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12話「撃退と重なる心」
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一度泣いたレイビアは冷静さを取り戻した。もう泣かない、彼女は静かにそれでいて強くそう決意を述べる。その時の彼女の瞳には直前までのような震えや弱さは欠片ほどもなかった。
「これからはできることをやっていこうと思います」
そんなレイビアを見てアムネリアはふっと笑みをこぼす。
「そうですね、ではこのまま隠れていてくださいね」
◆
あの後、人間の群れは、魔王軍によって駆逐された。
魔物たちはそれほど凶暴ではない。しかし自分たちに危害を加えてくる相手となれば本気も出す、なぜならそれが自分たちの生命を守ることであるからだ。優しくとも穏やかであろうとも、生命を脅かす外敵に対して大人しくしているほど彼らは情けなくはない。
元来魔物には人間にない力が備わっている。
それゆえ、本気でぶつかり合ったなら、人間側はやはりどうしても不利だ。
人間は力不足を補うかのように兵器を持ちそれを使って戦う――が、それでもなお、戦う気になった魔物たちの前では限りなく無力に近かった。
「やつらは倒したぞ」
「アドラスト様……」
ある日の夕暮れ、アドラストは自らレイビアに会いに来た。
「これでお主が連れ去られることもないだろう」
「良かったです」
「もう安心していい。ただ、しばらくは念のため警戒しておく必要はあるだろうがな」
「そうですね……」
レイビアは素直には喜べなかった。
もちろん、魔王軍の勝利は嬉しい。
でも犠牲はゼロではない。
それがどうしても胸に引っかかってしまうのだ。
自分がいなければ誰も犠牲にならなかったのに――そんなことを思い、暗い気持ちになってしまう。
「どうした? レイビア殿。そのような暗い顔をして」
彼女の表情の薄暗さに気づくアドラスト。
「……その、すみません」
「何だ?」
「私のせいで犠牲が……出てしまったと思うと悲しくて」
首を傾げるアドラスト。
「どうしたのだ一体。誰かから何か言われたのか」
「いえ」
「だがなぜそのようなことを気にする」
「誰にも責められないからこそ、です。私がいなければ、と……どうしても思ってしまうのです」
するとアドラストは「そのようなことを言うな」と低く発した。
「お主に罪はないのだ」
その言葉に、レイビアは一度だけそっと頷く。
「……アドラスト様、あの、お願いがあるのですが」
「ん? 何だ?」
「私にできることがあるならさせてください」
発言が予想外のものだったからか彼はきょとんとした顔をした。
それでもレイビアは目の前の男を真っ直ぐに見つめる。
「私、ここでじっとしているだけというのは、どうしても納得がいかないのです」
「どういうことだ、理解できん」
「たくさんお世話になってきたので少しでもお返しがしたいのです」
「なに、そういうことなら気にするな。誰もお主にお返しなど求めてはおらん」
ちょうどその時、アムネリアが姿を現した。
「陛下、彼女がどうしてもと言うのであればこちらで担当します」
「アムネリアか」
「彼女の希望に応えるなら我々が適任でしょう」
アムネリアは魔王の前でも淡々としている。
「そういうものなのか?」
「そうですね」
「ああ分かった、では任せよう」
呟くように言ってから少し間があって。
「ではレイビア殿、彼女と仲良くやってくれ」
彼は改めてレイビアの方へ顔を向けた。
「許していただけるのですか」
「お主の希望ならそのようにすれば良い」
「それは……! ありがとうございます……!」
レイビアの整った面に光が射し込む。
彼女は深々とお辞儀をした。
アドラストが去っていってから、その場に残ったレイビアとアムネリアはお互い顔を見合わせる。アムネリアが珍しくにやりといった雰囲気で口角を持ち上げれば、レイビアは苦笑気味に笑って無言の返事。生まれに育ち、そして種族も、異なってはいる二人だが、その心は確かに重なり通じ合っているようであった。
「これからはできることをやっていこうと思います」
そんなレイビアを見てアムネリアはふっと笑みをこぼす。
「そうですね、ではこのまま隠れていてくださいね」
◆
あの後、人間の群れは、魔王軍によって駆逐された。
魔物たちはそれほど凶暴ではない。しかし自分たちに危害を加えてくる相手となれば本気も出す、なぜならそれが自分たちの生命を守ることであるからだ。優しくとも穏やかであろうとも、生命を脅かす外敵に対して大人しくしているほど彼らは情けなくはない。
元来魔物には人間にない力が備わっている。
それゆえ、本気でぶつかり合ったなら、人間側はやはりどうしても不利だ。
人間は力不足を補うかのように兵器を持ちそれを使って戦う――が、それでもなお、戦う気になった魔物たちの前では限りなく無力に近かった。
「やつらは倒したぞ」
「アドラスト様……」
ある日の夕暮れ、アドラストは自らレイビアに会いに来た。
「これでお主が連れ去られることもないだろう」
「良かったです」
「もう安心していい。ただ、しばらくは念のため警戒しておく必要はあるだろうがな」
「そうですね……」
レイビアは素直には喜べなかった。
もちろん、魔王軍の勝利は嬉しい。
でも犠牲はゼロではない。
それがどうしても胸に引っかかってしまうのだ。
自分がいなければ誰も犠牲にならなかったのに――そんなことを思い、暗い気持ちになってしまう。
「どうした? レイビア殿。そのような暗い顔をして」
彼女の表情の薄暗さに気づくアドラスト。
「……その、すみません」
「何だ?」
「私のせいで犠牲が……出てしまったと思うと悲しくて」
首を傾げるアドラスト。
「どうしたのだ一体。誰かから何か言われたのか」
「いえ」
「だがなぜそのようなことを気にする」
「誰にも責められないからこそ、です。私がいなければ、と……どうしても思ってしまうのです」
するとアドラストは「そのようなことを言うな」と低く発した。
「お主に罪はないのだ」
その言葉に、レイビアは一度だけそっと頷く。
「……アドラスト様、あの、お願いがあるのですが」
「ん? 何だ?」
「私にできることがあるならさせてください」
発言が予想外のものだったからか彼はきょとんとした顔をした。
それでもレイビアは目の前の男を真っ直ぐに見つめる。
「私、ここでじっとしているだけというのは、どうしても納得がいかないのです」
「どういうことだ、理解できん」
「たくさんお世話になってきたので少しでもお返しがしたいのです」
「なに、そういうことなら気にするな。誰もお主にお返しなど求めてはおらん」
ちょうどその時、アムネリアが姿を現した。
「陛下、彼女がどうしてもと言うのであればこちらで担当します」
「アムネリアか」
「彼女の希望に応えるなら我々が適任でしょう」
アムネリアは魔王の前でも淡々としている。
「そういうものなのか?」
「そうですね」
「ああ分かった、では任せよう」
呟くように言ってから少し間があって。
「ではレイビア殿、彼女と仲良くやってくれ」
彼は改めてレイビアの方へ顔を向けた。
「許していただけるのですか」
「お主の希望ならそのようにすれば良い」
「それは……! ありがとうございます……!」
レイビアの整った面に光が射し込む。
彼女は深々とお辞儀をした。
アドラストが去っていってから、その場に残ったレイビアとアムネリアはお互い顔を見合わせる。アムネリアが珍しくにやりといった雰囲気で口角を持ち上げれば、レイビアは苦笑気味に笑って無言の返事。生まれに育ち、そして種族も、異なってはいる二人だが、その心は確かに重なり通じ合っているようであった。
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