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3話「勘違いされ叱られる彼」
しおりを挟むスレオはレイビアを抱え上げてほぼ強制的に魔王のところへと連れていった――否、連れて帰った、という方が相応しいだろう。というのも、スレオは魔王のもとで生きているのである。魔王の子孫というわけではないのだが、魔王のところがスレオの帰るべき場所。つまり、スレオが魔王のもとへ行くということは帰宅するも同然なのである。
「魔王様! 女性を拾ってしまいました!」
スレオは速やかに魔王のところへ向かった。
理由はただ一つ、レイビアについて伝えるため。
「何だと?」
王の間に佇んでいるのは男だった。
人に似ている。
黒いロングヘア、双眸は琥珀のような色をしている。
ただ、容姿面で一つ人間と大きく異なるところがあるとすれば、長い角が二本頭から上向きに生えているところだろう。
角だけが彼は人間でないとさりげなく主張している。
「女性?」
「はいそうです! とても美しい女性で――」
「コラ!!」
「ひえっ!?」
「誘拐してきたのか? そうだろう? 返してこい!」
スレオは魔王に勘違いされ怒られた。
レイビアはその様子を無言で見ていた。
スレオも、目の前にいる魔王だと聞く男も、今のところ悪の片鱗を見せてはいない。姿こそ異質なものではあるがその人柄は至って普通のもの、それこそ人間とさほど変わりないようなものだ。
ただ、レイビアは、すぐには安堵しなかった。
疑り深くなっているのだ、彼女は。
「ち、違うんです、本当に、拾ったんです」
「嘘をつくなよ……?」
「拾ったんです! 彼女はなぜか放置されていて、それで、危ないと思ってここへ連れてきたんです! 誘拐ではありません!」
無実を訴えつつ隣にいるレイビアへ話を振るスレオ。
「そうですよね!? お姉さん!! 誘拐じゃないですよね!?」
レイビアは俯きつつ一度だけ小さく頷いた。
「ほ、ほら! お姉さんもそう言ってますし! それにこのスレオ、誘拐など致しません!」
「そうか」
「そうですよっ、今までだってしていなかったでしょう!?」
「ま、それはそうだな」
魔王と呼ばれるその男は棒立ちでじっとしているレイビアの方へと足を進め近づいた。
「お主、名は?」
「……レイビア・オルトックと申します」
「なぜ一人でこのような地域にいたのだ。もしや、迷子か? 仲間とはぐれたとかか?」
「……いえ」
「では一体どうして?」
魔王が問えば、レイビアは冷ややかに答える。
「はめられて捨てられたのです、私は」
その声に温かさはなかった。
「は、はめられ……? どういうことだそれは」
困惑する魔王に向けて、レイビアは「聞きたいですか?」と問いを放った。冷淡な声での問いに戸惑いながらも魔王は「ああ、問題なければ聞かせてほしい」と控えめに答える。するとレイビアは長い睫毛に彩られた目を僅かに伏せ「ではお話しします」と呟いた。
そしてそこからレイビアはここに至るまでの流れを説明し始める。
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