうが捨てた後なのだから。

 私は消える、彼の前から。

 ――さようならアードリッチ、もう会うことはないでしょう。


 ◆


 その後私はハエトリグモとして過ごしその生涯を終えた。

 ちなみにメスである。

 オスと出会い、交接し、何度も卵を産んだ――そうしているうちに寿命を迎えたのだが、この人生に悔いはない。

 むしろ自由で楽しかった!

 平凡で、でもとても愛おしい、そんな日々だった!


◆終わり◆
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